白竜

マッピー

第0話birthday

 その日、金色のソラに白き竜は瞬いた。

 まるで、人の鼓動のを奏でるようにそれは飛んでいた。 


 1944年12月

 彼が目を開けて初めに見たのは木目の天井だった。

 病院の蕎麦殻の枕は硬く、染みついたクレゾールのにおいは鼻を曲げる。時折曇った板ガラスの窓を上手く通り抜けた光が宙を舞う埃に反射して彼の目に入った。12月の夕暮れというのに、その日は暑かった。

 彼はベッドに仰向けのまま、天井に手を伸ばした。日焼けやシミのない真っ白な大きな手だ。

 

 (自分はどこのだれで、なぜここにいるのだろう。)


 あわってて白衣の男がベッドに駆け寄った。男はベッドに体を乗り出して彼の顔を見た。そして、目があったとき洗面台から水が抜けるように男の頬が緩んでいった。

 「Bellissima!美しい!Alleluia」

 イタリア人の男は彼の何かに感謝していた。彼はその瞬間全てを悟った。彼にはなぜかすべてが自分の体験のようにえていた。ただ一つ自分の正体以外は。なぜかそこだけ男の記憶をたどることができない。


               『自分の記憶がない。』

 

 奥の建付けの悪い扉が耳障りな音を立てながら開き、眩しいほど真っ白な軍服を着た髭の男が誇りをかき分けながらベッドに近づいた。その男は日本人で、軍服にはこれもまた眩しい金の色の装飾があった。その男も彼の顔を見た。

 「ミッチェナー博士。完成しましたか。」と軍服の男が尋ねると、白衣のイタリア人は答える。

 「いいえ、ツバサは完成したのではなく、生まれたのです。」


 ミッチェナー博士は、イタリアで革命がおこったことで自らの研究の感じ、日本に亡命した。日本帝国海軍は彼のある技術を欲しがった。そして、博士は日本でツバサを生み出すのだった。

           『これがツバサの誕生だった。』

  

 

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