第30話 限られた命を作り出す時

沙羅は、八の頭を抱きしめ、叫び泣いていた。彼女の体は、不完全な状態になっていたが、沙羅は構わなかった。長い柄の鎌を手の中に召喚した。

「沙羅!何をするの?」

沙羅は、恐ろしい顔で、瑠眞を睨み返した。

「あなたと私の力は、どちらが、上なのかしら?」

「何をバカな事を?」

「終わりと始まり。。。それが、私達に与えられた事よね」

沙羅は、長い柄を目の前で、クルッと回した。

「沙羅!やめなさい。今のあなたの体では、無理よ」

「やって、みなければわからない」

沙羅は、片手で、柄を回していた。もう、片手で、八の頭を固く抱えたまま。

「冥府に、命じる。しばし、時の流れを止めよ。」

「沙羅!」

鎌の刃先から、幾つもの、光が、走っていって。細く、長く、薄いピンクや青い光もあった。

「黄泉に行くこの者の魂を止めよ」

「沙羅!」

沙羅の体から、細かい光の粒が、両手に注がれていった。細かい粒子が、鎌の刃先から、八の額に注がれていく。

「八宮 駿。時間は、少し戻ります。限りのある時間、自分の運命を変えなさい。変える事が出来なければ、地獄の犬に、食い殺される」

額に注がれた光は、今まで、八の体の中を流れていた血液のように、八の体に繋がっていった。光は、渦巻き、八の頭と体を結び、何事もなかったかのように、1人の体を作り上げていった。八の体が、元に戻るのと同時に、沙羅の体は、砂のように崩れ落ちていった。

「これで、いい」

沙羅は、最後の力を振り絞り、八の姿を何処かへと、送った。それを見届けるかのように、八の姿が消えると、冷たい地面に小さな砂つぶとなって落ちていった。

「沙羅。。。だから、言ったのに」

瑠眞は、自分の体も、消えかかりながらも、沙羅の消え入りそうな体に触れようとしたが、瑠眞の手が触れようとすると、拒否するように、消えていった。

「最後まで、、嫌われているのか」

瑠眞は、残された沙羅の体だった、砂の山を見下ろしていた。

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