寿命の見える女 中編

驚嘆していたのを何とか誤魔化そうとして、私は酷くオドオドとあの日は彼に接してしまった。


「あー、あれね。」


ただあの質問を返した意図が知りたい。

そうしたら私の人生に何かが変わるかもしれない。

本当なら生きているだけで十分なのに、私はその時期は命と生きる、死ぬことについて考えていた。


生まれてきた意味は一体何なのか。

この能力は私とって命を蝕み、人の命を操る恐ろしい物だ。

しかしこんな能力にも何か利点があるのかも知れない。


私は彼と長話する機会を奪われないように、彼の席の前に座った。


彼はとても嫌そうな顔をしたが、それはそのときのわたしにとってどうでもいい事だった。



「実は私は昔貴方の家にお世話になったの。父が病気でね。だから気になっただけ。」


嘘だ。

しかし起こった出来事に嘘はない。当たり障りもないから、きっと疑うことは無いだろう。

だが今の私の狼狽える様子は普通の人なら完全に嘘をついているとバレるだろう。


「そうか。」


彼は1寸疑うこと無く信じた。

これが長年コミュニケーションを取って無い人の末路か。

何処か落胆した様子の彼に質問した。


「でもどうしてそんなこと聞くの?」


この質問の答えで何かが変わるかもしれない。

そんな淡い期待があった。

私はこの頃から気づいていた。私の拗れて震えている感情をどうにか出来るのは、彼だけであると。

今考えれば矛盾している。

客観的に見るため、関わらないようにしていたのに、私は彼に救ってもらおうとしている。

主観的にもう見ていたのだろう。


彼は先程まで机に向けていた視線をこちらに向けた。

まさか答えないつもり!そんなの許さない!!


「ほら!あなたにそれを聞く人なんて沢山いたでしょう。だから不思議に感じたの。気に触ったのならごめんなさい。」


強気な気持ちが弱気な言葉に変わっていた。

すると彼は考えたような顔した。

「いや大した理由はない。ただ自分について聞いてこなかったのが初めてだったから。それだけだ。」


何を言っているのか。

しかしこれもなにかの縁だ。

私にとって何かいい事が起きるかも知れない可能性の男。

少なくとも彼と話している時は、生きることに集中していたと思う。


◇◇◇◇


後から考えるに、彼の言葉は常に人に冷たいものであった。

あんなに幼い頃から可愛がられていたのに。

しかし彼とたくさんの言葉を交えていくと分かったことがある。


彼も自分の人生について、自分の役割について、わからないで悩んでいたこと。

――これは私と同じ。

彼は友達が居なかったこと。

――これは全く私とは違う。明るくはないにしろ、1人の日々を過ごしたことは無かった。ははもいたし。

そして等身大の自分では無く、能力有りきの自分を見られていることへのコンプレックス。


私は彼に占い師の寿命を与えることを決心した。

関わっているうちに彼の純粋さに感動し、長生きして欲しいと思ってしまったせいである。


私は占い師に伝えた。

「あなたの寿命を息子さんに讓渡することを約束します。」

それを聞くと大層喜んで、「本当ですか!」と感極まっているのが伝わる。

「しかし私が彼に悟られず、この高校生の間に渡せる寿命は12、3年です。息子さんは50代または伸びて60歳の延長しか出来ません。」

占い師は少し黙りこくり、納得はしきれてない様子で言う。


「まあ確かに主様に気づかれてしまうのはかなり不味いですね。やむを得ないそれではよろしくお願いしますね。」


「すみません。今まで大変お世話になったのに、中途半端にしか願いを叶えて差し上げられずすみませんでした。」


これは本音だ。

私は占い師のことを始めは全く好きでは無かったし、今だってそんなに好きではない。

ただどんな人間でも必ずいい所がある。

私は占い師のそういう所を見つけてしまっただけだ。


同様に私はいつこの人に敬語を使うようになったのか。尊敬するような所を見つけたからである。


大したことは無いが、占い師はそもそも嫁に入った身であり、子どもを守り、お家を守り、自分を犠牲にする。

そのせいで占い師は時に悪魔のように見えるが、自分にそこまでは出来ない。

身体や心が壊れてしまう。


占い師の寿命は幾つなのだろうか。0日と、残り時間が少ない私には心配される言われも無いのかもしれないが。


話しを彼に戻そう。

彼とは毎朝話した。彼は異様に朝の時間が早かった。



「君はアニメの見すぎだ。」と私が能力について聞くといつも呆れ顔で答えた。


「何度も言っているが、君は僕に話しかけない方がいい。」

そしてこの言葉は彼が最も口にした言葉だった。

きっと彼は私が彼の命に関与していることに気づいている。

精々上手く隠せても、寿命を増やす事しかしない存在、母の寿命も何やら減っている異様に完璧に勘づかれないことは有り得ないだろう。


そして彼は1回言っていた。

「進路は町を離れない方がいい。旅行も2週間くらいで1回町に戻れ。」


最初は何を言っているのか疑問に思った。

しかしそれは町が私の命を繋いでいるものだと今になって気づくのは高校2年生だ。

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アイデア ネッシー @1004128j

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