第12話 オーナー

五野病院についた三人は、受付で聞いた3階の6人部屋の入り口で城生野 沙耶という名札を確認してから中に入る。


晴が、先頭に立ちオーナーの顔を確認しながら進む。

窓際の一番奥に、座位になった50代後半位の女性とその傍らのイスに座った20代位の女性に目がいった時に足が止まる。

「沙耶さん」


「あら、晴ちゃんどうしたの⁈」ベットに座った女性が、晴に気づいて声をかける。


「オーナー、私病気だなんて今まで知らなくて。顔が見たくて店に通っていたんです」ベットに座った、随分やせた沙耶を見て涙が出そうになっていた。


「あら、ごめんなさいね。すぐ、復帰したかったんだけど…糖尿病で入退院を繰り返していて、あの子たちに店は任せっぱなしで。今日はわざわざ来てくれたのね。私も晴ちゃんの顔が見れて嬉しいわ」ゆっくりと、以前の笑顔で話してくれる。


「あ、母の知り合いですね。来てくれてありがとうございます。私、娘の桃子と言います。すみませんここ狭くて、イス借りて来ます」横に座っていた女性が出ていこうとする


「あ、気を使わなくても結構です。あと、出来れば別の部屋でお話を出来ませんか?」店長は、沙耶と晴に声を掛けて佳代子と部屋を出る。


「店は、上手くいってるみたいね。ちょくちょく病室に寄ってくれてるの、店の子たち」晴と二人きりになり沙耶が声を掛ける。


「‼」 オーナーは、店の状況を何も知らないんだ。私が、追い出したようなもんなのに…。とても申し訳ない。何も肝心なことをいえないまま、沙耶が幾分気をつかってくれて時間は過ぎた。私ったら病人に気をつかわせて、本当にバカだ。


□◆◆◇◇


自動販売機がある休憩室で店長、加代子、桃子の3人は、初対面だと言うのにかなりたてこんだ話をしていた。

母のお店であるニコニコバーガーの店員が全員辞めたこと。そして、常連⁈の晴とその友達で店番をしていたことや、自分たちもお客に過ぎないがほっとけなくて同業者としてお節介を焼いて病院に来たこと等


桃子さんは、我々の話を時おり口を挟んだりしてじっと、聞いていた。


「私 正直言うと、母と折り合いが悪くて父と離縁してからは私を溺愛していてそれが子供の頃からすごく嫌でした。高校卒業して、他県の大学に進んでそのまま就職して結婚しました。病院から連絡が来るまでもう、10年以上母にはあっていません。ハンバーガー店のオーナーであることも知りませんでした。昔からなんでも自分で決めて行動するタイプでしたから、私の事も…。今回も病院に来ることを正直迷いました。夫から、最後になるかもしれないと言われても…」


「そうですか。我々はあなた達の親子関係にまで口を挟む気はありません。ただ、同業者としてニコニコバーガーを続けて行ってほしいのです。当初の主旨は素晴らしいものです」と言ってはカバンから取り出した、パソコンを開く。

目の前の画面には、開店当時の写真と紹介が載っていた。

フランチャイズに頼らない、自らの視線とセンスで‼をコンセプトに、メニューにも定番ものから店内オリジナルの商品等が写真とコメントでこれからの期待できるお店として紹介されている。


「私に過度の期待を抱き、夢破れたんでしょう。そして、今度は無謀な賭けに出た。まったく笑えますよね。商売のイロハもしらないくせに…。これ以上、人を自分の夢に巻き込むのは止めてほしいです」表情は、強張ったままだ。


「私はオーナーに店をつづけられる、提案をしようと思っています。それは、あなたに了承を得なくてもいいんですか?」店長は私的な話には一切かかわらず、店の話だけを進めていった。


「はい、私はここに来たことも後悔しているんです。勝手にして下さい」無表情な顔を崩さないまま、桃子さんとの話は終わった。








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