第31話 公国動乱 3

「お館様、斥候が戻りました」

「で、どうであった?」

「彼の者の申す通り、国境付近にミリシア王国兵を確認。クルタイ平原にて守備兵と睨み合っております」


 ミズル公国の隣り。

 西の国境を有するモルド辺境伯の領地。その領都ヒルズボードでソーザ=モルドは報告を受けた。

 父たるモルド辺境伯ゾルダンは病に伏していて、私が騎士団を率いる事になっていた。なのでまだ代替りは行っていないものの、実質私がとして指揮をとっている。

 今、隣の公国では次期公爵たる公孫のお陰で治安が荒れ、彼の領都カートライトバーグで領民との衝突が生まれている。その為、避難民が領境に押し寄せつつあり、此方の騎士団を動かして対処しようとしていた矢先だった。


「国境の兵を動かしてはなりません。この機にミリシア王国の侵攻が有ります」


 ドリスが街中で出会った異世界人エトランゼの言。世迷言とも思えずに国境付近に斥候を放って調べさせてみたところがこの報告だ。


「まさかミズル家がミリシアと組んでいたと言うのか?」

「彼の者が申す事には乗せられていい様に操られての仕儀であると」

「は。国務大臣を輩出する三公が、何と情けない事。だがこれで彼奴等は動けまい。守備隊には国境を堅めるだけで良いと伝えよ」

「御意」


 気になるな。

 何故その異世界人エトランゼは他国の動きを知っていたのか。


「申し上げます。お館様、只今皇女殿下の御使者が参りました」

「何?皇女殿下の?直ぐに御通しせよ」


 やって来たのは確か四天騎士の1人、大地の騎士グランナイツチェレン。


 そこで聞かされたのは三公交代劇。

 ミズル公爵を国務大臣及び三公の座から退かせガスター侯爵を新三公とし国務大臣の職を与う事と、ルキアル皇子殿下を宰相の座に推しあげる事。皇女派はその為に動いていて既に法皇様の賛同も得ていると言う事だった。


 妹が学院で同窓な事もあり、我がモルド辺境伯家は皇女派と言っていい。

「分かりました。我が辺境伯家も喜んでその策に乗らせていただきます」


 おそらく事が成った暁には、あの道楽公孫は廃嫡の憂き目に合うだろう。爵位を落とす原因となる公孫をミズル公爵が許す筈もないからな。

 それで隣領が落ち着いてくれれば此方は万々歳だ。


 だから皇女殿下の策に乗る事の同意と、ミリシア王国の不穏な動きを皇女殿下に伝えてもらう事にした。


 よし。事は好転した。

 父上にも安堵してもらわねば。


 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


「そう。同意してもらえたのは重畳。それにしてもミリシア王国が国境付近でその様な動きをしていたなんて」


 西の国境、モルド辺境伯の元から帰って来たチェレンからもたらされたのは辺境伯家の同意と隣国の不穏な動き。

 これでアンバー辺境伯とモルド辺境伯が同意してくれた。国境守備の重責を担う辺境伯家が2つも同意して動いてくれるのは大きい。皇帝陛下お父様もこの意は無視出来ないし、ルキアル皇子お兄様も同じ。

 特にお兄様は宰相位に就く事にまず賛同すまい。ガスター侯爵の推薦だけでは頑なに拒む。こんな時のお兄様は本当に頑固。


 そして件のテイマーロディから法皇様の同意を取り付けたとの連絡が届いた。


 フフ。

 既に法皇様が同意していただけた、と諸侯の説得に使っているのだけどね。これで問題無し。


 いよいよ明日。

 皇帝陛下お父様を説得する。

 読めないのは軍務大臣ポーリッチ公爵のみだけど、多分乗ってくれるわよね。

 あの方も最近国務大臣とは巧くいって無いもの。


 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


 オレ自身西の国境付近へ飛んだ。

 そう、文字通り空から見たんだ。


 この世界レムルには空からの偵察ってあまり馴染みがないみたいで。竜騎士は強力かつ貴重な戦力だからあくまでも切り札であって偵察なんかには使われない。獣人も哺乳類型しか居ない。翼を持つ鳥人型は勿論昆虫人型も存在しないんだ。竜人ドラゴニュートはいるらしいけど見た事無いし。

 だから上空の動きなんて余程の事がないと気付かれない。


「予想通りミリシア軍がいる。でも国境守備隊がそのままだ。領境へは動いてない。よし!コレで動乱は動乱規模で無くなる。只の『バカ孫やっちまった』事件で収まってしまう。ミリシアに領土を取られる事も無いよね、今更。これで歴史が変わった‼︎」


 オレは大満足でエラムに帰った。


 帰ったオレを出迎えてくれたのは皇都に居る筈の婚約者カミーユ


「よかった。すれ違ったかと思ったわ」

「ごめん。何か約束してたっけ?」

「あら?会いに来てはダメなの?」

「大歓迎さ。色々駆り出されてるから何時でもって言えないのがもどかしいけどね」


 会いに来てくれた事がとても嬉しくてさ。

 人目も憚らずオレはカミーユを抱き締めてしまった。

「きゃっ、もう、ロディ?」

 多少非難めいた口調だけど、身体は全く拒んでない。やがてカミーユもオレの肩に手を回して抱きついてくる。身体がシッカリと密着して、柔らかくて発育の良いカミーユの肢体をオレは身体中に感じていた。


「じゃ、ウチへおいでよ。あ、せっかくだ。この時間ならギルドにリリアさんもいるからさ。まずソッチに紹介するよ。姉って言うか、殆ど母親代わりなんだ」

「エラムギルドの人気受付嬢って評判の方よね。ぜひ!」

 カミーユは貴族令嬢って言うより街娘って様相の格好。だからギルド館に入ったオレ達に色んな声が飛ぶ。


「よう!ロディ‼︎おお?なんだ、そのかわいこちゃんは?」

「オレの婚約者!手ェ出すなよ‼︎」


「「「なぁにぃ?」」」


 実際には3人と言わずギルド内の殆どが声を上げた。カミーユってやっぱ、結構美少女なんだよ。


「婚約したとは聞いちゃいたが、何だよ、その超絶美少女は?」


 周りから「超絶美少女」って言われて赤面するカミーユ。やべ、マジ可愛い。

 って言うか、コイツ自己評価低いよね。カミーユ、最高の婚約者カノジョだって声を大にして言うよ。


 周りの冷やかしを若干スルーしつつ、まぁ完全にスルー出来ないのはオレ自身赤面してるからなんだけど、オレ達はリリアさんの所へ。


 感激したリリアさんに、その日はご馳走になったんだ。


 …オレの方が金持ちリッチなんだけどな。

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