第1話招集

 園田大尉は長らく海軍の補給部隊として派手な戦闘とは無縁の日々を過ごしていた。彼の家が軍に多額の出資をしていたからである。そうでもなければ、自転車さえまともに乗れない人間が軍学校を出て大尉にまでなれるはずもない。学生時代、何度も挑戦したがやはり自転車には乗れなかった。

 軍務局長山本善雄は軍令部にガダルカナル島奪還のための部隊創設を構想するが、他の戦局からしてさける兵力はないとみなされ、何とか確保できたのは潜水母艦たった一隻だった。そしてその艦長を探すが、戦争末期の将校の中にこの 無謀な作戦に志願するものはおらず、この状況が山本の持病悪化の引き金となったことが語られることはなかった。唯一この件を受け入れそうな人物こそ自転車に乗れない男だった。園田が軍に入った理由はただカッコいいからという何とも単純なものだった。

 山本は海軍本部に園田を呼び出した。山本は本部に向かう道中の車の中で秘書官に言った。

 「自転車に乗れない人間を潜水艦にうまくのせれるだろうか。」

 秘書官は答える。

 「私なら話の席に芸者が二人ばかりいればいかだに乗って出撃してしまそうですが。」 

 「そうかその手があったか。」

 二人の悪い笑い声が大衆乗用車の内に響いた。

 

 園田はナンパ歩きで海軍本部の廊下を進んだ。意図して彼はこの歩き方をしているわけではない。歩くときに手と足が同時に出るのは幼少期からの癖で、どうしてもなおらない。それだけ運動神経がないということだ。

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