第52話 戦争への道 4

 私はセラ=マドウ伯爵夫人。

 フランツ=マドウ伯爵に見染められて嫁ぎ、もうすぐ8年になる。


 召喚者プレイヤーの私がどうやって?


 神アイテム、"時空の扉"。

 時を戻せるやり直しアイテム。こんな使い方も出来るなんてね。


 あの時…召喚された時に、私はわざと"時空の扉"を発動させた。結果、私だけが皆より10年前の時に召喚された形になった。


 私は魔法使いとしては珍しい1属性~闇のみに特化した魔法使いクラス。特化ボーナスとして威力3割増しを持つ。

 元々マドウ伯爵家は諜報の長たる家系。フランツにしか話していないが、闇特化の存在はまさにうってつけと言えた。

 だから夫が病死した時に、私は諜報機関の長へ夫から引き継ぐ形で成り上がった…。


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 ベルン王国とミリシア王国の国境。

 瞬間移動テレポート魔導具スクロールを使い、ミリシアとグランザイア帝国国境近い砦街ミィゼナーから飛んできた訳。


 マーキュリーの目で直に見たかったんだ。噂のテイマーって奴をね。


「どうじゃった?」

「奴はレベル248じゃねぇわ。148だ」

「どういう意味なの?」

「魔法使いはレベルカンストしてるな。でも魔法剣士じゃない。奴は魔法使いからテイマーに転職クラスチェンジしてるんだ」

「根拠は?マーキュリー」

「奴は魔法剣士の能力スキルを全く使わねぇ」

「でも魔法剣を使えるんでしょう?なら」

「そうか。レベルカンストの特典か」


 俺は我が意を得たり、とばかりに頷く。


「魔法使いを成長しきったレベルカンストら3つの特典から1つ選べる。『二重詠唱ダブルスペル』『詠唱速度増加スピードアップ』『魔法剣』だ。魔法使いの特典ボーナスとして剣に魔法付与してるだけなんだよ。戦い方を見てきたけど、ジュピターの戦技クセは何一つ出さなかった。な、俺の言った通りだろうが!」


 ジュピター=イコールロディマスはあり得ない。


 色んなモノを見てきての判断にも関わらずサターンやマーズは、どうしてもその可能性を捨てきれなかった。


「そうだな。我ながら、どうかしてると思うのだが、どうしても引っかかるものがあってな」

「じゃが、今ののを聞くと判断せざるを得んな。破壊にしろ、どうしても特有のやり方クセは出るモノじゃが、基本的にテイマーとしての戦いを特有クセと成しておる。マーキュリーが正しかった訳じゃ」


 お。ついにサターンも決めたか。


「マーズ。彼がジュピターであろうと無かろうと、私達は傭兵はやらない。ベルンと帝国が戦争になろうと、私達は参戦しない。彼と戦う事はないわ」

「今回はな。ベルン王国自体に攻め込まれてる訳ではないから。とは言え…」

「ジュピターも同じの筈。その意味では例のテイマーロディマスが帝国貴族である事からも、私は別人だと思ってる。彼が1番権力を嫌っていたわ」


 ビーナスもジュピターとは親しかったな。


「確かに。ま、でも彼奴ロディマスは中枢に近い貴族だが、全く貴族らしからぬ暮らしぶりだ。辺境の街エラムで一人暮らししてんだぜ。そりゃ王都では公爵家別邸の離れを使う様だが」

「その辺はらしいかもね。でも、その本家たる法皇の意で動いてる事も納得いかないわ」

「確かにの。法皇は皇帝に次ぐ権力者じゃ。ジュピターならば使われる事は勿論、近付く事すら嫌う筈じゃ」


「フム。結論が出たか」


 どうやら、マーズも納得した様だな。


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「は?パルム夫人を救出しろ?」


 目の前の水晶球。法皇様キティさんからの直接指令。


『無茶振りは承知で言ってるの、ロディ。でも、今のミリシアの動き。かなりベルン寄りの強気。これ迄に無い形。パルム夫人がいたら有り得ない動きだわ。おそらく夫人の競合相手が宮廷で優位に立ったと思える』

「それってミリシア王国の権力争いに加担しろって事?」

『パルム夫人がもう少し自由に動ける位置にいて欲しいのよ。彼女の権力復帰までは求めないわ。でも彼女が好きに動くと、多分国軍司令のエイクロイド元帥は決断しきれなくなる。彼の方は判断を自分では出来ないから。軍の暴走を抑える点では良い事だけれど、優柔不断のTOPってね』


 ひでぇ言い様だよ。

 でも戦争を先延ばしに出来るか?


 …やってみるしかないな。


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「こんな方法で…。成る程、テイマーならではと言う事か」

『ですね。幻体通信ファンタムコールよりも従魔の伝心テレパスコールの方が魔力探索マナサーチには引っかからないんです。魔物の魔力はスルーされますから』


 館に軟禁に近い形で押し込められたロイス=パルムの前に現れた魔物ハイ・ピクシー。彼女の前に魔法陣が出たかと思ったら、そこから力を垣間見せていた件のテイマーの声が響いてきた。


「で、君自身は何処に?」

『真上です。グリフォングランと共にかなりの上空にいます。元々空の上ってあまり認識されない場所ですので』


 飛翔フライトを使える術者も少ない。空に潜むというのは確かに盲点と言えるな。


『貴女が自由の身でいてくれる方が、我々帝国にとって都合が良いらしいんです。多少の援護はします』

「助かる」


 マドウ伯爵夫人。私が大人しくしていると思わない事ね。

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