第4話 別れと転生
私は長く短い夢から覚醒した。
草木の香りを含んだ温かい風が、五感を刺激した。それと同時に、身体と意識があることを理解する。
しかし、身体は怠く重い。頭は、鈍く痛い。
動きたくないと全身が訴えかけてくる。
そんな私に、目を瞑っていても感じるほど、強力な光が攻撃してくる。その眩しい光の正体を確かめるため、目を開けた。
おかしな事が起きていた。
私は陽光が入る部屋のベッドの上で横たわっていたのだ。
そして、私は先程の恐ろしい炎の光景との差に驚きながら、しばらく虚ろな意識のまま、風の香りに癒やされていた。
完全に意識が戻りかけた刹那。
強烈な頭痛と共に、他人の人生を盗み見るかのように、知らない世界で『自分ではない自分』が暮らしてきた情報が読み込まれていった。脳にではない……私という存在に情報が落とし込まれていくそんな感覚だった。
そして膨大な記憶の混入により、自分がどちらなのか、誰なのかを見失ないかけてしまった。
「オレは誰だ?」
「オレは……ユウ オルティスか?」
「いや、違う……違う!! 私は一ノ木 夢羽だ」
形容し難い苦痛に耐えていると、少しだけ頭の痛みは引いて、冷静に考える余裕ができた。
私は頭がおかしくなったのか……。先程まで、ホテルに居たはずだ。
でも、ここはオレの部屋だった。
クソ……なんだか気持ち悪い。身体に違和感があるからだ、体格や感覚などの微細なズレが気になる。いや、それだけではない記憶がグチャグチャだ。
まだ気を抜けば、私を見失いそうになる。
分からないことだらけだった……。
しかし、いまは確認を急いだ。
オレは上手く言うことが聞かない身体を引っ張り上げ、確認するために部屋にある姿見の前まで向かった。
額から汗が流れ、床に落ちる。
嘘であってほしかった。
やはり……オレの目に写ったのは、私ではなかった。
私は植え付けられた、覗き見た記憶の持ち主『ユウ オルティス』になっていた。気分が悪いのも当たり前だ。この肉体は先程までの『一ノ木 夢羽』の体ではないのだ違和感はあるだろう。
そして、この詳細で現実的な記憶。
知らない言語や国の知識、この世界の常識。さらに、友達や家族との思い出がある。これは、私の……つまり夢羽としてのモノではない。
「なんだよ……これ」
私は再びベットに、崩れ倒れこんだ。
身体の不調を言い訳に、受け入れられない現実から逃げるためだ。
ありえないことだ。しかし見た物、感じている物を信じるしかない。
今まで得た情報をもとに考えられるのは、私が死んで別の誰かに成ったか、火災の事故により頭がイカれて幻想を見ているか。
もしくは可能性は低いと信じたいが、逆に今までの夢羽の人生がすべて、長い夢だったかである。私は元々、ユウであったということだ。
「うそだ……そんなのありえない、うそだ」
私は『一ノ木 夢羽』としての人生や陽月との思い出が全て虚像だったとはどうしても思いたくなかった。
そのようなことを意味もなく繰り返し考えて、数十分がたった頃。
私はこんな現実を嫌い、眠ってしまって夢の中に逃げようとしていた。
もしかしたら、寝たらこの世界から開放されるかもしれない。元の世界に帰れるかもなどと、後ろ向きな考えからだ。
すると、下の階から……。
「◎△$♪×¥●&%#?!」
(翻訳 : ユウ〜! いつも出掛ける時間をとっくに過ぎてない? いい加減起きれば?)
聞き覚えがある声で、理解できない聞き取れない話し声が聞こえてきた。
声は最初、優しい口調であったが、段々と力強さを増し、不機嫌な足音をドンドンと立てて、こちらに近づいてくるのがわかった。
その理解できない声に動揺したが、その声の主が誰なのかを、体は知っていたらしく不思議と冷静さを失うことはなかった。
声の主はドアの向こう側に立ち、ドアを叩いて喋りだした。
「●&$♪×¥%#?◎△」
(翻訳 :ちょと……ユウ? もう勝手に入るわよ?)
この声つきは、やはり……。
向こう側で声を発していたのは私の……いや、この体の主であるユウの姉のユリさんであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます