第38話 刺客 2

「ラドファーノ子爵家が、ね。コイツは盲点」

「確かに毒にも薬にもならない中立派。そこに暗躍されたのでは監視のしようも…」


 我が法皇家別邸本宅にて、ルシアン皇太子とリスティア皇女が深刻な顔で語り合ってる。

 さっきまでロディの陞爵を祝っていたパーティでの表情とは雲泥の差だわ。

 それにしても我が家にいる時、法皇の目が届く範囲で我が一族に刺客を放つなんてね。相当ロディが目障りになってるのでしょう。

 確かに、あんな規格外の存在に立ち塞がれてしまったらやり難いでしょうね。

 魔法を全属性高レベルで行使して、しかも魔法剣に応用でき、ランクAの従魔を使役出来る存在。母親メーヴ程ではないにしても充分国を滅ぼせる程の力を持つ少年。母親似で富にも権力にも無頓着…いえ、興味無しとさえ思える事が本当に有り難いわ。それに帝国貴族としての役割は考慮してくれているし。


「殿下。兎に角我が一族の者が我が家に滞在している中での刺客到来。法皇キティアラの名で報復する事に御異存ございませんわね?」

「我々がどうこうするより筋の通る話だな」


 よし。皇太子の言質は取った。


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「クックック。これで終わったと油断するのが運の尽き…、な、ぐはぁ」


 私は充分に離れていた筈。ここまで探知できる筈は…。だが、コイツは…グリフォン?


「グルルルルゥ」


 何故?何故我等が斃される?


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「多分現場指揮官だね。今グランが倒した」

 オレの『透視呪文ウィザード・アイ』の範囲を甘くみてるみたいだ。ダンジョンの中ならいざ知らず、あんな見通しのいい所で。それにグランもフェンも夜目は充分に効く。

「うん?それすら見ている監視役がいるのか…。アイツは放っとこう」

「いいの?」

「こっちの目が常識ハズレって事を敢えて示しておくんだ」


 カミーユと話しながら…、その、ヤバ…。

 どうしても二の腕を意識してしまう。


 もしかして、ワザとやってる?


「うん。ワザとやってる」


 は?オレ、声に出してた?


「顔に書いてあるよ?」


 クスクスって微笑むカミーユ。

「せっかくだし。私という女を意識してね、ロディ」

「いや、ダメ。意識し過ぎて勃っちまうよ」

 ただでさえ大きく開いてる胸元なんだよ。ガイア本人程のユサユサは無いにしても、14歳の大きさじゃないよね。マジでなだらかなラインが見えているし、プニプニと弾力性を充分堪能出来るし。

 中身はヤリタイ盛りの男子高校生なんだぜ?


「2年後覚えてろよ。成人したら休む間もなくやっちまうからな」

「ハイ、ご主人様アナタ


 ダメだ。オレ、カミーユに勝てない。

 コルセットの所為だけじゃない細い腰を、ちょい強めに抱いてみる。


 うわー、その表情、反則だよ。

 スゲェ可愛い。くぅー!カミーユ、その、大好きだよ…。


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 法皇様からの詰問状…。

 不味い。本当に拙い。まさか放った刺客が自害もせずに全てをバラすとは?

「何というお粗末さだ。どうしてくれる?」

「有り得ませぬ。こんな馬鹿な」


 ロイド=パイル・ラドファーノの目の前にいるのはミリシア王国の諜報暗殺の手の者。見た目は交易商人だが…。


 我がラドファーノ子爵家がクロノ男爵に刺客を放った事。何よりミリシア王国と繋がっている事が暴露バレるとは?


「どちらにせよ我々はしばらく身を引きまする。ラドファーノ子爵も我等とは無関係とシラを切り通して下さいませ」

「当然だ。法皇家にバレているだけでも十二分に致命的だ。もし皇室にバレたりすれば…」

「バレていると思われます」

「な、何?」

「あの場には皇太子殿下と妹皇女殿下もおられました」

「それをわかっていて事を決行したのか?挙句に捕らえられるとは?その上死にもせずに全てを明かすとは、我等を嵌めるのが目的か?」

「その様な事はありません。我等と子爵は同志」

「同志が聞いて呆れるわ!最早我が子爵家は破滅の道しか残されておらぬ。全く。確か『消せぬ存在は無い』そう豪語したよな。忘れたとは言わさぬぞ」

「それは…。兎も角我々は身を引きまする。では御免」

 言うか速いか。目の前で消え失せてしまった。

「…最早これまでか…」


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 後日の事。


 ラドファーノ子爵領、領都レミントン。

 この街の帝国正教会にキティアラは密かに赴いた。


「用件は分かっていますね、子爵」

「ほ、法皇様にはご機嫌麗しく…」

「機嫌の良い筈がありません。本来ならば子爵家を取り潰す気でおりました」


 目の前で真っ青になるラドファーノ子爵ロイド卿。床に座り込み深々と頭を下げる。まるで頭を床に擦り付けるが如く。

「最早逃げも言い訳も致しませぬ。ですが罪は我が身にのみ負わしていただく事、法皇様の慈悲に縋りたく存じます」

「殊勝な物言いですね。それに、言いましたよ。本来ならば、と」

 青い顔のまま、少し身を起こして、

「そ、それは」

「当のクロノ男爵が事を大きくしたくないそうです。ですので詰問状の形をとり、尚且つ密かに赴きました。私の訪問は表沙汰にせずに済ませたいと思います。ロイド卿。今回の件、表向きは不問とします。幸い刺客の件も知る者は少数です。皇太子殿下、皇女殿下と私。そして皇太子付近衛騎士ファブリ卿。当事者のクロノ男爵とその婚約者たるカミーユ嬢」

 少なくとも最悪の人選。ロイド卿は生きた心地はしないでしょうね。

「折角のミリシアとのパイプ、今少し有意義に使いたいと思う訳です。その折衝、尽力なさい。帝国に尽くしてこそ卿の罪も償える。卿の今後の働きをとくと見たいと思います」

「御意。寛大な処分、感謝致します。この上は神明に誓い帝国に忠誠を」

「神は見ております。今の誓いを、夢夢お忘れなき様」


 これでパイプもだが、仕掛ける事も出来よう。


 ロディ。貴方のお陰よ。

 

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