結婚

「俺は昆布と飲んでで楽しい。話も合う。喧嘩もしたことがない」

「まあ。いわれりゃそうだね。あたしも田中といると楽しいね」

「そして、こんな風に過ごしてきてもうすぐ30歳」

「だね」

「タイムリミットという横軸、限られた選択肢という縦軸」

「ああ。田中の言わんとすることは分かる。手近ですますとか、そういう感じでも多分ない。こんなに気が合う人間と一生添い遂げるのは悪くないと」

「うん」

「う~ん。でも、何か欠けてねえ?田中」

「何?」

「田中がゴージャスちゃんに感じたものだよ。恋心」

「それな。それだけがな」

「大切だ」

「うん」

「例えば、あたしらが結婚前提で付き合うとする。そうするってえと、まず問題になるのが、セックスだな。キスとかもしねえとなんねえ」

「そっか」

「できるか?あたしと」

「ううん」

「あたしは自信ない。笑っちゃうよ、どうしても。タコ坊主が唇突き出して、うーんって。ほらお祭りで売ってるじゃん。ひょっとこのお面」

「昆布、お前ちょっとひどい」

「色っぽいムードでベッドインして、下になったあたしが目を開けた途端、てってれー♪あ、つるぴか」

「おい」

「まあ、はた目にはゴージャスちゃんからの乗り換えだからね。田中だけを最低男にしないためには、こんぐらいあたしが言ってもよかろう。でもね」

「ん?」

「いい提案だと思う」

「そうか?」

「まあ、ちとわからんね。頭整理する。少し時間くれない?」

「うん」

「前向きに検討させていただきます」

「ありがとう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る