双子

もう日が落ちようとしている夏の日、あたしは土くれの道を、青いつなぎを着た有髪の田中に連れられ彼の住居に案内された。


芸術家が建てたものだと言えなくもない変わった造りのビルの3階が彼の住居だった。というか、そこは、あたしたちの会社にかつてあった国内営業部のフロアーだったのだ。

机やテーブルが隅に片付けられた国内営業部の向こうで、床に敷いた防災用の毛布にぺたんと座っているゴージャスちゃんを見た時、私はいろいろと理解した。


「まさか昆布までイレーズするとは思ってもみなかった」

「やっぱり、イレーズだったんだ。田中もだよね」

「うん」

「いやいや。死んだかと思ってたよ。二人、よかった」

「今頃は昆布が向こうで死んだと思われてるな」

「そうだね。生きてるんだね、イレーズしても」

「うん。それで、あの、昆布にはまず謝らないとならないことがある」

「不要。全部理解した。大丈夫。おめでとう。そりゃ、いつもそばにいりゃ好きになる。むらむらする。子供だってできる」


ゴージャスちゃんは、年月を経て大分黄ばんだブラウスの中からやっぱりゴージャスなおっぱいの左右を、双子らしい赤ん坊に与えていたのだ。


「昆布さん。よくいらっしゃいました。すいません、こんなかっこで。それからすいません。私、略奪婚しちゃった」

「違うよ~。ゴージャスちゃん。田中、お前、どう説明したんだよ」

「ゴージャス?私のこと?」

「あ。うん。そういえば、ゴージャスちゃんも彼氏いたんじゃないっけ?」

「はい。でも、もう、会えないですもん。過去にこだわってもしょうがない。今が大事です。私もちゃんと承知の上、明さんに略奪してもらったんです」


田中にとっては、おそらくこっちの方がよかった。

私にとっては、ううん、よくわからん。ただ、嫉妬とかなんかよりも、また田中に会えたことは単純にうれしいね。


田中はご飯を作りに給湯室に行ったので、あたしは子供におっぱいを上げてるゴージャスちゃんと二人きりになった。


「あのさ。ちょっと説明してもらえるとありがたい。これ、全然わかんない。まず、ここはどこ?」

「あ。じゃ、一つずつ説明します。私も来た時は面食らいました」

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