第12話 完食

『幸運の枝』亭の隣の食堂は繁盛していた。

宿屋の主の娘夫婦が切り盛りしているということだったが、あの給仕をしている女性がその女性だろうか。よく通る声で接客している。

店の中はそこそこ広く、清潔で明るい雰囲気だった。

街道沿いの町ということで、客層は様々で、その多くは旅装だった。

肉や魚の焼ける香ばしい匂いが店内に充満している。


日暮れ前の早い時間にもかかわらず、ほぼ満席という状況だった。

店の給仕に勧められるまま、壁際の小さなテーブルに座り、渡されたメニューを二人で見る。

オルフィリアは野兎のスープとパン。それに野草のサラダとワクラム水を頼んだ。

ワクラム水というのはこの辺りでとれる柑橘系の果物を絞り、水で割ったものだそうだ。


メニューの文字は読めたが、それがどんな料理か見当もつかなかったので、オルフィリアに頼み、安くて肉多め、ボリュームがある料理を頼んでもらった。

本当はこの世界のお酒も飲んでみたかったが、全て彼女のおごりなのでさすがに遠慮した。


料理ができるまでの間、先ほどのワクラム水を二人で飲みながら、今後のことを話し合った。

ワクラム水には、ハーブのようなものも入っており、飲むと口がさっぱりした。

チューハイとかこの味で作ったらうまいかもしれない。


今後の予定は、まず服屋に行き、身支度を整えたら、ギルドに行き、冒険者登録を行い、その後、俺の武器や防具、旅に必要なものを買い揃えに行くことになった。


「先行投資よ。収入が得られるようになったら、少しずつ返してくれたらいいわ」


ヒモにでもなったようでいたたまれない気持ちになっていたが、彼女の無邪気な笑顔に励まされる。


しばらくすると、彼女が注文した料理が運ばれてくる。

少し遅れて、俺の目の前に置かれたのは、大きな鳥の丸焼きの中に香草とバター、お米のような粒上の穀物を詰め込んだ料理だった。

迫力ある見た目と香ばしい匂いに食欲を刺激され、唾液があふれ出てくる。


「じゃあ、いただきましょう。森の神の恵みに感謝します」


オルフィリアは胸の前で手を組み、目を閉じていった。

日本でいうところの「いただきます」のようなものか。


彼女に倣ってあごの下で手を組み、森の神に感謝をした。


彼女が頼んでくれた料理は、ボリューム満点で、ナイフとフォークで肉を食べやすい大きさに切り、上にかかったソースとお米のようなものを混ぜて食べた。


口の中に様々な食材のうまみが溢れ出て、料理を口に運ぶ手が止まらない。

夢中になって胃袋に放り込んでいくと、あっという間に完食してしまった。


お代わりを頼んでくれたワクラム水を一息に流し込む。


彼女はまだ食事の途中で、驚きながら俺が餓鬼のように料理を貪る姿を見ていた。


「気持ちのいい食べっぷりね。その料理、普通の人の四、五人前はあったわよ」


彼女は、俺が食べる様子がおかしかったらしく笑い出した。

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