第55話 ベルン侵攻! 3

 イグネス城塞はリザン山脈の麓にある国境警備の要衝と言える砦。


 山脈の名で解るかな?

 これは帝国とコリコス王国との国境と言える山脈だったけど、連なる連峰は、やがてミリシアとコリコスの国境へと至るんだ。


 つまり、イグネス城塞はミリシアのコリコス王国への国境警備城塞。ここが陥落すると、ミリシア王都へはビルピス平原が続くだけの平野部があるだけで王都防衛がかなり難しくなる。

 また、山脈迂回という面倒な形ながら、北部方面からの帝国侵攻も出来る訳で…。


 それ位、この城塞は国境警備の要衝だった。

 それだけに、ここの近衛師団はミィゼナー砦の比ではなく、また規模も段違い。2個師団が駐留していたんだ。


 だから此処を陥すのはオレ達だけではシンドイ。勿論出来ない事はないけど。あまり手間暇かけられないので、ここは助っ人を頼む事にしたんだ。


 それも最強って言えるのをね。


「いずれ何か困る事があれば手を貸そう」


 そう言ってくれた強き存在が、リザン山脈の麓にいるんだ。


 ここに生活の拠点を置いた古竜種エルダードラゴンがね。


「オレ達人間のちっぽけなイザコザに手を貸して頂き、感謝します」

「無体に暴れろ、と言うのならば憂慮もしよう。だが脅せ、と言うだけならば、手を貸すのも吝かではないぞ、小さき者よ」


 古竜種エルダードラゴンのブレスは、国境守備の為の長い城壁を、修復に数年かかりそうな程の距離分吹き飛ばしてくれたんだ。


 その上で伝声魔法スピーカーで降伏勧告した。


「此方にはドラゴン、グリフォンにフェンリルがいる。自分もまた、かなりの広域破壊呪文を行使出来ると自負するモノである。徹底抗戦は其方の自由ではあるが、敢えて『無益である』と通告する。降伏しろとは言わぬ。当方は撤退を求める。重ねて言う。此方はイグネス城壁からの即時完全撤兵を求める。返答や如何に?」


 地上に10mもあるフェンリル。

 上空にグリフォンと、最早100mは超えそうなドラゴンの姿。


 コケ脅しには、これ以上ないよね。


 結局、城壁司令官はコチラの勧告を呑んだ。

 イグネス城塞は、コリコス王国に無血占領されたんだ。


 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


「イグネス城塞が…陥落した、だと?」

「ご、ご、誤報であろう!あの城塞が簡単に陥落する筈がない‼︎ コリコスに、それ程の強き軍がある筈が…」


「誤報ではありません。城塞司令官トビア=ミリシア公爵よりの直接報告です。その、件のテイマーがドラゴンと共に攻めて来た、と」


 ドラゴンと?

 あり得ない。彼のテイマーが…魔女の息子ロディマスがドラゴンまで従魔にしているとは聞いた事もない。


「そのテイマーはミィゼナー砦にいた筈だ」


『グリフォンの機動力ならば数刻で移動出来るわ。何を愚かな事を』


 エイクロイドの前に現れたのはパルム侯爵夫人の幻体。


「ぱ、パルム侯爵夫人?よくも我等の前に姿を現せたな」


『貴方方がどうなろうと、それ程気にはならないのだけどね。仮にも国家の要職にあった身ですもの。ほっとく訳にもいかぬでしょうから』

「イグネス城塞は、それでは」

『コリコス王国が無血占領したわ。確認した。これでコリコスだけではなく帝国からも北部より攻め込まれる事態になってしまった。どうしますか?これでは国土ミリシアが只、ベルン王国とグランザイア帝国との戦場にしかならない』


 最悪だ。

 只国土が疲弊するだけ。我が国だけが馬鹿を見る益無き戦となるとは。


『と言っても、もはや国体維持は不可能でしょうね。状況からみても、帝国とベルン、そしてコリコスに3分割される未来しかない』

「で、では我々王族はどうなる?」

『地方貴族として生き永らえるしか道は無い。それも帝国のね。ベルンやコリコスでは貴方方を生かしておく価値を見出せないでしょう』

「つまり、降るなら帝国…」


 リュグロー7世国王陛下は、まるで一気に老け込んだかに見える。レグナム王太子殿下も、もはや強気な姿勢は全く感じられない。


「帝国…。パルム侯爵夫人。貴女はまだ帝国正教会法皇とのパイプを保ち得ているのか」

『よく気が付いたわ。その問いにはYESと答えましょう』

「では、陛下?」


 徐ろに顔を上げられた陛下は、呟く様に告げた。


「レグナムを頼む。帝国への降伏は我が首を持って成すがよい」


 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


 パルム侯爵夫人から法皇様キティさん経由で、ミリシア国王リュグロー7世の意は伝えられ、帝国宰相ルキアルの名で、それは了承されたんだと。


 とりあえず依頼達成、と言う事で、オレは帝都に戻った。


「ね、いつドラゴンを従魔にテイムしたの?」

「してませんよ。以前のレッサードラゴン征伐依頼の時に話をつけた古竜種エルダードラゴンがいましたよね。何か有ったら手を貸して貰える算段がついてたんです」


 帝都にある皇女居宅リスティアパレス

 依頼達成報告に訪れたオレに、四天騎士からの質問攻めが待っていた。


 で、リスティア皇女殿下と一緒に法皇様キティさんも。この2人、最近いつも一緒にいないか?


「言ってなかったかしら?皇女殿下は学校で先輩だったのよ」


 そう言えば、同じ淑女教育課程を受けたって言ってたな。リスティア殿下は法皇様キティさんの2つ上だったし。


「これでミリシア王国は、貴方の言葉で言えば『地図から抹消された』わ。ベルンとコリコス、それに帝国領へと3分割された」


「貴女の描いた絵図通りになりました」

 オレが言うと、

「『滅びの魔女メーヴ』って詩的表現を好んだかしら?」

「個人の好みですよ。母さんメーヴはかなり直接的現実的です」

 アンさん、意外にどうでもいい事、突っ込んでくるよな。


「で、目論見の外れたベルンの動きは?」

「多分、勢力拡大に走る。幸い、目と鼻の先に丁度いい位の都市国家アマレゴがある」


 ヒデェ話だ。


 でも、多分オレ1人でもどうにか出来そうな規模でしかない都市国家。今迄存在出来ていたのはベルン王国の意1つでしかない。



 アンさんの予測通り。


 ベルン王国はアマレゴ王国を強襲し、併呑した。

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