第45話 迷宮探索 1

 やっとこさで採掘依頼を終わらせたオレを待っていたのは、フランギルドからの特別要請だった。


 噂で聞いていた、近くの森のダンジョンが成長してるって話。結構ヤバいみたいだ。


「16階層?あれ?あのダンジョンって8階層程のモノじゃ?」

 ギルドマスター・ドルフさんに呼ばれて話を聞いた時、確認された階層にメチャ違和感を感じたんだ。


 いくらなんでも成長が早すぎる。

 普通は1階層増えるのに数年かかるんだよ?数ヶ月で倍以上なんて。


お前さんの母親メーヴの知恵で、何か心当たりは?」

「多分ですけど…」

「おい、マジで心当たりあるのかよ」

「以前、人為的に魔物暴走スタンピード起こしましたよね。あれ、迷宮核晶石ダンジョン・コアに魔力注入して核魔力を狂わせ、迷宮の魔力を暴走させる方法があります。回復系魔法の『魔力回復マナ・ティア』の応用なんですけど…」

「けど?」

迷宮核晶石ダンジョン・コアへの注入なんて、多分治癒師ヒーラーを数10名潰す気がないと無理です。しかも荒れ狂う迷宮魔力の所為で凶暴化した迷宮主ダンジョン・マスターに殺されます。そして、その血肉が核晶石コアを狂わせて成長させる」

「…そんなヤバい方法やり方なのかよ。そこ迄して皇女殿下を害そうとしたと言う事か?」


 ドルフさんやジェシー女史が絶句するのも分かる。尋常じゃないモノ。

 コレは母さんメーヴの知恵と言うよりゲームの知識。


 胸糞悪いイベント。『迷宮暴走』。


 虐げられ、鬱屈した治癒師ヒーラーが、並外れた己が魔力を全て注ぎ込み、暴走させる為だけに作り上げた迷宮ダンジョンの攻略。


 10階層程の迷宮ダンジョンにも関わらず『地上の星』ですら攻略に時間を要した上に、核晶石コア治癒師ヒーラーの悲惨な記憶があって、実に後味の悪いイベントだったんだ。


 でも、この時の報酬ガチャで、オレは『神の金貨』を得た…。


 名も知れぬ女神の介入が有ったにしろ、オレがこうして無事に転生出来てるのは、この宝クジ的アイテムのお陰だ。カミーユガイアクラス変更は出来なかったのだから。


「コレだけの事をやらかすとなると、皇女殿下に仇成す企みって、かなり根が深いと言う事にならない?」

 ジェシー女史の溜息。

「その割には、魔物暴走スタンピード発生後がお粗末なんです」

 オレの疑念。


「成る程。確かに熟練とは言えない暗殺者1人しか皇女殿下を襲わなかったな。て事は」

「皇女殿下弑逆がついでなんでしょうね。迷宮ダンジョンの操作介入実験が主目的」

 そう結論するしかない。


 実際、ゲーム内でも、前例があって鬱屈治癒師ヒーラーが迷宮暴走を企てたのだから。

 今はゲームより数100年前の過去ムカシだから、多分設定バックボーンの実体験って事なんだと思う。


 召喚者よ、対応してみろって事か?

 やってやるよ。


「それで、迷宮探索の特別依頼、指名って事ですよね」

 話を振り出しに戻す。

「所々狭いところがあるらしい。大の大人じゃキツいみたいでな」


 年相応って言うか、元日本人の感覚では14歳にしては大きいと思うオレもこの世界レムルではガキでしかない。リリアさんですらオレより高いんだ。


 多分盾役タンカーが入り辛いトコとかあるんだろうな。


「貴方なら『探索サーチ』は勿論『罠解除トラップ・レリーズ』もあるでしょう?」

「ありますけど、子供騙し程度の効果しかない呪文です」


 魔法は万能じゃない。

 気休め程度の効果しかない奴もある。


 無属性探知魔法の解除系なんて、その最たるモン。盗賊クラスの技術に代わるモノじゃない。

 だから本来、迷宮探索は盾役タンカー戦士ファイター魔法職メイジ・クラス回復職ヒーラー・クラス盗賊系シーフ・クラスが必要。それも出来れば専門職。更に鑑定持ちが居ればBest!


 こうしてみると『地上の星』って理想的だったんだなぁ。何せ盾役に勇者、賢者に聖女、義賊に精霊魔法使い。で魔法剣士オレ

 全員が英雄級レベル40超え

 義賊マーキュリー賢者サターンが鑑定持ってたし、サターンなんか上位スキルの識別を持ってた。


「ま、いいか。とりあえずソロぼっち依頼ですよね?直ぐ向かいます」

「いや、ソロじゃなくても。ほら、『裁きの刄』さん達とか」

「ブレードさんもフレイルさんもオレの倍くらいの巨漢ですよ?オレみたいなランクBのガキって他にいないと思いますから」


 大の大人じゃ狭くってキツい。

 ギルマスドルフさんは確かにそう言った。


「幸い、いい剣を手に入れました。以前マエより魔法剣の威力、上がってるんです」


 帝都鍛治ギルドで頼んでた剣の微調整は出来てる。流石はガントさん。昔から使い込んでるみたいに手に馴染むよ、コレ。


 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


 その辺へぶらりと出向く。

 その位の気軽さでロディは出て行った。


ギルドマスタードルフさん、あの子、背はちょっと気にしてるんですよ」

「背伸びしたい年頃よ、マスター。気配りが足りません」

 リリアとジェシーから責められるとは、コレはドルフの失態なのか?


「オレみたいなガキって他に居ないと思います」


 皮肉じゃないよな、ロディ。


 いや、マジで。



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