第54話 ベルン侵攻! 2
「話が違う!これでは…」
「そう?ベルン王国の手を借りる。配下に入るのと、それ程違うとは思えませんがね」
「ま、マドウ夫人?貴女はまさか⁉︎」
支援を目的として街道から帝国国境へ通過していく筈のベルン王国近衛師団が、街道筋要所に駐留しつつあり。
そう報告が入った時、
ベルンの目的は我が国の占領にあったのか?
真意の確認の為に、私はマドウ伯爵夫人の元へ赴いたのだが、夫人は笑いながら応えたのだ。
ベルンの配下に入る、と。
「そ、それは属国?いや、ベルン王国の1領となると言う事か?」
「この状況で国体の保持に何の意味があると?民草には何ら影響はないでしょう」
『確かに民の暮らしには影響はないわね』
は?パルム侯爵夫人?何故此処に?
『セラ、コレは全て貴女の考え?』
「大筋はね。でも、これでベルン王国をも手玉に取れる事がわかったわ」
『そう。貴女の企みにベルン王国が乗っかったのね。本当に?寧ろ貴女がベルンの思惑通りに動かされたのでは?』
「ウフフ。それはそれで構わない。謀略に長けていれば、もっと早く貴女の場所に立てたであろうから」
あ、そう言えばパルム侯爵夫人の姿が透けている?これは?
それにしても、何故パルム侯爵夫人は、こうも自由に動けるのだ?
「それはそうと、貴女は今、何処にいるのかしら?ロイス様」
『さあね。只、私を留める枷は、少なくともこの国にはないわ。これでもミリシア魔術師の頂点にいるのよ。何処ぞの息子には太刀打ち出来なくともね』
矢張り侯爵夫人は館には居らぬのか?
確かに王国で夫人の動きを止められる者はおらんだろう。王太子の命令等気にも止めぬ筈。
それは先ずはどうでもいい。
私はマドウ伯爵夫人の考えには同調出来ぬ。かと言って、パルム侯爵夫人の復権等あの王太子殿下の態度から考えても不可能と思える。
このままではベルン王国に支配される。
だが、我が軍の要請で入ってきた隣国軍を今更追い出す事など…。
このまま、このまま、このまま…。
『利用される事も折込済み。いいわ。陛下は兎も角、あの王太子殿下ではこの国に未来はない。まだベルン王国の1領である方が、確かに民草にとっては有意義かもしれん。好きになさいな、セラ。私は孫と家の存続のみに奔る事にしよう』
な?今、何と?
パルム侯爵夫人の姿がかき消す様に見えなくなっていく。
「あ…、」
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『では、ベルン王国は?』
「このままミリシア王国を占領、属国って言うより併呑する腹積もりだと思う」
モルド辺境伯の館で。
オレはミリシアで見てきた事を、通信水晶球でリスティア皇女に話す。側にはルシアン皇太子の姿も。
『ミリシアは、それに対して対処はしないと思うかい?クロノ男爵』
貴族じゃなくて冒険者として動いててんだけどな。ルシアン皇太子はどうしてもオレを男爵と呼ぶんだ。
「かなり鈍い、って言うより判断待ちに見受けられました。多分軍司令が判断に迷いがあるんじゃないでしょうか」
『さもありなん。エイクロイド元帥と言えば優柔不断で有名な御仁だ。状況と自らの要請。どちらを捨てるか、迷いが残るのだろうな』
多分、パルム侯爵夫人の暗躍もあるんだろうけど、軍のTOPとしては判断力…決断力だな。欠け過ぎだよ。
その意味ではパルム侯爵夫人の存在は大きかったと思う。でも彼女は失脚した。
しかも、彼女自身が王国に、ミリシア王家に失望してるかに見えた。
「寧ろ、これで強大になったベルン王国への対応が問題となったのではないでしょうか。ミリシアを併呑したベルンの国力は帝国を上回るかもしれません」
『そうだね。となると、遊軍としての君の存在がかなり大きくなる。君には申し訳ないと思うがね、クロノ男爵』
『ロディ、戦争なんかに貴方を使う事、私も納得は出来ない。でも…』
「帝国貴族としての義務は果たします。まぁ、大量殺戮者にならない程度の使い道は期待させてください」
出来れば抑止力として使って欲しい。
『勿論よ。
『王太子としても約束するよ、クロノ男爵』
口約束だけど、言質はとった。
この2人に、こう言わせては、オレも覚悟を決めてやるしかない!
元々のジュピターなら、多分法皇の、そして皇家の道具になんかならない。確かにオレが望んだ事じゃない。けど今のオレはかなり皇家に近い。しかも法皇家そのものにいる。
あの女神か?多少恨み言も言いたいけどね。
ま、このくらいは落とし所の範囲内だろ。
少なくとも、あの野太い声の男性神のやり様より遥かにマシだと思うから。
『クロノ男爵、イグネス城塞を陥せるかい?』
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
「元帥!どうなっておる‼︎どうするのか⁉︎」
国王リュグロー7世陛下の金切り声が響く。
「帝国にミィゼナー砦を落とされ、今またベルン王国に街道筋拠点に駐留されつつある。彼奴らは儂の国を何と心得ておるのだぁ!」
「答えよ!元帥‼︎ベルン王国と如何なる約定を結んだ。我が国を売ったというのか⁈」
王宮へ参内した
が、あんまりな言われ様だ。
ひたすら国家につくしてきたというのに。王太子殿下は、そう思われていたのか?
「ベルン王国とは我が国支援の為に、帝国との国境付近へ兵を出す、と。私もマドウ伯爵夫人から、その様にしか聞いておらず…」
「では、マドウ夫人は?今何処におる?」
「そ、それが…」
あの後、マドウ伯爵夫人も忽然と姿を消したのだ…。
そこへ、近衛兵士が飛び込んでくる。
「申し上げます!国境要衝のイグネス城塞が陥落致しました‼︎」
な、何?
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