第11話 魔物暴走 3

「おい、あれ!?」

「うそだろ?彼奴、魔法剣使ってないか?」

「…魔法戦士?テイマーじゃないのか?」

「テイマーだろ?でなければ低ランクとは言えピクシーを使役なんか出来ない」

「は?テイマーがあんな呪文を放てる筈ねぇだろ?テイマーのステイタスって一般人と変わんねえんだぞ?」


 街の門の処で待機する冒険者と共に、マゼールは目を疑ってしまう。

 遥か遠く、魔物暴走スタンピート状態の魔物の群れに対し、広域極大爆裂呪文エグゾフレイムを放った少年が、今魔法剣を駆使して戦っている。

「マゼール?」

「ああ、チェレン。私も我が目が信じられない。彼奴の戦い方は魔法戦士のそれだ。その上呪文の威力は賢者と言っても過言ではない。それなのに、ピクシーまで使役している」

「って言うか、何であの場にピクシーが無事でいられるんだ?あの熱量や爆風に低ランクのピクシーが耐えられる筈が?」


 そう。かの少年ロディの後ろにピクシーが寄り添っている。電撃呪文ジオンで攻撃・牽制しつつ、契約主人ロディ回復呪文ティアをかけている。


「8歳からテイマーとして活動している。彼はそう言っていたな。とすれば、かれこれ5~6年はテイマーやってるんだ。彼自身底辺レベル1じゃないと言っていた。仮にテイマーレベル3だと考えたら、あのピクシーはレベル7~8は最低でもある事になる」

「は?魔物にレベルが?」

契約ティムした魔物はレベルアップする。我々と同じ様にクラスレベルが生まれるんだ」


 多勢に無勢。偶に此方の近く迄来る魔物がいる。その魔物を退治する為にカイルが門から少し離れて戦っている。私とチェレンが門を守り、シャーロットは門の上部、見張り台の場で今は防護魔法を展開している。治癒師ヒーラーたるティアお嬢様皇女殿下は万が一の為に治癒呪文を放とうと身構えている様だ。


 うん?あの少年が口笛を鳴らしている?

 彼は己が剣に風刃呪文エアロカッターを纏わせて飛んでいる魔物に対処している。羽虫は何とかなっているようだが、どうやら大型の鳥型魔物数匹に苦戦している?いや?彼の背後のピクシーを庇っているのか?


「お、おい!あれ‼︎」


 まさか?飛んできたのはグリフォンか?

 ランクAの空の王者と呼ばれる鷹獅子?1頭だが、コイツは1頭でもこの街位ならば破壊出来る。


「ヒィッ、も、もう終わりだぁ!」


 それに、向こうから駆けてきたのはフェンリル?コイツもランクAの神狼?くそっ、こんな大物まで魔物暴走スタンピートに加わるとは?お嬢様リスティア皇女殿下だけでも何とか逃げ出せる様にしなければ!


 な、まさか?


 フェンリルが向こうに現れたオーガの群れを駆逐している?それにグリフォンの背にあの少年が?

 彼は此方にやや近付く形で移動するとグリフォンから降りた。何やら指示している?グリフォンはそのまま鳥型魔物を蹂躙している?


「マゼール?あれは?」

「信じられない。グリフォンもフェンリルもあの子の従魔なんだ」

「馬鹿な?ランクAなんだぞ?」


 だが、どう見てもそのランクAの魔物が少年と連携している。私は、本来なら禁じ手タブーなのだと思いつつも彼に鑑定呪文アナライズを掛けてみた。


 バチン!


 な、弾かれた?

 まさか?彼は私よりクラスレベルが上なのか?冒険者のクラスレベルは10でベテラン、20超えでランクBになろうと言う具合だ。私は40超えだから英雄級と呼べる筈。その私よりも上?

 考えてみれば、今彼はランクAの魔物を2頭使役している。一体どんな、どれだけの鍛錬を積んだと言うのか?


「マゼール」

「お嬢様、此方に来られては?」

「大丈夫です。あの子が街を守ってくれています。此方に来る魔物は殆どいなくなっています」

「みたいですね。カイルも此方へ戻ってきました」


 門から少し離れて、チラホラ突破してきた魔物から門を守っていたカイルも状況を確認したのか、此方へ戻って来ていた。

 フェンリルとグリフォン迄加わった少年の守りは、もはや魔物の突破を許さない状況を作りつつある。


「何てこった!あれ、フェンリルだよな?それにグリフォンも!」

「私も信じられないよ」


 目の前で繰り広げられている光景。

 これだけの人数が見ているのだ。幻覚等有り得ない。にも関わらず、我が目を信じられない。


「『母さんメーヴ教育シゴキって半端ないんです』…か。あの子が言った事がようやく飲み込めたよ」

「確かに魔女メーヴはランクSの神竜すら倒していました。『滅びの魔女』とはよくぞ呼んだものです。その血筋は伊達ではない、と言う事なのでしょう」

 私の…独り言ともいえる感嘆にシャーロットが応えてくる。


「只のカマ掛けだと思っていました。でも彼は正しく状況を把握して、私の正体を推察したのですね」

 お嬢様…、帝国皇女リスティア様を狙う影!


「させぬ!」


 風騎士エアロナイツの名にかけて。

 妙な動きを見せた盗賊風の男に風刃呪文エアロカッターを跳ばす。


「ぎゃっ!」


 と同時に小さな火玉も跳ぶ。

 炎騎士フレイムナイツと呼ばれるカイルの炎呪文ファイアだ。流石にコイツも動いたか。


「俺達四天騎士に隠れて事を成せると思ったのかよ。笑わせてくれるぜ」


「グワァああ」


 足元を切り裂かれ、頭部に軽い火傷を負った賊は堪らず倒れ込む。そこへシャーロットの拘束呪文バインドが跳ぶ。


「本当に彼の読みは正しい」


「何故?誰一人として護衛から離れなかったとは?」

「我等以上に街の守護を担える人材がいた。今回は此方に運が有ったのだろう」

 盗賊風の男は歯軋りして呻く。

「何だってあんな化けもんがいたんだ。奴さえ、あんな奴さえいなければ…」


 魔法で拘束され地べたに這いつくばる男を見下ろしつつ、

「コイツどうする」

「誰に依頼されたか吐いて貰わないとね」

「………」

「話す気無しか?」

「必要ないよ。そうだな、ボルト家の仕業にでもしとこうか?」

 我乍ら悪どいな、そう思いつつ私は笑みを浮かべる。

「は?ボルト家の?」

「今お嬢様皇女殿下に色々御託を並べるのはボルト子爵家だ。そこが此方を害するのに魔物暴走スタンピートまで起こした。まぁ、事実かどうかは関係ない。そんな噂が拡がるだけでね。彼の存在は死体でも充分なんだよ」

「悪ど過ぎない?」

「まぁな」

 自嘲するしかないが、我々はお嬢様皇女殿下を護らなければ…。


 あの少年ロディを味方に出来ないものか?

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