第2話 転生 2

 夢を見たんだ。


 夢。

 そう、夢としか思えない。でも現実…。


 いきなり白い世界へ連れて来られて、ゲームの導入部なんか始まってさ。今迄共にクリア目指して頑張ってたパーティメンバーがまるで洗脳されたみたいに…。いったい何の使命があったんだ?そして何故オレに使命が聞こえなかった?どうして1人で転生する羽目に?


「ごめんなさい。貴方しか干渉出来なかったの」


「は?誰?干渉?」

 導入部の声とは違う。謝罪する様な女性の声?


「それもここ迄。貴方の転生の辻褄を合わせます。これで思いのままに生きられる筈…」




 オレは気がつくと、鬱蒼と生い茂る森の中にいた。

「確か『魔の森』と呼ばれる処だっけ?でもここを抜けたら辺境の城砦都市エラム」


 グランザイア帝国の辺境。コルコス王国との国境を接しているものの街道は森を大きく迂回している。

 森の奥、中心部には魔女の住む塔がある。

 『滅びの魔女』と呼ばれる魔女メーヴがいたと言われている塔。

 ゲームではメーヴは過去の人だった。

 塔にはとんでもないお宝があり、また塔の最上階では幻のメーヴから宝とゲーム攻略のヒントを貰える事になってて。とは言え死の迷宮デス・ダンジョンと呼ばれる程攻略の難しい塔であり、運営の意地の悪さの象徴とも言われていた。


「辻褄ね…」


 ステータス画面を見ると、オレは、そのメーヴの息子になってた。しかも14歳。オレ個人は17でプレイヤーキャラクターとしては25歳だったから見た目は結構若返ってる。波目~糸目は変わらず。

 コンプレックスだけどトレードマーク。

 眼の形が変わってない事に少しだけ安堵した。紅眼だけど。このゲーム、キャラのアバターは部分を選択して好きに組み上げていく形のタイプ。でもその選択肢の中に紅眼は無い筈。あぁ、そういえばメーヴの瞳も紅かったな。確かかなり珍しい白子アルビノだった。白髪紅眼。肌もめちゃくちゃ白く、だからこそ黒いローブが神秘的に見えた。

 でもオレは黒髪。まぁ栗色と言えるかな?どっちにしろ紅眼はめちゃくちゃ違和感。糸目でよかったかもしんない。

 身に付けている物もハードレザー?『豪華な革鎧』ってヤツ?それにごく普通のロングソード。魔法戦士の時は魔剣と呼べるバスタードソードを持ってたんだけどな…。鎧だってミスリルの最高級品…。

 どうやら装備品は持ち越せなかったみたい。でもステータス画面のアイテム欄ストレージボックスを見ると各種便利アイテムが99個揃っている。路銀はとりあえず1人旅出来そうな位は持ち合わせてる。金貨1枚に銀貨3枚。銅貨32枚に真鍮価78枚。うん。2ヶ月は何もせんと暮らせると思う。

 と、ストレージの中にあるコレ?鷹獅子グリフォン神狼フェンリル妖精ピクシーって?

 そういえばオレのクラス。魔法戦士ではなくて魔物使いテイマーになってる。


 あれ?このゲームのテイマーって、確かテイムできる魔物は1体だけだったんじゃ?

 と、頭の中に解説書の様な文が浮かんでくる。


『テイマーは上級職。だから転職クラスチェンジでしか成れない。転職するとレベルは1に戻る。テイマーは能力ダウンの職なので魔力も一般人並に減ってしまい、その為テイム出来る魔物も1体のみとなってしまう。これはレベルが上がれば解消出来る。尤もテイマーは魔物を使役する為、魔物の方に多く経験値が入る為、元々レベルの上がりにくい上級職が更に上がらなくなっている。世間一般のテイマーが低レベルであり1体のテイムが限度の魔力しか無い』


 何だ?改めてステータス画面を見る。


 『備考:世界の知識有り』


 何だ?コレ?もう忘れてたゲームの世界解説。そのまんまオレの知識として頭に入ってるんだ。


 オレのレベルは…、は?レベル48のテイマー?

 『神の金貨』で転職したせいか?レベルとステータスが据え置きになってる?と言うか、魔法戦士の能力そのままにテイマーがプラスされているんだ!クラスはテイマーなのに。

 オレは今でも高レベルの魔法及び魔法剣が使えるんだ。その上で魔物が3体。グリフォンとフェンリルがレベル5、ピクシーがレベル10って?

 ピクシーは最弱に近い愛玩用とも言える魔物だけど、そこそこレベルがある分回復魔法がある。


「至れり尽くせりだな。でも使命は聞こえない。オレに何をさせたいんだ?」


 その答えは返ってこない。


「『生きよ、世界を変えよ』…か…」


 せっかくお膳立てされたんだ。2周目プレイ、楽しもうかな?


 とりあえずストレージにある3体を呼び出してみる。っと、あれ?ご機嫌斜め?


「酷いよ、ロディ。アタシ達アイテムじゃないんだから!」

 捲し立てるピクシー。ってオレの事を何て呼んだ?ステータス画面を慌てて見てみる。


 ロディマス(ロディ)。

 あぁ、別のゲームで造ったキャラクターの名。それが今のオレの名になってるんだ。


「ガオーン」

「グルルルゥ」


 フェンリルもグリフォンも同意見みたい。かと言って3体も、それもこんな高ランクの魔物を出しておく訳にはいかないよね。確か…、

「フェンリル、グリフォン。我が身に控えて」


 このゲーム、テイムした魔物を自分の影に収容出来た筈。うん、目の前から2体が消えた。

「フェンリル、グリフォン。出て来て」

 地面に輝く召喚陣が出来て、そこから2体が出て来る。

召喚サモナーみたいな出て来方だよね」

 収容も呼び出しも問題無し。でも種族名を呼ぶのも味気ない。

「よし。お前はグランでお前はフェン。そして…」

「アリス!アタシには名前が有るの!」

「は?何で?」

 間抜けな応答だけど、つい聞き返してしまった。ま、いいや。

「オッケ!じゃあ、よろしくね、アリス」


 再びピクシー、もといアリス以外を収容するとオレは森を出て城塞都市エラムに向かうべく歩き出した。飛ぶのが面倒くさいのか?アリスはオレの肩に乗っかってる。

 ピクシーって身長10数cmか?ごく普通にワンピース着てるよね。背中は…、あ、スリットがある。此処から羽根が出てる。へぇー。

 おしゃべり好きみたいだけどウザい感じじゃない。1人旅を想像していたオレは女の子の相棒が出来て、結構ハイテンションになってた。


 この世界。面白いかもしんない。


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