第25話 ドラゴン征伐 1

 トライドル。

 宿に着いてホッと一息入れていた時、法皇様キティアラさんから連絡があり婚約者カミーユが誘拐されたんだって聞いた。

 多分大丈夫って思っていたら、ホントにその後カミーユが自力で脱出・解決したって法皇様から連絡があった。でも精霊魔法を結構派手にブッ放したとか。


「あんた達って実は規格外カップルだったのね」


 ヒデェ言われ様だ。

 ま、解決したのならオンの字。キティさんにお礼言って、気持ちを切り替える。ドラゴン征伐に集中しないと。


 何せレッサーとは言えドラゴン。


 状態異常の無効と、必ずではないにしても魔法無効化の能力を持っている。その上竜鱗はヘタな剣戟は通用しない。

 レッサーだから翼を持たないので飛行能力は無く、しかも鈍重でジャンプすら出来ない図体。


 確かにフェンリルとグリフォンならば勝機はある。レッサーならば魔物のランクはコッチの方が上だから。

 問題は頭数なんだ。


 これが神竜とかならば、絶対に1体だ。


 でもレッサーは群れを作る。

 実際、5体は確認出来ているし、まだいるかもしれない。だとしても今回広域極大爆裂呪文エグゾフレイムは使えない。

 ドラゴンのお狩場と言われてる場所が、この街…いや、この国の穀倉地帯だからだ。焼き払うなんて以ての外。ここの小麦が壊滅すると、帝国中のパン屋が爆値上がりしてしまう。

 なのでオレは、来年の朝食クロワッサン確保の為にドラゴン退治を頑張る訳だ。


「クロノ准男爵殿、いいかい?」

「やめてくださいよ、ダガーさん」


 あてがわれた宿の部屋の扉をノックして、気軽に開けてきたのは『裁きの刄』の美人魔法使いダガーさん。悪戯好きの性格なのか?直ぐからかってくる。


 で、オレ達はブレードさんの部屋で作戦会議。


「先ずはグランに乗って状況と頭数を確認します。その後誘導…」

「あぁ。我々はコッチの山脈麓の平原で待機。多分ココしか戦う場所はない。こうしてみると相手が飛竜じゃなくて本当に良かった」


 ワイバーンならば飛ばない様頭を押さえなくてはならない。グリフォンは上空で睨みを効かせる事に集中する事にして戦力半減。もう1グループ欲しいって話になる。


 それはそうと、エラムギルド所属のオレ達が何でトライドル迄出張ってきているかと言うと、此処のギルドには高ランクの冒険者がいないから。

 トライドルもエラムと同じくアンバー辺境伯の領土だ。そして国境に面した帝国の玄関口。

 とは言え貿易港でも商都でもなく、むしろ関所って言える街。だから、此処は辺境伯の騎士団より国境守備の国軍、つまりは帝都近衛師団の方が多いって訳。

 各貴族の騎士団は護衛と領地の治安維持が目的だから、対人戦闘に特化していると言っていい。でも帝都近衛師団は飛竜騎士団とかも擁して、対魔物戦も充分対応出来る。でないと国境守備なんて無理な話。


 そう言うとわかるよね?


 魔物退治とか、冒険者ギルドに金出して依頼しなくても無料で動く国軍がいるんだから。オレだって国軍に頼むよ。

 現代日本で言えば、普通警備会社にパトロール頼まないよねって話。警察行くでしょ。

 なので、冒険者ギルドへの依頼は殆ど採取依頼やお使いメインになる。ランクE以下で充分。


 今回はドラゴンの群れって言う特例中の特例。

 流石に近衛師団でも手に余る事態。勿論街への侵入を防ぐべく多少の戦闘は行ったみたい。それなりの犠牲を払ったとの事。

 だから帝都から近衛師団の応援を呼ぶより、高ランクの冒険者、しかも有名処もいる隣街のエラムギルドに話を持っていったんだ。

 で、オレ達が出張って来た訳。


 たった5人とは言え、異世界人エトランゼのランクAパーティ『裁きの刄』とフェンリルやグリフォンを従魔に持つオレロディが来た訳だから、街の人は勿論、ギルマス・ヘインズさんも近衛師団の隊長さんも大歓迎してくれた。


「でも流石に広域極大爆裂呪文エグゾフレイムは無理ですね。無効化されたら、只焦土を作っただけってオチになるし」

「ドラゴン相手だと2次効果も期待出来ない…か」


 広域極大爆裂呪文エグゾフレイムは、炸裂した後暫く溶けた灼熱の大地を作る。熱が魔物達の生命を削り続けるんだ。

 でも火口に住む事もあるドラゴンは溶岩流にも耐える身体を持つ。爆裂エネルギーならば傷付ける事が出来るかもしれないけど、熱はドラゴンには殆ど効果無い。


「だからこそ、味方にフェンリルがいるのは心強いよ」


 神狼フェンリルは別名氷魔狼と呼ばれてる。吹雪ブレスと氷属性魔法を持ち、牙や爪の攻撃も致命傷を与えられる魔物だ。

 そしてドラゴンの唯一の弱点が氷属性攻撃なんだ。


「そうね。頭を抑えられるグリフォンと氷魔狼のフェンリル。本当に理想的な味方だわ。私の魔法属性は炎、風、光に無属性だから」

「4つって凄いじゃないですか」

「『全属性』持ちが言う?貴方、回復以外は全部あるんでしょう?」

「ええ、まぁ」

「流石、魔女メーヴの子だよなぁ」


 魔法使いと言っても、使える魔法属性は限られてくる。下手すれば1つってヤツもいるけど、冒険者に成ろうってヤツは大概2~3つの属性を持ってる。ダガーさんの4つはかなり珍しい。


 確かにオレ、全属性だけど。

 炎水風大地に光闇。無属性って一括りに言ってるけど、コレ防御・探知・移動・時空に細分化される。

 前にも言ったけど、得意な属性と相反する属性は中々両立しない。だからダガーさんも水と大地は苦手で闇は使えない。無属性は先に言った順に使用魔力が増える。なので防御や探知は使い易く移動は使い手が少なくなる。時空になると殆どいない。魔力レベルが高い為に使用魔力半端ないからだ。で、オレの魔力は人族最高と言っていい程だし、カミーユに至っては先祖返りのお陰でエルフ並みの魔力だ。

 規格外カップルって言うの、納得は出来るけど、実に不本意。

 って、話逸れたね。


「母さんみたいに『賢者』だと治癒師ヒーラーの魔法も使えたんですけどね」

「テイマーなのに『魔法使い』の呪文を『全属性』で使えるのよ?贅沢過ぎない?」


 あぁ、魔法使いからはそう思われるのか。

 うん。やっぱチートだよね。


「それじゃ、明日は朝一から討伐始めっぞ。今夜は鱈腹食って、早めに寝ろよ」


 まぁ、もう他にやる事ないよね?

 夜目の効くドラゴン相手に夜襲なんて自殺行為だし。



 翌朝。

 皆の期待を一身に背負い、オレはグランに跨りドラゴンの狩場へ飛び立った。


「頼んだぜ、ロディ」

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