第24話 暴走の果てに 4

「カミーユが?うーん、まぁ、連絡ありがとうございます、法皇さ…」

「キティって呼ぶ様に言ったよね!ここにはエレンディアしかいないのよ」


 トライドルに着いたオレ達は、ギルマスのヘインズさんから状況を聞き、とりあえず宿をとってから動こうとしていた。

 で、宿屋の部屋に入り一息いれようとした時に連絡オーブが輝き、法皇キティアラさんからの連絡が届いたんだ。


 オレの婚約者カミーユが誘拐されたって。


「気にはなるけど、オレ今トライドルに居ます」


 辺境たるエラムの北東、コリコス王国との国境に接する帝国北の玄関口トライドル。ここから北へ行くとリザン山脈が連なり、この山を越えるとコリコス王国となる。山脈そのものは帝国領だけど向こうの麓にコリコス王国の南玄関口の街ヴァイセルバーグがある。


「依頼?」

「です。まぁ、でも、カミーユは大丈夫だと思います」

 オレの自信に満ちた顔を見て、キティアラさん、少し疑問に思ったみたい。

「カミーユさんって、そんなに強かったかしら」

「ここだけの話にしてください。カミーユは精霊魔法が使えます。先祖返りしたそうです」


 魔法使いの魔法と精霊魔法とでは、精霊魔法の方が遥かに威力が高い。

 例えば風の刄エアロカッター風属精霊の剣シルフィエッジを撃ち合ったとする。風属性同士だから普通は打消し合う。でもこの場合エアロカッターのみが霧消するんだ。しかも精霊魔法は大概が広域魔法。


 ね。威力が違い過ぎる事、ピンときた?


「だから、自力で脱出して帰宅してると思います。けど…、念の為に確認してもらえると嬉しいです、…キティ…さん」

「ま、いいわ。その名前呼びに免じて動いてあげる」


 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


 学校が終わっての帰宅途中、カミーユは道端に座っているお婆さんを見かけた。何やら困っている様にも見えたので、声を掛けた途端に魔法が飛んできた様にも思えた…。


 気がつけば、私は森の中にある小屋の一室にいた。制服に乱れはないので、その意味では何もされてはいない。それに私の左手薬指に煌めく指輪は、そういう意味での防護魔法がかかっている。

 とは言え、日が暮れる前に帰らなければ、要らぬ風聞が立ってしまう。


 幸い、ここは洞窟等ではなく普通の部屋だ。

 窓には格子があるものの外は見え風が入り、灯りとして蝋燭も灯っている。つまり、風属精霊シルフ炎属精霊サラマンダーもいるのだ。


 窓の外に人影。どうやらこの小屋の見張。

 帝都から少し離れてる?どうやら貴族の御狩場で、狩猟小屋みたい。となると…、あった。この家紋は…、騎士ファラン家?成る程。ガスター侯爵の腰巾着、ブロン准男爵の陪臣家だわ。

 それにしても短絡的。この指輪から想像出来なかったのかなぁ。初夏の誕生石エメラルドの中に浮かぶ家紋~クロノ家の紋章。私の生まれ~初夏季節サマスタット瞳色ライトグリーンとを掛けた宝石に封じ込められた家紋章。ロディマスは准男爵だけど、この家紋はクロノ公爵家と同じ物。法皇一族にケンカ売ってるって、ピンとこないのかなぁ。


「旧き盟約の名の下に、炎属精霊サラマンダーよ、我が意のままに力となれ~炎撃ファイアボルト


 蝋燭の炎から飛び出しているとは思えない火玉が部屋の扉をふき飛ばす。


「な、な、は?何をしやがった?」

 ファラン家の家人?じゃなくて雇われゴロツキね。


「こうしたの。ファイアボルト!」

 再び火玉が蝋燭から飛びだす。


「な、何だ?魔法?じゃなくて?は?ば、バケモンか?」


 やっぱり。

 精霊魔法は未知の領域ね。しかも威力の割に視覚効果抜群だし。

「通してもらえるかしら?私、使えるのは炎だけではなくてよ?風属精霊の剣シルフィエッジ

 天井裏に潜む方がいるみたい。でも気配を女子学生に読まれる様じゃね。覗き穴から吹矢でも狙ってたみたいだけど、ウザいから落ちてもらおうかな。


 シャッ!バキバキ‼︎

「うわわわわぁ」


 天井板が切り裂かれて落ちてきたおじさん。

 呆然として呟く。この方は知ってたんだ。

「…精霊魔法?そんな?エルフじゃないのに」

「ブヌア家には昔、エルフの伴侶を持たれた方がいます。確かに黒歴史ですけどね」

「……」

「此処はファラン家のモノですよね?貴方達は法皇家に刄を向けていますが、その自覚あります?」

 指輪を煌めかしながら問い掛ける。あ、顔色変わったのはリーダー格の方?この方はどうやら家人ね。雇われゴロツキじゃないんだ。多分私とゴロツキ達の監視役ね。

「ロディマス様は准男爵ですが、法皇家一族でもあります。下手をすれば主家まで類が及びます。このまま私を帰してくれませんか?私も事が公になるのは好ましくありません」


 穏便に済ませたかったんだけどなぁ。


 風属精霊シルフのお陰で、大気の流れ~人の動きにかなり敏感になれてます。この小屋は囲まれてる。これ、どうも法皇家の手のモノ。


「御迎えに上がりました」



 私は、法皇家の馬車で帰宅した。

 が、その前に御礼の為に法皇家に寄らせてもらう事にした。


「法皇様、この度は御足労おかけしました」

「ロディから聞いています。要らぬ手出しだったようですね。ですが、かの家は法皇家に喧嘩を売ったのです。意思表示は明確にしないとね」


 エレンディア先輩の呆れ顔を見るに、どうも法皇キティアラ様は面白がっているご様子。事は公にはならないでしょうが、はてさてファラン家が裏でどうなる事やら…。


「後、噂に尾ひれが付くよりは自分から言った方がいいわね?」

「はい?何を?」

「精霊魔法。ゴロツキ達、かなり怯えてたわ」


 先祖返りの事を公表しろって事…。

 でも、これはブヌア家の黒歴史。私の一存では…。父と相談するしかないか…。



 数日後、夫となるべきロディマス様が竜征戦士ドラゴンスレイヤーの称号を得た事が聞こえてきました。

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