第12話 ニコニコバーガー 2か月後

「いらっしゃいませ。」にこやかな接客と、リニューアルオープンで割引価格もあってか店内は大勢の客で賑わっていた。そして、その応対に○○支店から哀川店長と、凛子が応援に来ていた。


「店長、接客応援に来てくれたんですね。げっあんたも一緒か?でも、うちのスタッフはあんたみたいのばっかりだから修行だよ」と、佳代子は凛子に笑顔を向ける。

◇◇◇


オーナーの病院に行ってから、店長の対応が早かった。本社に掛け合い、ニコニコバーガーを名前も残して対等合併する話を持ち込んだ。もちろん、オーナーも快く了承してくれた。

「私は、娘に夢を押し付け過ぎてね。でも、病室に来てくれただけで満足している。もうあの子には、あの子の人生があるんだなあって。今さら、親子の距離は縮まらないかもしれない。それでも、私がしてきたことだから仕方がないんです。

あなた達はたまたま店に来てくれただけなのにこの店が残るように尽力を尽くしてくださって本当に感謝してます。

あなたがたに教えてもらうまでは、店の事情をまったく知らなくて。それも晴ちゃん達がこんなに心配してくれていたなんて。それに、成田さんもここのマネージャーとしてあの子たちと店を続けてくださるなんて。本当にどう感謝すればいいのか」弱々しい身体に痩せこけた顔だが、嬉しそうだ。

◇◇◇


「すみません。お手伝いに入る前に、ちょっと店の様子を撮らせてもらってもいいですか。宣伝になるんで」凛子は、そういうと携帯を片手に外に出ていく。


「彼女、何してるの⁈」佳代子の顔に、だんだん怒りが表れてくる。


「ほら、まえ見せたでしょ。バーガー店のランキングのブログ。実は彼女が、書いているんだよ。リニューアルオープンは、いい宣伝になるからって張り切っているんだ」店長が、慌ててほろうする。


「えっ、すごい‼ あのブログ彼女が書いたの⁈ 」彼女は、感心するように店のガラスの越しに駐車場で写メを撮っている凛子を見つめている。

先ほどの態度とはまるで正反対だ。感情がわかりやすいと、俺は苦笑する。


店の3日間のオープン記念特売は大盛況に終わった。


「お疲れさまでしたー。店長と凛子、二人がいてくれて本当に助かりました。○○支店も忙しいのに、本当に感謝しています。店長は元からすごいと思っていたけど、凛子もかなり動きが良くなっていて助かったよ。それからまだあの時のことを、謝っていなかったから今誤るよ…。ごめんなさい」急にかしこまってお辞儀をするもんだから、他のスタッフの注目を浴びる。


「いいえ。私あなたと同期なのにあなたと比べて、ううん。他の誰よりも私ったら本当に仕事が出来なくて、それでもこの仕事が好きで辞められなかったの。あの日あなたの言ったことは的をえていて心に突き刺さったから、店を辞めるべきだと思っていた。店長は他の支店に行く話もしてくださったけど…できるなら、この店とみんながいる場所がよくて…」一つ一つ、言葉を絞り出していくような凛子。


「うふふ、でもこの☓☓店の従業員募集の呼びかけで私がいち早く抜けたから、厄介払いができたでしょ。本当はね、この勝気な性格の自分を自分で一番持て余すことがあるの。気づくと、周りがドン引きでね。どうして私は、こんなに正しいことをしているのにわかってくれないのかって。こんな私だけど、店長のポストまで用意してくれて…感謝しきれないです」次の言葉を待ちきれないように早口で喋る佳代子。


「本当は、二人ともりっばな戦力になるからいてほしかったけどな。でも、いつでも戻ってきていいからな。かわいい子には旅をさせろだよ」と、店長がその場を収める。


「うっぷ。何、そのセリフ。おじさんっぽい。私たちは、子供ですかあ⁈」佳代子が、思いっきりからかう。凛子も、周りのスタッフもつられて笑う。


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