第66話 中途半端

翌日の朝、テーオドーアがユーリアとアルマを伴い、部屋にやってきた。


「救世主様、お会いしたばかりで残念ですが、お別れの挨拶に参りました。ザームエル或いは使いの者が昼頃には到着すると思いますが、私は娘と里の者九名と共に、奴の居城に参ります」


テーオドーアとユーリアはすでに身支度を済ませているようで、村の族長とその娘にふさわしい落ち着きを見せていたが、アルマは目を腫らし、涙の跡が残った顔で下を向いていた。


「このようなことを頼める立場でないのは分かっていますが、もし許されるのであれば、救世主様にはこの里に残っていただくわけには参りませんでしょうか。そして里の信仰の象徴として、若いエーレンフリートや他の族長たちと協力して里の安寧を守っていただきたいのです」


なるほど、救世主と呼び、過分な扱いをしてくれていたのはそういう期待もあってのことだったのか。

しかし、保護してもらった恩は大いに感じるが、この里に残る気はないし、何よりオルフィリアたちの安否を知るためにも、できるだけ早く王都に戻りたい。


「申し訳ありませんが、それは出来ません」と断りを入れようと口を開きかけたが、テーオドーアに遮られてしまった。


「いや、申し訳ない。あなたにはあなたの帰る場所がおありなのでしょう。ただ儚い希望を述べてしまっただけです。私の戯言など気になさらず、あなたの道をお進みください。帰るための食料や装備などできうる範囲で協力するように若長たちにはすでに申し付けております」


テーオドーアは少し残念そうな様子でユーリアたちと共に部屋を出て行った。



テーオドーアたちの置かれている状況を考えると、何とかして手を貸してやりたい。

しかし、今回のザームエルの要求を一度はねのけたとしても、それで終わるわけではない。目的を達成するまで奴らは何度でも来るだろうし、報復としてさらなる難題を突き付けてくることだってあり得る。

中途半端に手を貸すのはただの自己満足になってしまうし、ただの偽善だ。


やるならば徹底してこの里の人達が支配下から逃れられるぐらいにやらなければ、テーオドーアの言う通り悲劇が増してしまう。


それと気になっているのがエーレンフリートだ。

彼がどんな人間かわからないが昨日見た感じではなにやら危うい感じがした。

もしテーオドーアやユーリアの引き渡しの際に暴挙にでれば、戦闘になり里の人にも被害が出る上、二人の命にも危険が及ぶかもしれない。


クロードは、アルマを探し、エーレンフリートに会えるように案内してほしいと頼んだ。

アルマは、ザームエルたちに手土産として引き渡す物品の荷造りを手伝っていたが、快く引き受けてくれた。




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