第13話 陞爵、そして… 1

 オレは時空間呪文の応用による修練方法を話した。

「では、そのフィールドの中では」

「1年間たっぷりガッツリ修練、そういう濃密な時間になるんです。でも実際には1日しか経ってないし、空腹とか体力消費は1日分なんです。でも魔法とか剣技修練の熟練度は1年分。流石に翌日は何も出来ません」

「……成る程。確かに半端ない教育シゴキだ。でも、あの従魔は?」

「オレが生まれた頃、塔にはフェンリルの子供とグリフォンの卵があったみたいで…。だからあの2頭は兄弟同然です」

 頭に擦り込まれた設定。お陰で自分の経験談として出てくる。

「それでテイマーとなった8歳でもランクAを契約ティム出来た訳だ」


 常識を疑う存在。

 だが話を聞くと納得出来る。


 少なくともオレの目には、そう見えたんだ。


「まぁ、立ち話もなんだ。礼や報酬の話もしたいし、そろそろ街の中に入らねぇか?」


 街門の処にいるオッさん。

 この街、フランの冒険者ギルドマスター・ケイン=ゴーダさん。フランの代官ケルン=ゴーダ准男爵の異母弟で騎士爵位は持ってるそうだ。って、その代官も後ろにいる?異母弟なのに、双子かよって位似てるんだ。違いは口髭のみ。で、紛らわしい事に、髭生やしてる方が弟のケインさん。前はケルン准男爵も生やしてたらしいけど、鼻の下チョビ髭しか生えなかったんだって。ケインさんは頬へ向かってピンとはねる立派なモノ。ケルン准男爵は、『滑稽過ぎる』って髭剃ってそれっきり。でも今度はケインさんの方が貫禄あって歳上に見えるからやっぱり一悶着。


「後で代官館にも来てくれ。勿論、そこのお嬢様と護衛の冒険者達もな」

 そう言ってケルン准男爵は街の中に去って行った。

「了解です、代官殿。さて、坊主とお嬢様に、そこの護衛の方々。ギルド迄ご足労くださいませ」


 遠巻きに冒険者や街の住民が見守る中、オレ達はギルドへ向かう。



 ギルドの2階のギルマス応接室。

 部屋に入り、それなりに豪華なソファに座ると同時に、オレ達はケインさんより深々と頭を下げられたんだ。

「先ずは魔物暴走スタンピートよりフランを守ってくれてありがとうと言わせてもらう。本当に感謝する」

「まぁ、冒険者の義務みたいだし」

「私はお前さんの事を聞いた事は無いが、いつからギルドにいる?」

「あ、オレ、此処じゃなくてエラムギルド所属の、ランクEテイマーです」

「はぁ?ウチじゃないのか?しかも?」


「「「「「ランクE?」」」」」


 マゼールさん達5人もハモってしまう。


「ギルドに入って1ヶ月弱。コツコツと薬草採取や小物配送を熟して、ランクDの昇格試験受験資格を認められてました。中々の昇格速度って褒められたんです」

 オレにとっては結構自慢?柔かに話したんだけど…。

「うん、まぁ、1ヶ月弱でDの昇格基準に達してるって確かに早いけど…」

「誰が見てもAの実力だろう?魔法は賢者並みで魔法戦士と言える剣技、契約ティムしてるのはフェンリルとグリフォン」

 マゼールさんの呆れた声。見ると他の4人も頷いている?

「いや、その、エラムではこの子ピクシーしか出してませんし。後ゴミ処理用にスライムが3匹」

「その時点で従魔が2種4体。これっておかしくないか?」

「あぁ。魔物鑑定士サラさんには突っ込まれましたね」


 あの時『有り得なーい』って言われて…。ブレードさん達のお陰で有耶無耶に出来たんだけど。


「あ、3種4体です。アシッドスライムが1匹いましたから。コレでお鍋とかも処理出来るんです」

「へぇー。ソイツは便利」

「その魔物鑑定士が発狂しそうな処、眼に浮かぶ様だわ」


 何せ一般常識としては契約ティム出来る魔物は1種1体。


「本来テイマーが契約ティム出来る数や種類に上限って言うか制限は無いんです。それを常識って思われても」

「成る程。単純に魔力の問題なのか」

 オレの説明にマゼールさんが呟く。

魔女メーヴの子なら赤ん坊でも魔力多めだろう。だからフェンリルやグリフォンがティム出来た。家族同然に育っている分、それこそ使用魔力に多少のボーナスでも付いたんじゃ?」

「有る訳無いでしょ」

 チェレンさんの呟きにシャーロットさんが突っ込む。あはは。シャーロットさんの言う通りで、ティムの使用魔力に例外とか特例なんて無い。


「君にとっては、或いは不本意かもしれない。だが、君の存在は皇宮とエラムギルドへ報告する事になる。じゃないと魔物暴走スタンピート鎮圧の報告に齟齬をきたしてしまうからな」


 ガックリ。メチャクチャ不本意です。


「俺達がいるし、皇宮には話いくよ。そもそもお嬢を守ってくれたんだし」


 あら?カイルさん、『お嬢』って言ってはいるけど正体バラしてません?


「カイル。何故我々が『お嬢様』と呼んでいるのか、自覚あるのか?カミングアウトしてるぞ」

「は?」


 うわ。気付いてないっすね?天然なんだ。


「マスター・ゴーダ。私達が居たが為に魔物暴走スタンピートに巻き込まれた事、皇女リスティアの名で謝罪致します」

「勿体無いお言葉です、皇女殿下。殿下自ら門の防衛に居て下さった事、感謝する事はあっても謝罪される謂れは私共にはございません」


 あ、流石に皇族として謝罪した。

 って言うか、皇族が謝罪した?凄い!帝国の至宝って、よく言ったもんだ。

 いや、勿論声に出す事は無いけど…。


「それとロディマスさんも。本当にありがとうございます。皇女リスティアの名で正式に貴方に感謝を」

「いえ。さっきも言いました。コレって殆ど冒険者の義務みたいなもんです」

「まぁ、確かに魔物暴走スタンピートから街を守るのは強制力を持つクエストだが、絶対的って訳ではないから。己が力量を見極めてという判断が何よりも優先される。でなければ冒険者なんて真っ先に滅んでしまうよ」

 ギルマス・ゴーダさんが笑い乍こたえる。


「さて、悪いが皆んな、この後代官アニキの処へ顔を出して欲しい」



 皇帝直轄領の代官であるケルン准男爵が帝国皇女リスティア殿下の顔を知らない筈がなく…、館に入ったら、代官自身が跪いて待っていた。

「准男爵、私は平民の冒険者ティアとしてこの街に来ています」

「先のギルドでは皇女殿下として謝罪なされたとの事。それを聴きましては、最早一介の冒険者を御迎えするという訳にはまいりません」

 あはは、皇女殿下溜息ついてるよ。

 そういうオレは、まだ館内には入っていない。玄関踊場、ドアの外にいる。貴族館である以上許可無ければ立ち入れる場所じゃないし。

「入って構わんよ。君にも心からの感謝を贈りたいしな」

 そう言って准男爵が手招きする。


 准男爵より改めて街を守護した事の感謝と報酬として金貨5枚って破格の金額が提示されたんだ。

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