第65話 四六時中

宴で出された料理は見た目こそあまり良くはなかったが、食べてみたら結構旨かった。味付けはほとんど塩や胡椒によく似た香辛料だけだったが、余計な味や風味がない分、受け入れやすかった。おそらくこの森でとれる生き物というかモンスターなのかもしれないが、調理法も焼いたり、煮たりとその素材に合った方法でシンプルに作られている印象だった。


クロードは腹をさすりながらユーリアが整えてくれた寝台に寝ころび、岩をただ削っただけの殺風景な天井を見つめた。


ようやく一人の時間がつくれた。


人間という生き物はつくづく不思議な生き物だと思う。

孤独でいるときはあんなに人恋しくなるのに、四六時中周りに誰かが傍にいる環境になると、途端に一人の時間が欲しくなる。


この世界に来てからほとんどの時間を誰かと旅をしたり、元の世界では考えられないようなとんでもない状況に身を置く羽目になったり、新しい環境に適応したりしなければならなかったので、こうしてゆっくりと物思いにふけることなどできなかったように思う。

ただ目の前の出来事に流されて、漂流し続けていたようなものだ。


カレンダーのようなものがないので、この世界に来てから何日が経ったのかすらわからない。本当はそういうのは数えておくべきだったんだろうが、毎日新しいことについて行くのがやっとで、そこまで頭が回らなかった。


他にもこうすべきであったということがたくさんあるのだろうが、この世界のルールをインプットするだけで正直手いっぱいだ。

もっと頭のいい人なら自分なんかよりずっと上手くこの世界を把握し、元の世界に帰る方法も見付けられるのかもしれないが、自分には皆目見当もつかない。


この世界にも就活のアドバイスをくれる大学OBの先輩のような存在がいてくれたらどんなに良かったかなどと思う。


この里の状況についても、どう対処すべきか迷っていた。

気を失っていたところを保護してもらった恩はあるが、自分は完全に部外者だ。

彼らの境遇には同情はすれども、積極的に介入するべきかは判断が難しい。


ユーリアやテーオドーアがザームエルの虜囚になることをいいとは思っていない。

自分には兄弟はいないが、あのエーレンフリートの憤りも共感できる。

だが、自分としてはオルフィリアたちの安否確認や冒険者としての活動を考えると少しでも早く王都に帰りたい。


戦闘に巻き込まれることは、望まない≪恩寵≫の発生に繋がり、さらなる記憶の消失に繋がる。

ザームエルとの戦いは今のところ記憶の喪失を感じさせないが、正直どの記憶を失い、失っていないのか、確認する方法がない。

そして、今ある記憶が元の記憶と同じである保証もないのだ。


備忘録でも作っておけばよかったなとクロードは後悔した。








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