第14話 陞爵、そして… 2

「これで、おしまいっと」


 もうすぐ交代の時間。

 リリアが受付にいると色んな冒険者がやって来る。以前程業務外のお誘いの話が来る事はないので、忙しいとは言えそれ程困る事は無くなった。


「リリア、ちょっと来てくれ」


 ギルマスから呼ばれた?何かトラブル?


 ギルマスの部屋に入ると、サブマスター・ジェシー女史と魔物鑑定士サラさん、指導員マイケルさんがいた。は?どういう組み合わせ?何があったの?


「もうすぐ上がりだってのにすまんなぁ」

「いえ。あの、何か」

 ギルマス・ドルフさんは本当に理想的な上司。この人がマスターを引き継いでからギルドは本当に風通しが良くなった。あ、前任フラクさんが酷いと言う訳では無かったけど。…あの人は事勿れ主義だったから…。


「ちぃと前置きが長くなるが…。実は皇帝直轄領のフランで魔物暴走スタンピートが発生した。詳しくは分かっていないが、どうやら人為的に、と言う事らしい」


 魔物暴走スタンピートが人為的?

 何て酷い事を。街が滅ぶかもしれないのに?


「人為的って?何故分かったの?」

 不思議そうにジェシー女史が訊ねます。


「直前、近くの森のダンジョンから溢れる瘴気が濃くなったらしい。方法が分かってない。が、ダンジョンに何か細工されたらしい。時同じくしてギルドに盗賊討伐依頼が入っていた。デボルド一家の隠家のタレコミがあってね。ランクC以上の冒険者が根こそぎ駆り出された」


 デボルド一家?あの大山賊?

 は?魔物暴走スタンピートの発生時にランクC以上が不在だったの?


「まさか…。じゃあフランは壊滅したの?あそこの森やダンジョンはそこまで高ランクのモノはいないとは言え、ランクCDがゴロゴロいたわ?オーガやオークも一定数はいたし」

「いや、帝国皇女リスティア様と護衛の四天騎士が居られたんだ」

「それは…。四天騎士は英雄級ランクAだし、皇女様は治癒師ヒーラーとしてかなり優秀と聞く。あー、だからか?皇女殿下を害する為に魔物暴走スタンピートを起こした?」

 頷くマイケル。貴族の事情?


「そう言う事らしい。で、ここ迄が前置きだ」


 魔物暴走スタンピートが前置き?


「この魔物暴走スタンピート、防いだのは四天騎士じゃない。彼等は皇女殿下の護衛から離れなかった。実は瘴気の人為的発生を気付いたのと街を守り切ったのは同一人物、1人のテイマーだそうだ」


 前置きって?テイマーって?まさか?


「ウチのギルド所属のテイマーって分かるな」


 ウチには1人しかテイマーはいない。

 何故私が呼ばれたのかも分かった。甥っ子ロディの事なんだ。


「は?ロディが?馬鹿な。あの子ランクEよ?もうすぐD昇格試験を受ける筈の?ま、確かに最短記録…には近そうだし将来有望なのも間違いなさそうだとは思うわ。でも…」

 ジェシー女史が信じられないと言う感じで訊ねてくる。


「彼奴は皆の前で広域極大爆裂呪文エグゾフレイムをブっ放し風と炎属性魔法剣を駆使したんだと。それに飛翔呪文フライトも。更に従魔としてランクAのグリフォンとフェンリルを呼んだとか」


 絶句するしかない。

 新人冒険者で甥っ子で…。あんな子供のロディが?


「まだ驚く事がある。彼奴のクラスレベルは48だとよ。つまり彼奴は英雄級ランクA相当のテイマーだ。何でも母親の魔女メーヴからとんでもない教育シゴキを受けていたらしい」


 兄マディウスもそれなりに優秀な冒険者だった。塔を攻略出来ているのだから実績もある。その兄と魔女の間に産まれた子だ。私はあの子ロディの才能を低く見てしまっていた?


「とんでもない教育シゴキって?」

「時空魔法の一種らしい。1日で1年分の鍛錬を積めるフィールドを作り出し、その中で修行をつむ。翌日は動けなくなるらしいが、そんな鍛錬を数年彼奴はやっていたとか。で、従魔のフェンリルとグリフォンだが、何でも兄弟同然に育っていたんだとよ」


 魔女メーヴなら有り得る。


「ロディが産まれた頃に、塔にはフェンリルの子供とグリフォンの卵があったんだと」

「兄弟同然…。ならば懐いても当然ですね。狼属の魔物は特に主従観念が強い。テイマーとして今迄有名だったのは帝都ザーベルグギルド所属のメイスンですが、彼の従魔がランクDのグレイウルフです」

 流石、魔物鑑定士サラさん。 


「確かレベル3だったよな。数少ない成功したテイマーだ」

「その評価も変わるな。ランクAを2体持ち自身のレベルが英雄級40超えとなると」


 確かに。何か不思議な…雰囲気のある子だったし…。そうか、移動速度がおかしかったのはグリフォンを使っていたんだ!だからあれだけの塩漬け依頼を熟せていたんだ‼︎


「で、街と皇女殿下を守った事で、どうやら陞爵されるみたいだ」

「陞爵?騎士に取り立てられるって事?」

「元々魔女メーヴは騎士爵位を持っていたお貴族様だ。流行病の治療魔法を法皇と創り上げた時に爵位を得ている。片親でも爵位があれば産まれた子は貴族爵位を持つのが帝国の法だ」


 あの子が貴族…。

「もうロディって気軽に呼べないですね」

 私の呟きにサラが、

「公的以外では構わないと思うわ。あの子異世界人エトランゼみたいな雰囲気有るし。貴女に傅かれたら泣くかもよ?」

と茶化してくる。確かに私もそう思う。その、雰囲気も含めて。


「ま、以上の事がフランギルド及びフラン代官ゴーダ准男爵の名で公表された訳だ。ロディがウチ所属のテイマーである以上、各種問い合わせがひっきりなしに来るだろうから、彼奴をよく知る者に状況を話した。悪いが頼む。彼奴の意図した事じゃねぇし、何よりこれからの騒ぎは彼奴にとって不本意だろうし」


 本当。これからのとんでもない騒ぎが目に浮かびます。

 例のメイスンさんの、レベル3のテイマーってのもギルドでは破格の扱いでした。それくらいテイマーってレベルが上がり難いんです。レベル2すら殆ど見ない。ゴミ処理スライムを契約ティムして生計を立てる方が殆どと言う程。

 それなのに、レベル48って?


「そう言えばあの子、凄い魔法に魔法剣をも使ったって?確かにテイマーは上級職だけど、魔法使いから転職したのかしら⁉︎」

魔女メーヴの子だ。最初は魔法使いだろう。でテイマーってなった時に剣も覚えたんじゃないかな?尤も魔女は賢者だったが。彼奴は回復神聖系は使えないみたいだし」


 そう言えば回復は従魔であるピクシーアリスに頼りっきりだったわ。


「転職?あの歳でか?」

「1日を1年換算で鍛錬出来るんだろ?3日おきにしたとしても年間で100年分だ。週1でも50年」

「ホント、とんでもない教育シゴキね…」


 そうね。お祝いも兼ねて、帰って来たら優しくしましょう。ね、ロディ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る