第16話 恩寵

「ところでクロードさんは、スキルをお持ちではないですか。書くべき技能が少ない人はそういったスキルを明示することも自分の宣伝になるのですよ」


この世界では、誰しもが一つ以上、生まれつきのスキルを持っているとのこと。

スキルというのは、過酷な世界を生き抜くために神々が人間たちに与えた加護なのだという。経験や努力によって授かることもあるらしく、一人で十を超えるスキルを所持する強者もいるらしい。


「熟練の冒険者の中には、同業者に手の内を隠すため、スキルを秘密にしている方もいらっしゃいますが、クロードさんは駆け出しの冒険者ですし、少しでも良いパーティからの求人を得るにはスキルの公開をされるのも一つの方法だと思いますよ」


「スキルというのはどうやって確認するのでしょうか?」


なにかまずい質問だったのだろうか。

男性職員とオルフィリアはとても驚いた様子で一斉にこっちを見た。


「最近頭に大きなけがして、記憶が曖昧らしいの」

慌ててオルフィリアは助け舟を出す。


男性職員は少し納得したようで、丁寧に説明してくれた。

エルフや人族などの光の神々が作った種族は、その努力や経験により、『恩寵』と呼ばれる現象が起きる。『恩寵』が起きると、天から神々しく輝く啓示がなされ、新たな力を授かり、成長する。

その啓示は頭の中に浮かび上がり、その時に自分に授かっているスキルを確認することができる。『恩寵』の回数は個人差があり、基本的には回数が多いほど、その道の達人であるとされている。

『恩寵』の仕組みについては謎が多く、人々は神の御業だと信じている。

また極稀にではあるが、他人のスキルや能力を鑑定するスキルもあり、それを使って人物鑑定を生業にしている人もいるとのことだ。


恩寵はRPGでいうところのレベルアップだと思えばいいのだろう。

能力が数値化され、神様に特技を貰う。

神の御業と信じられているようだがそれも本当だろうか。

信仰心の有る無しは、レベルアップ時の効果に影響あるのだろうか。

もしそうだとするならば、神様の名前も知らない、信仰心もない俺はレベルアップしてもまるで向上しないことにはならないか。


「スキルについて興味があるのであれば、先人たちが残したスキルに関する書物が資料室にございますから、後ほど利用されてはいかがですかな?」


男性職員に説明してくれたことへの礼を言い、記入内容は今のままで提出することにした。手数料と再発行費用を払えば、記入内容の変更は可能ということだった。


オルフィリアはどこかのパーティに入るつもりはなく、俺と二人でパーティを結成を考えている旨を伝えた。


「パーティ名は二人で話し合って決めたいので、決まったら後日また来ます」


オルフィリアの言葉に、男性職員は非常に残念そうな様子だった。

聞けばとある冒険者に魔法の使い手を見つけてほしいと強く頼まれていたようで、オルフィリアが登録に来たことで解決するのではと期待していたそうだ。

その冒険者は、パーティの欠員が発生して、現在受注している仕事が中断してしまっているとのことだった。魔法を使える人材が必要なのだという。

男性職員はあきらめきれない様子で、最後までオルフィリアにしつこく頭を下げ続けていた。あまりのしつこさに何か裏があるのではないかと勘繰りたくなるほどだ。


これだけ熱心に勧誘を受けているところを見ると、冒険者業界で魔法を使える人というのは本当に貴重な人材であるようだ。

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