第51話 戦争への道 3

「見てたよね。オルガエイプは倒し、ガルエイプの群れも殲滅した。今残存個体を確認中」


 街道筋の木々から出てきた幻体。

 確か、ミリシア王国の宮廷魔術師のパルム侯爵夫人。


「確かに」

「ちゃんと避難させているし。そちらミリシアが約定を守るからにはコッチ帝国も守らないとね。砦と城壁は破壊しますが、約束しますよ。街には傷一つ付けませんから」


 グランとフェンを下げて。

 街部分をシールドして。


魔法防御呪文マジックシールド!そして広域極大爆裂呪文エグゾフレイム×3‼︎」


 爆裂3連発!

 砦と城壁を一気に吹っ飛ばす‼︎


 ピカッ!

 ズガガガガーン、ドドォーン、ズズズン。


 ゴォオオオオオ!


 よし。砦や城壁は跡形も無く吹っ飛ばした。その上で街の方には被害無いね。


 依頼達成。


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「また注文、多いなぁ」

『出来るでしょう。私もね、酒場に料理は頼んでも鍛治は頼まないわ』


 領主アンバー辺境伯の館でオレを待っていたのは皇女リスティア殿下と法皇様キティさんが映し出された水晶球。


 って、コレ、オレも持ってるのに。


『辺境伯を通しての依頼としたいの』


 ハイハイ。


「砦と城壁の破壊。近くの魔物の殲滅。破壊の際に街の被害は認められない。破壊方法は圧倒的なモノで。って何でまた?」

『ミリシアも確認に来るでしょう。多分、宮廷魔術師のパルム侯爵夫人がね。彼女がミリシアの魔法使いの頂点。だからこそ見せつけるの、圧倒的な魔法力を。帝国に従うべき。そう、心を折って欲しいのよ』


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「…これが魔女メーヴの息子の実力」


「その上で御理解下さい。オレは皇女殿下の懐刀で皇太子殿下の切札ジョーカーです。ならばこそ、無用な被害は避けるべきと考えます」

「帝国正教会法皇の、そして皇女殿下の御意志。しかと承った。また市民への格別のご配慮。ミリシアを代表して感謝する」


 文書にあった通りだ。

 帝国は力を見せつけるが、誰1人として被害者とする事はない、と。


 だが戦争となってしまっては、それは不可能になる。それは避けたい。この事に関しては私と皇女リスティア、それに法皇キティアラの考えは一致している。

 おそらく、国軍元帥エイクロイドも賛同はしてくれるだろう。


 だが、軍は?

 帝国に屈するのを良しとはすまい。


 そして陛下だ。

 最近、いつになく強気でいらっしゃる。王太子殿下も同様だ。


 ここの説得として、帝国の力~皇太子殿下の切札が、その力を見せつけてくれたのだが…。



 翌日。

 王宮にて参内し陛下に拝謁する前に元帥と確認をとる。


魔女の息子ロディマスの力、それ程までにか」

「私でも数分と持ち堪えられません。魔導師軍全てでも。あの魔法力を全て剣技として行使でき、尚且つランクAの従魔2頭がいます。今回彼はあくまでも冒険者として動いていますが、戦争となると帝国貴族として従軍してくるでしょう」

「3発の広域極大爆裂呪文エグゾフレイムを放ち、それすらも防御できる魔法防御呪文マジックシールドを同時に展開できる、となると」

「一方的に攻撃されます。しかも此方の呪文は全く効きません。もし従魔を伏兵的に使われるとすれば…」

「全滅しか道は無いな。最強のワンマンアーミーとは良く言ったものだ」

「この事、包み隠さず陛下に申し上げて、残念ながら降伏やむなしと奏上するつもりでいます」

「フム。そうだな。軍は抑えてはみるが…」

「よろしくお願いします」


 元帥はわかってくれた。

 そう、思っていたのだが…。



 王国の矜持。

 私は軽く考えていたのかもしれない。


 ミリシア王国の国王リュグロー7世陛下は激昂され、エイクロイド元帥に総力をあげて帝国に攻め込む事を決断なされた。


「陛下、お待ちください、陛下!」

「くどい。余はもはや決断した」

「それでもご再考ください、陛下‼︎」


「宮廷魔術師殿がそこ迄弱気だとはね。全く、貴女はどちらの味方だ。貴女の忠誠心は何処をむいておられるのかな」

「我が忠誠は無論王国と陛下に。ならばこそ陛下の誤りを正すのも忠誠と職務と思し召戴けたらと思います」

 王太子からの詰問。私を嘲る声等一々取り合ってはおられない。

「陛下の誤り?自らの叛逆の意を正当化するつもりか!パルム侯爵夫人」

「我が忠誠と職務。そう言いましたが?お聞き届けくださらず、今少し落胆しております、殿下」

「く、ククク、どこまでも我等王族を愚弄するつもりか!」


 これは?陛下も殿下もやたら強気なのは?


「宮廷魔術師を解任する。自宅で謹慎なさるとよい。近衛兵、導師を連れて行け」


 玉座謁見の間から出されてしまう。


 精神系の闇魔法?

 誰だ?これ程の使い手は知らぬ?


 いや、1人…、まさか?よもや?


 諜報機関の長、セラ=マドウ伯爵夫人?


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「これで、あの女は失脚ね。長かったわ」

「セラ。これで本当によかったのか?例の『魔女の息子ロディマス』が向かって来たら」

「我が国だけではどのみち対処できないのよ。だから大国の手を借りる。ロイスは帝国と折り合いを付けようとした。私達はベルン王国と手を結ぶ。握手の相手が違うだけよ。ロイス=パルム、そろそろ私の動きに感付くと思うけど、もう後戻りは出来ないの。だからしばらくおとなしくして欲しいものね」


 エイクロイドの前にいる、この国では珍しい黒髪黒眼の女性、セラ=マドウ伯爵夫人。


 パルム侯爵夫人は、現状維持を考えるあまりに帝国と事を構える事に消極的過ぎたのだ。それでは国は発展しない。



「ロイス、貴女に隠していた事があるの。フフ、私は召喚者プレイヤーなのよ。只1つ違うのは、私は10年前にこの世界レムルへ来ているって事…」

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