第37話 刺客 1

 ターゲット:新興男爵のテイマー。


 我等に下された新たなる命令。

 雇主のとある貴いお方にとって、彼の男爵殿は目障りであり、今後の計画進行に非常に支障をきたすであろう事が予測されるとの事。


 よって不自然無く排除せよ。


 あんなガキ。我等の様な手練れで無くとも、下っ端の者で充分だ。そう頭には言ったのだが、「念には念をな」と命じられた。その慎重さが頭たる所以だとは思うが。


 ほほう。陞爵記念パーティとな?

 これは好都合。調子に乗って逝くがいい。


 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


「ロディ」

 オレの耳元。肩に乗ってるピクシーアリスの声。しかも警告音だ。


 貴族の公式パーティ。

 それでもオレは肩にアリスを乗っけている。勿論貴族と対応する時には離れてもらう。オレの後ろの壁に、アリスの居場所を作ってもらってる。人形遊び用って言うか、玩具の椅子とテーブルがあり、小皿にクッキー数枚載せられる程のヤツ。


 そのアリスがわざわざ警戒を発しにオレの肩に来た。

「悪意…、もう殺意って言える。数人部屋にいる。あと庭と天井裏」

「ふ~ん。上は頼める?」

「ま~かして!」


 悪戯っぽく微笑むとアリスは飛び立っていく。


「ロディ?」

 カミーユもオレ達の雰囲気に気付いたみたい。

 残念ながらアリスの声は、やっぱり囀声、歌声にしか聴こえないらしい。でもアリスは、魔物には珍しい人型。顔だって美少女。つまり普通に表情がある。普段悪戯っぽく微笑む顔しか見ないから、あんなちょい不機嫌って顔してると察するモノもあるんだろう。

「オレに悪意を持つヤツらがいるって」

「は?アリス大丈夫なの?」

「あれでも従魔。つまりは魔物。只のピクシーじゃないんだから」


 この世界レムルに来た時にはレベル10だったアリス。採取依頼やお使いなら兎も角、魔物暴走スタンピードやドラゴン征伐も共にこなしてきてる。


 この世界ゲーム、テイマー自身より使役する従魔の方に経験値が多く配分される。

 レベル50を超えたアリスは進化を選べるまでになってたんだ。上位種のハイ・ピクシーか、回復特化のフェアリーかに。


 アリスが選んだのは上位種ハイ・ピクシー。

 だから特大電撃呪文ハイジオン広域電撃呪文メガジオン等の上位呪文をも使える様になったんだ。勿論回復系も同様にね。

 フェアリーならば蘇生呪文だって使えたけど、アリスはオレのサポートに徹したいって希望してくれたんだ。

 また魔物は気配にかなり敏感。オレ達以上に悪意や殺気には反応する。弱肉強食の世界に生きる魔物にとって気配察知は必須だよ。


 やがてアリスが帰って来た。

「強めにかけたから当分動けないと思うよ」

「ああ。感謝!」


 魔力倍化で、呪文は威力倍化か範囲倍化かを選べるのがこのゲーム。世界レムルでもこれは同じ。今回1vs1だからアリスは威力倍化を選び電撃呪文ジオンを放ったみたいだ。おそらく数時間は麻痺して動けないね。


 それにしても法皇家別邸だぞ?離れとは言え。

 此処に暗殺者を放つか?バカだねぇ。


 座を離れる風にして、オレは密かに法皇様キティさんと不審人物について話した。

「なかなか有名人になってきたわね。でも公爵家別邸アタシん家で不埒な企み、ホントいい度胸してるわ。フフ、このケンカ買ってあげる」

 そう言って意味なさげに左手を振る。


 何人かの使用人の気配が消えた…。


 その使用人達が戻って来て曰く。

「全てを聞き出せました。ラドファーノ子爵家の依頼で、しかもミリシアと繋がっている様です」

「あの子爵家は『中立派』ね。どちらの皇子にも肩入れせず権力中枢に興味無しって感じだったけど、成る程、ミリシアと繋がっている分人畜無害を装っていた訳ね。ロディ、ある意味お手柄よ」

「うわぁ、性格悪くねぇ?」

「ホント、法皇らしからぬ悪巧みですわ、お姉様」

 オレと共にいるエレンディア様も眉を顰めてる。


「それにしても、よく聞き出せましたね。あの手って即自害とかしません?」

「あら。法皇家ウチは回復魔法使いの総本山なのよ。死なせる筈ないでしょう」


 信者が見たら引くよ、その笑み。法皇様キティさん


 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


「くっ。有り得ぬ。あんなチンケな魔物風情に我等の手練れが倒されるとは?」


 確認の為に『遠見』の魔法で見ていた。

 とある水晶を仕込んだ鳥型の玩具。館を透視する形で手練れ達の動きを見ていたのだが、天井裏の者をピクシーが倒すと、館に紛れ込んでいた者達が此処の召使供に連れられて行ってしまった。


 それに、あの魔物は?

 何故ピクシーの電撃呪文ジオンがあれほどの威力を持つ?


「どちらにせよ、このままではすまぬ。すませぬ!」


 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


「法皇様は何て?」

「売られたケンカは買うってさ」


 再びカミーユの隣に戻って客対応。


 夜会とは言え未成人のオレ達にアルコールを勧めてくる者は流石にいないね。お陰でシラフで過ごせて助かってる。

 何せ偶にカミーユは腕を組んでくるから。

 二の腕とかにさ。プニって柔らかいモノが当たるんだよ。


 頑張れ、オレの理性。


 オット。その理性を支えてくれる人~お義兄様ファブリさんが来た。


「もっと過ごしたいみたいだが、かなり忙しい身でね。皇太子殿下共々失礼するよ。それにしても見違えた、と言うより化けたなぁ、カミーユ」

「あら?聞き捨てなりませんわ、お兄様」

「そうなんですか?オ…私にとってはいつでも素敵な女性なのですが」

「それは…かなりナニカの皮を被っているね。カミーユ、あまり隠し事は良くないぞ」

「お兄様?もう、殿下をお待たせしてはいけませんわ。サッサとお戻りくださいませ」

「おぉ?そうだな、退散しよう。ではな、ロディマス卿」


 考えてみれば中身はガイアなんだよね。

 女子高生に貴族子女の作法はキツいかもね。


「アッチでも同じ歳だったよね、カミーユガイア。貴族の作法、キツくないの?」

「本来のカミーユが持つ知識と技量はそのままなのよ。全く未知の世界って訳じゃないから。それに、一応お嬢様の通う女子高だったから」

「益々前世では接点ないなぁ。それがコッチでは婚約者。名も知らぬ女神に感謝だね。あぁ、ひょっとしてホントに救世の母神エルシェアなのかな」


 法皇家の目があるからかな?

 本当に紳士的って言うか、和やかな夜会。


 でも、その裏で…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る