第56話 ベルン侵攻! 4

 イグネス城塞。

 此処の城壁は、殆ど古竜種エルダードラゴンによって破壊されてしまってる。


 と言っても、この城壁はコリコス王国へ対してのものだった。今、コリコスが手中に収めているから、城壁は元ミリシア…つまりはベルン王国へ向けて造らないといけない。


 新しく造るって事だよね。


「人使い荒くね?皇女殿下様」

『頼りにしているのですよ。ロディ』


 モノは言い様。

 まぁ、魔法ならば出来ない事も無いし。


 じゃあ、何故修復にかなりの日数がかかるかと言うと、壁造りは、大きさと使用魔力が比例するから。

 咄嗟の壁くらいならば、通常の魔力で充分だと思うけど、城壁ともなると高さも厚みも半端無い。どれだけの大地属性魔法の使い手を動員出来るかって話になるんだ。

 流石にオレでも、1人では少々キツい。


 なので、ゲームでの禁じ手発動!


「『盾壁創造タンク・クリエイト』」

 魔力いっぱいを使っての城壁作成。で、魔力回復剤マナ・ポーションを10本一気飲み。

「ほんじゃあ、もっかい!」


 繰り返す事23回。腹はチャップンチャップン言ってるよ。気持ち悪りぃ。ゲームだとアイテム使ってで終わるけど、実際にはこんなにキツいんだ。もうやらないぞ。


 でも、これでイグネス城塞の城壁は復旧出来た。ベルン王国も簡単には攻める事は出来ないと思うよ。


「依頼完了」


 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


 魔力回復剤マナ・ポーションが沢山必要と言うから、どれだけか聞いてみた。


 ロディは真顔で「250は欲しいけど」って。


 まさか10本一気飲みするなんて。

 でもそのお陰で、1回の魔法で高さ10m級、厚みも1m近い城壁を1km程造れるなんて。魔女メーヴの息子の魔力はどれほどなのかしら。


「流石は魔女メーヴの息子ね。こうなると広域極大爆裂魔法エグゾフレイムが3発撃てるって、かなり謙遜してた事になるわ」


 リスティアの横でお茶を飲みながら笑うのは法皇キティアラ。最近、彼女は私の家リスティ・パレスにいる事が多い。


「これだけの事を成し遂げたのに、求める報酬はウチにある高級茶葉なのよ」

「フフ。あの子ロディって本当にお茶ミルクティー大好きだよね」


 砂糖はそれ程入れてはいない。でもクリームミルクは結構たっぷりと入れる。魔法で代謝を調節出来るって言うロディは、全く太る気配が見当たらない。本当に羨ましい。

 とは言え、成長とはまた別物らしい。彼の身長へのコンプレックスは、彼の周りの女性達が母性本能をくすぐられつつあるから。私も含めて、ね。


「これでベルンがどう動くかね。そしてコリコス王国は、帝国の切札ジョーカーの力を思い知ったでしょうし」


 噂に聞くテイマーロディの実力を目の当たりにしたのだ。コリコス王国の近衛師団には『味方で良かった』『絶対、敵にはすまい』という思いが強くなっただろう。


「そうそう。チーズケーキも付けてあげようかしら」


 え?キティ?


「ロディ、チーズケーキも大好きなのよ。たまに手作りするんだ。最初はリリアさんが作ったみたいだけどね。カミーユも作る様になったし、それ聞いて私もね」


 ちょっと?何皆んなで彼の胃袋掴もうとしてるの?しかも、どうして私が仲間外れ?


「キティ?それ、私が作っても文句言わない?」

「言うに決まってるわ。私が作るの!」


 彼には婚約者カミーユがいる。それはわかってる。


 それでも、私達の間には激しい火花が散った!


 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


「イグネス城塞の城壁が修復されているだと?」


 ベルン王国王宮。

 国王アルベルト=ベルン3世はハンス=ベルンの報告を訝しげに聞いた。


「王太子殿下?それは」

「まぁ、信じられぬのは無理からぬ事。私も我が眼で見ねば到底信じられぬからな」


 そう言いながら、私はある魔導具を出す。


異世界人エトランゼの魔導具職人ケーナが創り上げた偵察用のハトーボだ」


 ハトーボは街にもいる中型の鳥。人にも慣れ、また帰巣本能も強い為通信用に飼い慣らされる事もある。コイツはそれに似せて造られた魔導具。


「新たな国境迄行く必要はあるが、それでも安全な距離から偵察出来る。コイツの見たモノは、コチラの水晶通信球に映し出す事が出来る。起動は勿論、稼働の為の魔力も少なくてよい優れ物だ」

「それでは…」

「城壁は数十キロに渡って修復されていた。いや、こちら側にだから修復では無いな。新しく作り直したのだろう」

「この短期間で、どうやって?」

「知らん。流石にな。だが大事なのはどうやって造ったかではない。どう攻略するかだ。元々頑強な城塞だったが、これでコリコス王国に攻め入る事はかなり難しくなった。彼処を橋頭堡とし、帝国の北部を脅かす筈が、これでは不可能と言える。策の練り直し、と言うか根本的な作り直しになるな。私はここで一旦、進撃を中止する事を提案するが」


 軍司令のフィリックス=ゼクトは苦虫を噛み潰したかの表情だな。まぁ、彼は「今が好機!今こそ帝国を潰す時」と気勢を上げていたからな。


「殿下、ここまできて中止とは私は兎も角軍部は納得出来かねます。幸い、元ミリシア王都の先には軍事行動の出来る平原があります。ここで帝国と一戦交えるのが肝要かと存じます」

「ハンスよ、余もゼクト元帥の意に賛同する。帝国の徒を蹴散らし、その上で奴等にキツい罰を与えよ」


 講和の条件か。果たしてキツい罰を受けるのは彼方か?それとも?


 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


 元王都ミリシアシティに、ベルン王国の近衛師団が、更に集まりつつあった。


 

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