第472話 モレク神の沈黙
モレク本体の異変に、分身体たちもさすがに気が付いたようだった。
ホウライ神族の軍勢の生き残りたちを虐殺するのを
そしてモレク神本体の頭部の角に貫かれた状態のホウライズシトキノオオカミの息の根を止めようと大挙して襲い掛かってきた。
クロードはそれをさせまいと、≪
≪
これならば、いける。
戦場で力尽きたホウライ神族たちと死んだモレク神の分裂体たちの≪
徐々に膨れ上がってきたクロードの内包エネルギーの脅威にモレク神の分裂体たちも気が付いたのか、先ほどまでの余裕はどこかに失せ、次第に怖気づいたかのような態度を見せ始める。
そして十数体ほど斬ったところで、分身体たちの戦意は完全に消失してしまったようで、逃げ出す者まで現れ出した。
『おのれぇ、目障りな死にぞこないどもの首魁め。
突然、モレク神本体が動き出し、絶叫した。
どうやら、ホウライズシトキノオオカミの施した停止状態が解けたらしい。
モレク神本体は怒りに任せ、頭部を激しく振り回し、ホウライズシトキノオオカミの身体を振り飛ばすと、これまでに見せたことのない激しい闘争心を剝き出しにした。
金剛界全体が震えてしまうような闘気の放出に、分裂体たちまでが怯えている。
だが、その凄まじい闘気による威嚇もクロードにはまるで届かなかった。
クロードは自らの存在がもはやモレク神本体をすら上回るということを確信していた。
威嚇ではなく虚勢。あるいは負け犬の遠吠えのようにクロードの目には映っていた。
『ホウライズシトキノオオカミよ……』
身を挺して、モレク神の突進を防いでくれたホウライズシトキノオオカミの肉体は、上下二つに切り裂かれ、白い無重力空間を漂っている。
ホウライズシトキノオオカミはすでに事切れていた。
その表情は、どこか満足気で穏やかであり、クロードに対して微笑んでいるようにさえ見えた。
ホウライズシトキノオオカミの金属でできた残骸からは、彼女が≪時の力≫と呼んでいた、他とはまるで性質を異にする感じがする≪神力≫が光の粒となって放たれ、クロードのもとに集まって来る。
やはりホウライズシトキノオオカミの≪神力≫は、これまで取り込んできた神々のものとはまるで趣を異にする、というよりもまったく別種のエネルギーであるように感じた。
戦いに用いるような野蛮な力ではない。
もっと生産的であり、普遍的かつ根源的な力。
彼女が懸念していた通り、俺の力として取り込めるのか?
例えどれほど特異であろうとも、≪神力≫である以上、≪神喰≫のスキルは効果を発揮するはずではある。
ホウライズシトキノオオカミの眩い
やはり駄目か。
ひょっとしたら、普通の≪神力≫あるいは≪ゲヘナの火≫とは親和性が無いのかもしれない。
そう諦めかけていたが突如、クロードの身に、否、この金剛界全体に異変が起こった。
クロードを中心に黄金色の閃光が
そして、まるで燃え
堪えがたい苦痛と感覚の暴走。
世界と自分が別軸で高速回転しているような異常な認識に思考を支配されたかと思うと、これまで生きてきた長すぎると思っていた人生を何百回も過ごしたかのような悠久の
それらすべてがひとつとなった存在を表す言葉が何であるのか、もはや俺にはわからなくなっていた。
結局、俺は俺でしかないという考えに至ったその時、感覚と認識が現実に戻った。
モレク神はまるで魂を抜かれでもしたかのように、茫然と俺を見つめていた。
『どうした? かかってこないのか』
そう問いかけても、モレク神とその分裂体たちは何も答えず、きょろきょろと見回すばかりであった。
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