第12話

 そのころ黎明さんは




「太陽がまぶしい」


 有名な映画のセリフを吐きながら、散歩途中で襲ってきた殺し屋につまようじを五発、連続で打ち込んでいた。


 映画で撃ったのは銃だし、殺されたのはアラビア人だが、今回投げたのはつまようじだし、殺されたのは白人男性だ。だがそんなこと、黎明さんにとっては微細な違いだ。


 話を三分前に戻そう。


 黎明さんは昼食を作る前に、近くの公園まで十分ほどの散歩(往復10km)をする日課がある。木々がたくさん生えていて、よく言うと緑豊かな、悪く言うと荒れた公園がある。


 近所の子供たちが遊んでいたりもせず、買い物帰りの主婦がおしゃべりしていたりもせず、黎明を除けばお爺さんが散歩していたりもしない。


 誰もいない、住宅街の片隅で忘れ去られた静かな公園だ。


 トイレとベンチ以外、遊具らしい遊具すらない。


 黎明の趣味は、そこのベンチに座りながらのんびりすることだが、あいにく今日は、少し陽光がさしているとはいえ曇り空で、黎明は少し残念な気分だった。


 せっかくなら、心地よい青空の下でのんびりしたかった。


 黎明が座っているところに、一人の白人男性が近づいてきた。こんな公園に人が来るなんて、と思いながら会釈すると、その白人男性はスーツのポケットから銃を取り出した。


 銃器オタクの観光客かもしれない。黎明はまだ動かない。


「you die!」日本語にして「死ね!」と言うと、挨拶もなしに発砲した。もしかしたらさっきの一言があいさつなのかもしれないが。


「いくら何でも、暗殺の方法が無茶苦茶すぎるだろ」


 黎明さんはそう言うと、軽く伏せて銃弾をやり過ごす。


 素早くつまようじを取り出した。


 そうして今に至る。黎明さんは一瞬にして白人男性を殺すと、そいつをトイレに運んで便座に座らせた。しばらく見つかることはあるまい。


 そしてその場を立ち去った。


 黎明さんはホテルに帰ると、ホテルの奥の方にある従業員部屋で軽くシャワーを浴びた。


 襲われたせいで、少し散歩が長引いてしまった。一刻も早く料理を作り始めたいが、人殺した後の汚れた手で作られた料理は、殺し屋だって食べたくない。


 風呂から上がると、常に衛生的に保たれている厨房に入った。


 ガスコンロ、食器棚、おなじみの巨大調理器具一式、冷蔵庫、常温保存する用の食材を入れる棚。大きさにして二十畳の広い厨房にあるのはそれだけだ。


 黎明さんはまず、パスタ用の麺を取り出した。それを巨大鍋に突っ込んで煮る。


 フライパンでオリーブオイルを熱してベーコンを炒める。みじん切りのニンニク、クリーム。食材がどんどん料理になっていく。


 今日の昼食はカルボナーラだ。黎明さんは、鼻歌を歌いながらベーコンを炒めた。



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