15.ダンシャクを使ったコロッケはいかがですか?【後編】



 早速だが、調理を開始する。

 まずはじゃがいもは皮をむき、4等分に切る。鍋に入れてかぶるくらいの水を加え、ふたをして中火にかけ、竹串がスーッと通るまでじゃがいもをゆでる。

 玉ねぎはみじん切り、付け合わせのキャベツは千切りをして盛り付ける。

 フライパンに油大さじ1/2を熱し、玉ねぎを透き通るまで炒め、合びき肉を加えて炒め合わせる。火が通ってパラパラにほぐれたら、塩、こしょうで調味する。

 じゃがいもがゆで上がったらゆで汁を捨て、弱火にかけて水分を飛ばし、粉吹き芋にする。

ボウルにあけてマッシャーでつぶし、玉ねぎ、合びき肉を加えて混ぜ合わせた後、8~12等分して小判形にまとめ、小麦粉、溶き卵、生パン粉の順に衣をつけ、その後、揚げ油を170~180℃に熱し、小判形にまとめたじゃがいも3~4個ずつ入れて2分ほど揚げ、返してきつね色になるまで2分ほど揚げる。

あげ終わったら、お皿に盛り付け、ソースをかけて完成。

「……ふぅ、できた」

 まるで黄金色のように輝いているように見えるコロッケを満足そうに眺めながら、僕はにやにやと笑っていたのかもしれない。それに気づいた青年は僕の様子を見つつ、同じように笑っている姿がある。

 視線に気づいた僕は恥ずかしくなってしまったのか、急いで目線をそらすようにしながらすぐさま青年に方に向かって歩き出す。

「す、すみません……」

「いえいえ、店主さんが作る料理を見ていて、すごく楽しそうに作るので、いいなぁなんて思ってしまいました」

「は、はぁ……」

「……料理、好きなんですか?」

 青年は僕に笑顔を見せながらそう問いかける。

 対し、僕はうんともすんとも言えることが出来なかった。確かに料理は好きだし、こうやって作るのは大好きだ。

 ふと、そんな時何故かクロさんの顔が過ってしまったなんて、今日初めて来てくれたお客さんに言えるわけがない。

 僕は多分、変な笑顔を見せていたのかもしれない。その時、青年は僕の顔を見て、驚いた表情をしていたのだ。

「はい、好きですよすごく」

「……」

「……その、誰かに食べてもらいたい、って最近思うようになったので、だから作って食べさせたい、なんて……」

 あははっと笑いながら答える僕の表情を見て、青年はそのまま同じように笑い始め。

「ククっ……なるほど、余程愛されてるんですね、『その人』」

「え?」

「あなたはまるで、『お客様』ではなく、『ある人』のために料理をするのが好き、と言っている顔をしておりましたよ?」

「えっ⁉」

 青年は楽しそうに笑いながら答え、僕は思わず驚いてしまった。もしかして顔に出てしまっていただろうかと。

 最近クロさんがここに来ないから、いつもならば笑顔で自分の所に挨拶をして、パンケーキを食べて、店が終わるまで居てくれるクロさんが居ないのが、とても寂しいのかもしれない。しかし、寂しいからってそんなことを考えてはいけないと言うのもわかっていて――僕は出来上がった料理を皿に並べた後、急いで青年にその料理を出した。

「お、お待たせしました!」

「お……これは……」


「だ、ダンシャクを使った、コロッケです‼」


 舌を噛む事なく、僕は顔を真っ赤にした状態で目の前にコロッケを盛り付けた料理を青年に差し出した。青年は待っていたかのように笑顔になり、用意されていたフォークとナイフを両手に構えて座っている。

 机に置かれたコロッケを見つめながら、青年はナイフでコロッケを切る。

「……へぇ、これはすごい。潰したダンシャクの中に、細切れの肉が入っているんですね」

「あ、そのまま食べちゃダメです。ソースをかけるのをお勧めしますよ」

「そーす?」

 僕は急いでいつも使っているソースを少しだけコロッケにかけて再度それを差し出し、青年は興味津々のようにソースがかかったコロッケを見つめながら、一口サイズに切ってそのまま口の中に入れる。

「……ッ!」

 青年は口の中に入れたコロッケを一口入れると、美味しいのか、それとも食べたことない味なのか、何処か感動するような目を見せながら、僕の方に視線を向ける。

 とても喜んでいる顔をしている青年に僕も思わず笑ってしまい、へらっとした表情をしていたのかもしれない。青年はジッと僕を再度見つめた後、そのままコロッケに視線を戻した。

 青年はそのまま無言でコロッケを食べ始め、いつの間にかお皿にのっていたコロッケ全てがなくなってしまっていた。

「……その、店主さん」

「はい、なんですか?」

「……おかわり、もらえないでしょうか?」

 恥ずかしそうにしながら青年は僕に空になったお皿を見せて答え、僕は笑いながら頷いた。


 ※


 コロッケを三皿完食した青年はお金を机に置いた後、興味津々に聞いてくる。

「こんな死の森の奥にどうしてこんなお店があるのか不思議ですが……まぁ、聞かないでおきます。しかし、満月の夜じゃないと食べられないなんて、悔しいなぁ」

「申し訳ございません。次の満月の夜に、また来てください」

「……」

「……お客様?」

 ふと、青年がジッと僕に視線を向けてきて、何か粗相をしてしまっただろうかと思わずビクッと反応してしまったが、青年はそのまま僕の無防備になっている右手を取り、握りしめる。

「ん?」

「店主さん、お名前聞いてもいいですか?」

「え、僕のお名前ですか……明典、ですが?」

「アキノリ……ですね、覚えました。僕はシオン。シオン・フローディアと言います」

「シオン、さん?」

「気軽にシオンとお呼びくださいアキノリ」

 ニコニコと笑い続けるシオンさんに、僕はふと、思わずクロさんを思い出した。どうしてクロさんを思い出したのかはわからないが、この状況には覚えがある。

 嫌な予感を覚えながら、僕は青ざめた顔をしつつ、目の前のシオンさんを見る。まさか、まさかと思いたいのだが、少しずつ壁に追い詰められているように感じるのは気のせいだろうか?

 今すぐ僕はシオンさんの手を振り払いたい。

「し、シオンさん。その、近いです」

「アキノリ、運命って信じます?」

「え、う、うんめい?ってシオンさん、本当近いッ……」


「――僕、どうやらアキノリに毎日このコロッケを作ってほしいぐらい、あなたに一目惚れしてしまったようです」


 その言葉を聞いた僕は、二つ頭の中に文字が流れた。

 どうして僕は男の人にこのような事を言われてしまうのだろうか、と。

 そして、どうして人の話を聞かないのだろうかと思いながら、僕はその場に固まってしまった。

 笑顔で突然言い出したシオンさんに対し、僕はなぜかその時その場に居なかったクロさんに助けを求めたいと思うのであった。

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