第32話 公国動乱 4

 ガスター侯爵エミリオ様の行動は素早かった。

 ミズル公爵家の後継ジョンの起こした乱行に対して、補佐官罷免と国務大臣の任命責任の追求を、公爵家に反感を持つ貴族達を糾合し宮廷に申し出たんだって。


 流石に苦慮したルーファス1世皇帝陛下は、ガスター侯爵が担ぎ出そうとしているルキアル皇子、ルシアン皇太子にリスティア皇女と残りの2公爵を呼んだとの事。実はこの辺、ガスター侯爵エミリオ様と法皇様キティさんから後日教えてもらったんだ。


「侯爵の言い分はわかった。して、卿は誰を補佐官に推す」

「無論ルキアル殿下を」

「ルキアルはどうじゃ?これで其方はルシアンの臣下たる身が確定するが?」

「皇太子の臣下になるのは当然でしょう。兄弟皇族であっても、皇帝陛下は唯一無二の現人神であり、皇太子殿下はゆくゆくその身になられるお方です」

「フム。で、法皇は?」

「ミズル公爵家のなさり様は神の御心に背く行為と言わざるを得ませんわ、陛下」

「軍務大臣は?」

「カートライトバーグは西の要です。そこが騒がしくてはミリシアへの対処が一足遅れかねません」


 法皇様キティさんはオレ等の企みを知ってるから、ミズル公爵家を『三公の重責を担うに能わず』との立場を取ってくれた。

 軍務大臣ポーリッチ公爵ミハイ卿もまた、怪しい動きを見せているミリシア王国を睨んでいる時に起きたミズル公国での動乱に対し不快感しかなかったらしくって。


「神の御心に背く行為か。法皇はそう断定するのか」

「御意」


 神の権威は大きい。

 だから三公の中でも法皇様キティさんの言は特に重たいんだ。

「更に法皇に問う。次の三公を、国政を担う重責を何れの者に与うや?」

「格式から言ってもガスター侯爵家でありましょう。ですが、代替わりした身ではあまりにも弱輩。ついてはルキアル皇子を補佐官ではなく宰相位に推したいと思います」

「何と。法皇は国政を実務と式典慣例に分けよと言われるか」

「御意」

「それは良き考え。現国務大臣は国境防衛にもそれ程明るくなく、近衛師団の派遣にも難を示しがちでした。殿下ならばその類いは分かって下さる筈。法皇様のお考えに軍政を預かる者として同意致します」


 よっぽど国政と軍政のトップは仲が悪かったんだろうな。ポーリッチ公爵は直ぐに嬉々として同意したんだって。


 2公爵の意はほぼ決定と言っていい。

 皇帝陛下も決断した。


 ミズル公爵の爵位を侯に堕とし国務大臣をも辞意表明させた。実質罷免だよね。


 これで歴史が変わった。


 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


「ま、待ってくれ!お祖父様」

「黙れ!お前の、お前の所為で我が家はここ迄落ちぶれたのだ‼︎」


 よもや、あの若造エミリオがここ迄貴族達を糾合出来ようとは?あのガスター家に三公の座を奪われようとは?


「ジョン、お前を廃嫡する。ミズル家はアゼリアの婿に相続させる」

「そ、そんな」

「勘当せぬだけでも有り難いと思え!」


 孫に期待をかけ過ぎたのか?

 儂の目はそれ程曇っていたと言うのか?

 この様な事態に陥らなければそれに気付かぬとは?


 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


 侯爵となった事が、余程恥と思ったんだろう。

 ミズル公爵もとい侯爵ローナン卿は、娘婿ランドに相続させると、息子に習い毒酒にて自害したんだって。


 しかも最悪な事に、それでもジョンの生活は改まる事は無く乱行は酷くなり、新当主ランド卿はジョンを勘当してしまった。

 平民に落ちた事を理解出来なかったジョンは、街で乱暴狼藉を働き、罪に問われ投獄された。

 それでも境遇に納得出来なかったんだって。

 もう、筋金入りのアホだよね。


 で、オレはエミリオ様の三公入りと国務大臣就任を祝う宴に招待された。


「君のお陰だね。法皇様を動かしたのだろう?」

「皇女殿下の意を法皇様にお伝えしただけです」


 そのリスティア皇女の名代としてマゼールさんが来ている。そう言えばあの人って伯爵子息だったね。夜会だから婚約者のアンさんをエスコートしての参加。

 え?オレの婚約者カミーユ

 いや、アンさんは自身が辺境伯令嬢だよ?騎士爵位令嬢のカミーユとは立場が違うよ。オレも准男爵だからここに居られる訳で。

 家格は遥かに向こうが上。

 でも子息令嬢より自身の爵位が優先されるから、あの2人より今はオレの方が身分は高いんだって。


「クロノ准男爵殿。此度は皇女殿下の使者のお役目ご苦労様でした」

「いえ。本来ならこれは卿の役割の筈です。上手く立ち回れるか、冷汗物でした」

 相手は10近く歳上。だから年長者への敬意を示さないと。でもさっきも言ったけど身分はコッチが上。なのでマゼールさん達も公の場ではオレに敬語を使う。


 ホント、貴族って面倒くさい。


「事が此処まで早く進んだのは、矢張り法皇様の一声。一族たる准男爵のお働きは誰も代わる事など出来ません」

「それも全て『紫光の魔女』殿の献策。私は指示通りに動いただけです」

「その策も状況によっては裏目に出ます。状況次第で自己判断出来る准男爵ならばこそですわ」

「すみません、もうダメです。その、アンさんから褒められると有頂天になります」

「あら、礼儀作法は完璧と思っておりましたのに」

「舌噛みそうです。この辺でご勘弁下さい」


 マジで貴族って面倒くさいよ。


 そう。ガスター新が手早くミズル元公爵の反感貴族を集められたのはマゼールさん達が皇女派の貴族を説得したからなんだけど、それに輪をかけて説得力を増したのはの噂。法皇様キティさんはオレの話に乗ってガスター家に使者を遣わしたんだ。


 コレで噂が事実と誰の目にも明らかになった。

 後は雪崩を打つみたいに糾合出来た。


 それに、オレの立場も鮮明になってる。


 ブヌア家王太子派の娘が嫁でも、オレは皇女派だと。


 そして法皇一族の者だと。

 そこに気を使ったのか?先の竜征と併せて今回の動きを評価されて、オレは陞爵する事になった。


 オレ、男爵になっちゃったよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る