寿命を宣言された女 前編
人生とは馬鹿らしい。
そう思い始めたのは幼稚園の頃だった。
私が4歳の頃、1番初めの記憶は父の死の予言だった。
それまでは明るく軽快な子どもだったらしい。
不細工で弄られることはあっても、そいつらを泣かすまでコテンパンにするような子どもだったそうだ。
「五十嵐恭平さんの寿命は1年です。努力次第で2年にはなることはありますが、それだとお子さんと離れる必要があります。」
情の欠片もない言葉をはっきりと無表情に告げた。小さな男の子も座っており、色んな大人が媚びをうっていた。
母は泣きに泣き崩れ、父は全てを理解したような表情で母を支えた。
そして「娘や妻と一緒に居れないのなら今死んだ方がましです。今日ありがとうございます。申し訳ないですが帰ってください。」
と冷たく伝えていた。
父は暖かい人だったので、この時怒っていた。
証拠に後に、本人から「パパの命のことより、娘と1年居ることが悪いことのように言われるのが不愉快だったんだよ。」と頭を撫でながら教えてくれた。
一方で生意気な私は怒りに身を任せ、
「パパのことそんな風に言わないで!子供にペコペコすることしか出来ないくせに!!」
と怒鳴り涙を目に浮かべていた。
初めは冷たく対応(ほぼ無視)していたが、こちらを見た途端に、この世のものに向ける目ではない様子であった。
腰を抜かす者、歓喜の声をあげる者、ヒソヒソと噂話をする者など様子は多様であった。
父を占った人(略、占い師)が戸惑いながら
「五十嵐様、そちらのお子さんの名前は?」
と言うと父は私の腕を引っ張り、身の後ろに隠した。
「貴女方には関係の無いことだ。お帰り下さい。」
父はいつも怒るような人では無かった。
きっとこの人達の不審を感じたのだろう。
誰よりも危機察知能力の高い人だったから。
すると占い師達は帰る支度をした。そして子どもはお辞儀を小さくして、誰よりも早く庭に止めてある黒く大きな車に乗り込んだ。
父は泣き崩れた母を落ち着かせるために私から離れた隙に1人の占い師が話しかけた。
父に寿命を告げた人物だ。
「お嬢さん?パパの寿命についてもっと知りたいことがあるなら、この町の中で1番大きなお寺に来なさい。」
十分といやらしい声だったということは当時の私からも分かった。
しかし嗚咽している母や父を見ていると、私は行くべきだと思わざる得なかった。
占い師が話しかけているのを見るとすぐにパパが私を回収し、占い師を玄関まで送った。
「バイバイ。」
といやらしく笑う占い師の笑みは生涯忘れることは無かった。
――――――
小さな私は3日後に大きなお寺に向かった。
この町で大きなお寺と言われれば、この地区に住んでいる子どもならみんな分かった。
我が家も正月もよくお世話になっていた。
幼い私は大人たちにあの子どものような対応された。嫌に媚びたような対応。
そして私はパパに寿命を宣告した占い師に会った。
「待たせてしまい申し訳ございません。」
「そんな事どうでもいいからパパのことを話して!」子どもらしく私が叫ぶ。
ニヒルな顔をして
「物事には順序がございます。長話しになりますが、しっかりと聞いていて下さいね。」
と言った。
占い師は幼い私に伝えたことは、私の想像したものと大きく異なっていた。
2つのことを話した。要約すると
1つは私は特殊な者であり、寿命を他人に与えることが出来る。父はそれを使いこなせれば、貴方が命ある限り延命させることが出来る。
2つは私の人生を予測することは不可能である。
そしてこれは後の話であるが、高校1年生の頃に知らされたこと。
私は長くとも20歳前後で死んでしまう存在であり、残りの人生を主様に捧げなくてはならない。
私はその主様に命を流すのが、呼び出された理由だ。
しかしその能力が使っても、私の父が長くしないで死んだのは理由がある。
私がその能力を理解し、使うことをやめてしまったせいだ。
父はあれから4年延命した。
本来あるべき命を3年も増やしてしまった。
しかしその3年分は、指定すればその者から、指定しなければランダムに他の人の寿命を奪ってしまうことになる力だったのだ。
主様はある人との出会いにより、40歳位で死んでしまうらしい。
しかしそれでは家系が立ち行かないため、私が彼に寿命を与えなければならない。
犠牲になる人はもういる。ずっと昔から決まっていたらしい。
私のような人は1万人に1人の確率で存在していて、こんなに早く見つかるとは思っていなかったと言われた。
このことは他言無用である。
私はそれを聞いて母に申し訳ないと思った。
母にはもう結婚願望がもう無く、私を育てるために全てを捧げてくれたような人だ。
そんな人が1人でこれから生きていくなんてあんまりだ。
私は母のことを占って欲しいと頼んだ。
するといやらしく「お安い御用です。」と占い師は笑い、母の未来を見た。
母は私が亡くなるであろう事故に巻き込まれて亡くなるらしい。しかし新しい家族が増えたなら、亡くならないという。
そこで直感した。
母は事故に巻き込まれて死ぬのではなく、精神的に参って死んだという意味だなと。
悪趣味な女だ。
死ぬ準備をすることが、これからの私の人生になった。
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