寿命のない女 中編
高校生の3年間、目標を立てて過ごすことにした。
まず占い師の予言を参考にし、母を死なせないのため、母に新しい家族を与えること。
そのため2つの作戦を立てた。
1つ目は私は母に積極的に外に行かせるようにして、恋愛をさせるようにした。
習いごとや会社の付き合いさまざまなことをさせた。
出会いの蕾をつければ、咲く花もあるだろう。
そして高校を出たら東京へ行くと伝えた。
娘が居なくなったら悲しいと思うかも知れない。そんな時には隣に居てくれるパートナーが欲しいに決まってる。
本当は全然そんなことするつもりはないけど。
だって私は足掻いて、20歳ちょいの命だもの。
2つ目は3年間の自分のこと。
正直あのお坊ちゃんに寿命を与えるつもりはこれっきりない。
しかしそれは本当に正しいのか。果たしてそれがそんなに上手くいくか。
その問いを正しく見極めること。
そして刹那的な生き方をすることだ。
私が彼を見かけたのはなんと入学式の時だ。
なるべく関わりたくないのだが、予想より早い再開である。
なぜなら関わったら情が生まれ、客観的な判断が出来なくなってしまう。
私の目標が塵になる。しかしそんな心配は不要であったらしい。
彼は私を異物のような目を向けたあと、ふいっと目を逸らした。
始まりなんて大概大したことは無いが、私にとって寿命なんて与えてやるかと思うような出会いだった。
それから第1の目標の母の結婚について着々と話は進んだ。
母は昔から人を見る目があり、情が深い人だったので、それは計算通りであった。
母は私に相手を紹介しないが、恋する乙女ほどわかりやすいものは無い。
これで安心だなと思っていたのも束の間だった。
占い師は私が寿命を与える気がこれっぽっちも無いことに勘づいていた。
しかしそれはどうしようもない。だって彼は人を挙動不審に避けたり、極端に避けていたりするから、寿命を讓渡する人より価値のある人間に思えなかったのだ。
◇ ◇ ◇ ◇
そういう日々が続いていたら、ある日梅雨明け頃占い師は私に言った。
「お母様に家族の予感がありますね。その方との相性を見てさしあげましょう。その代わりにお願いしますね。」
占い師の望みに対して、私はハッキリと言ってやった。
「お坊ちゃんは本当に誰かを犠牲にしてまで生きるべき人か。本人がそれについて如何に思っているのか知るまでは私は何も出来ません。」
私的には、当たり前のように命を貰う人に絶対に他人の命とはいえ渡したくない。
「五十嵐様、この世の中には、貴方以外にも貴方のような力を持った人は少なからずいらっしゃいます。勘違いなさらないで下さいね。
私共はあくまで20前後で亡くなる寺が支配している町娘だから、このように扱っているのです。
学費免除、資金提供、身元の隠蔽。
貴方の力だから、貴方の仰ることは理解出来ます。しかし私たちの存在も忘れないで下さいね。」
一言だって忘れられない。それ程の怒りが篭った声だった。
すこし涙が流れていたと思う。
私はその帰り道、お坊ちゃんについて考えなければならなくなった。
◇ ◇ ◇ ◇
その翌日。
「ねえあなたって人の寿命が見えるって本当?」
私は彼に突然投げかけた。
私にとっては突然では無いけど、彼にとってはそうであろう。なるべく人が注目していない環境を狙った。
彼は奇妙な女に絡まれた、迷惑だといった表情を浮かべ、嫌そうに言った。
「そうだけど。」
その瞬間会話をしようと試みたことを激しく後悔した。
私が直ぐに会話を終わらせた。
そして寿命の数字を1年程のみ動かした。
これならあの占いに文句も言われないだろう。
寿命を動かす意志を見せたのだから。
私は強制的につップっして寝た。
本音を言うと涙が溢れていたから突っ伏したのだ。
どうしてあんなやつの為に、誰かの寿命を、占い師の命を減らさないといけないのであろう。
命に優劣なんて無いのに。
この頃は私は寿命を知ったばかりであったから、命について考えることが多かった。
そして生きることに集中しようとずっと切り替えていたが、死への恐怖がいつも私の心の何処かに住み着いていた。
こんな奴のために私は死と隣り合わせに生きなければならないなんて、なんて馬鹿らしい。
それから私は彼を特別に避けるようになった。
といっても夏が始まり、彼は学校へ夏休みに行くようなタイプでは無かったため、会うことが無かっただけだけど。
寿命の動きを見た占い師は大層喜ばれていた。
一族揃って私にお礼を言って、高級レストランのチケット2枚分をくれた。
ビンゴの景品と言って、母と2人で行った。
私は美術部で夏休みも毎日学校へ行った。
本音を言うと母がデートに行きやすいように、気を使って外へ出ていただけだけど。
そこで彼と2回目の会話をすることになった。
その日は話し相手すら美術室にいないから、暇で学校を巡回していた。
そこで気まぐれに教室に入った。
彼と目がバッチり合ってしまった。
やばい。なんとなく少し気まずい。
まあ相手は気にしていないか。
てきとうに物探ったフリして戻ろう。
目を離して、ロッカーを漁った。
しかし意外にも彼は私に話しかけてきた。
「なあ、夏休み前なんであんなこと聞いたんだ?」
驚いて何も言えない。
今思えば無視してしまえば良かったと思うことになるが、やはり何も答えずにはいられなかっただろう。
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