第3話 転生 3

 森はデカい!

 ゲームだと一瞬なんだ。


 『移動:魔の森→エラムの街』


 アイコン一つなんだけど。中心部に近かったのか?結局1日じゃ森から出られなかった。フェンとグランを呼び出して狩をさせたら、コイツ等即獲物を採ってきた。一角兎ホーンラビット数匹と水魔熊ウォーター・ベア。こんなに?って思ったけど、考えてみたらコイツ等のエサも必要なんだよね。熊はフェンとグランに与えてオレとアリスは兎を戴く。魔法で血抜きした後、ストレージボックスに何故かある塩を振って丸焼き。


 うん、この世界の魔物って中々美味い。


 そう言えば、ゲーム内で食事場面なんて無かったよね。移動時間といい空腹状態といい、現実味溢れるゲームだと思っていたけどまだまだだったんだ。

 明日は森を出られるかな?

 グランに聞いても方向は合っているとの事。

 間違いなくコッチの方向にエラムの街はある。


 尤もグランはどれくらいかかるか教えてくれなかった。ま、仕方ない。オレの徒歩速度はグランにはピンと来ない。グラン自身は一っ飛びだし。フェンも多分1日掛からず駆け抜けていける筈。

 どうせ急ぐ旅でもない。

 森でそのまま1泊。フェンとグランの間で眠る。うん、中々暖かい。このメンツならば魔物に襲われても対処できるし、そもそも生半可な魔物はコッチに気付けば逃げると思う。なのでオレはガチで爆睡してしまった。

 あはは。野宿なんて生まれて初めてだよ。


 翌朝。

 オレとフェン、グランは昨夜の残りの肉で朝飯。アリスは近場で何やらの蜜を飲んで来たとか。

 また2体を陰に戻して、アリスを肩に置いて歩き出す。街が近くなって来たからか、出て来る魔物のランクが下がりオレとアリスだけで対処可能になった。

 本来なら弱い方の魔物であるピクシーだけど(最弱は勿論スライムな)、流石はレベル10。衝撃呪文ドガン電撃呪文ジオンの威力が中々高い。魔力も結構豊富で回復呪文ティアもある。低ランクの魔物で苦労しそうなのはゴブリン位だろうね。

 あ、ゴブリンは強さは大した事無い。けどコイツ等は冗談ではない数で襲ってくる事もある。ついでに錆びた短剣位持ってる事もあって、アリスの2人だけの時には出来れば会いたくないね。アリスの持つ呪文は全て単体にしか作用しないし。


 実は後から気付いたんだ。

 グランに跨がれば飛んでいけないかって?

 それにオレは高位の魔法を使える。飛翔呪文フライトもあるんだよね。

 ゲームではパーティ単位で動く事が基本だったから。フライトは単体用呪文だし。だから移動手段って馬車か歩きしか考えもしなかった。


 オレの思考も固いな。

 と同時にワクワクしてきた。何だって出来る。何でも試せる。自己責任だけど。単体仕様ソロ・プレイだから失敗しても迷惑かけない。最悪マヌケが1人死ぬだけ。


「とは言え、流石にもう帰れないんだろうなぁ」


 現実日本では変死体。

 勿論そんな事知る由も無い。唯漠然と帰る事は不可能って感じてた。



 結局もう1泊したよ。

 途中川辺もあったので、折角だから水浴びって言うか行水。身体を拭いてサッパリした。

 夜食はまたグランとフェンが採ってきてくれた。特にフェンは冷凍ブリザードブレスで獲物を捉えてくる。冷凍のままストレージに収納するので日持ちする。


 どうやらフェンが氷属性アイス大地属性グランド、グランが風属性ウィンド炎属性ファイアを持っている様だ。でアリスが電撃属性エレキ回復属性ヒール。前衛後衛そろったオールマイティのパーティ。


 誰かは知らない。あの意識下に謝罪してきた女性の声。使命は言わなかったけど、オレに何かさせたい…んだろうな。あ、ひょっとして唯利用されそうな状況を防ぎたいだけかもしんない。

 どっちにしろ、勝手にこの世界に送り込んでおいてって恨言も言いたい気もするけど。


 でも、ワクワクが止まんないよ。



 エラムの街に着いたのは翌昼。

 街並って言うか、まず外観!ゲームのまんま。何度もクエストの為に訪れた街。お陰で少しホッとしてる。


 で、街門で止められてしまった。


 何せオレは何の身分証も持っていない。しかも14歳はまだ、この世界でも未成年だ。門の横にある警備隊詰所に連れていかれる。

 尤もオレはガキだし見た目も駆け出し冒険者。門にいる警護兵もオレを凶悪犯って思ってる訳じゃない。指名手配とかされている輩ならば門に埋め込まれている水晶が反応する。魔法障壁が発生して中に入れない様になってるんだ。これは多少大きな街ならば標準装備の魔導具。


「じゃあ名前と年齢。出身とここに来た目的を聞こうか」

「オレはロディマス、14歳。出身は…森ん中」


 あーぁ。怪訝な顔されちゃったよ。


「オイオイ。住んでいた街の名を聞いているんだぞ」

「だから街には住んで無い。その…東の森の真ん中にある塔で暮らしてた」

「はぁ?あんな処に子供が住める訳が無かろう」

「でもオレと母さんは住んでたんだ」


 母さん。この言葉に警備隊詰所の兵士達は顔を見合わせる。

「おま…、いや君はまさか魔女の子供なのか?それがどうして?」

「母さんが…迎えがきそうだから、お前修行の仕上げついでに1人で生きていきなって」


 魔女メーヴは不老不死の噂があった。

 いつ出会っても若き女性の姿だったから。


 実際に不老不死な者等いる筈も無く、何歳なのかはわからないが、魔女メーヴも寿命を迎えてはいた。


「ここ最近は寝てばっかりだったんだ」


 オレの意識下に魔女との暮らしが刷り込まれている?演技では無く、オレは自然に魔女との暮らしを応えていた。


「成る程。それではこの街を拠点に修行、冒険者として生きていく。そう判断していいのかな」

「はい」


 オレに質問してくるのは詰所の長なんだろう。親子程離れた感じの歴戦の兵士。屈強な髭面で笑みを浮かべてなければビビって泣きそうだよ。


「もしかして君は…」

「コイツがいるから丸わかりですよね。オレ、テイマーです」


 肩にピクシーがいるのだ。可愛く小さな少女風でも魔物。テイマーでもなければ人に懐く事は無い。


「テイマー…。しかも従魔がピクシー」


 なんか蔑まれてる様な。憐れんでる様な。


 ピンときた。テイマーって最弱の不遇職。しかもピクシーも最弱に近い。つまりオレは討伐は勿論迷宮探索も難しい底辺レベル1と思われてるんだ。


「まぁ、頑張り給え」


 この後冒険者ギルドへ行き、詰所の兵士達の態度がまだマシって思い知らされたんだ。

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