第179話 後継者の宝珠

「お礼に貰ったはいいけどなんだろコレ?」


 森と魔物達の汚染を浄化した事で、森の主である巨大な魔物から宝石の玉を貰ったんだけど、これってなんなんだろうね。

 ただの玉じゃなくて装飾っぽいパーツがあるから、何かの道具っぽくも見えるんだけど、単純に置いた時に転がら無い為の台座とかにも見える。


「とりあえず合成してみるかなぁ」


 合成した後解体すれば元の素材も鑑定できるようになるしね。


「んじゃ適当にシトリンをこの宝玉に合成!」


 一応金目の物っぽいので宝石を合成してみる事にする。けれど……


 ブブーッ!


「うひっ!?」


 突然脳裏にブザーのような音が鳴り響いたのである。


「え? 何今の?」


「どうかしたのニャ?」


 近くの岩の上でデローンと溶けながらお肉を食べていたニャットがどうでも良さそうに聞いてくる。いや本当にどうでも良さそうだな。

 まるで自分の家みたいにリラックスしてるじゃん。

 友好的になったとはいえ、ここは魔物の巣窟なんだよ?


「今なんかブーって音が鳴ったよね」


「音? ニャーには聞こえニャかったのニャ」


「え? 嘘!?」


 結構大きな音だったのに聞こえなかった?

 でもそばにいるミズダ子も、何故かまだ近くにいる巨大な魔物も何も起きてないかのように平然としている。


「聞こえたのは私だけ?」


一体何だったんだろ?

気にはなるけど、感覚の鋭い皆が気にしていないみたいだから危険が迫ってる訳じゃないのかな?

私は気持ちを落ち着かせようと合成した宝石に視線を戻す。すると……


「あれ? 何で?」


 合成した宝石は全く見た目が変わっていなかったのだ。


「別の宝石を合成したはずなのにって、あれ? シトリンが残ってる?」


 何で? 今確かに合成したはずなのに。


「失敗した? そんなことあるの?」


 試しに私はもう一度シトリンを宝石に合成する。

すると再びブブーッという音が響き渡った。

私は周囲を見回して皆の様子を見るも、やはり誰も気にしている様子が無い。

そして手元を見れば、やはりシトリンは残ったままだった。


「これ、もしかして合成できない?」


 何故か分かんないけど、この宝玉は合成する事が出来ないの?

 念のため鑑定をしてみるものの宝石の鑑定は出来なかったので合成は失敗しているっぽい。


「合成できないものがあるなんて……」


 ゲームで言う大事なものとか、これを売るなんてとんでもない的なイベントアイテムとかなのかな? でもだとしたら何の為のアイテム?


「そうだ、検索を使えばどうかな!」


 私はさっそく検索能力でこの宝石の合成に使えるアイテムを検索してみる。


『合成対象:ロストポーション』


 なんとロストポーションが合成素材として出てきたのである。


「おお!? ロストポーションが使えるの!?」


 どうやらこの宝石、合成に使えるアイテムが限られているタイプっぽい。


「よーし、それじゃあまずはロストポーションを合成だ!」


 私はニャットに頼んで森の中からロストポーションを合成する為に必要な材料であるイスカ草を合成する為の薬草を集める。

 そして完成したロストポーションを宝石に合成したのだけれど。


「うわっ、まぶし!」


 なんと宝石がビックリするくらい光りだしたのだ。

 そして数秒後光が収まると宝石は姿を変えていた。


「出来た!」


 完成したアイテムをさっそく鑑定してみる私。

 見た目はさっきの宝石とほとんど同じだけど、台座の形が変わっている感じだ。四つ足が生えて、その一角だけが他の足と違う形をして宝石よりも上に伸びている。


「ニャニャ!? ニャンだこの神気は!? まさかあの馬鹿女が……いや違うニャ、降臨した訳じゃニャーのか?」


 と、今の光にびっくりしたのか、ニャット達が飛び起きて周囲をきょろきょろしている。

 そして全員の視線が私に集まって来る。


「カコ、おニャー今ニャにかしたのニャ!?」


「ご、合成しただけだよ!?」


 と私は合成した宝石をニャットに見せる。


「ニャニャ!? この神気!? おニャー何を合成したのニャ!?」


 問われた私は素直に貰った宝石を合成したと語る。


「アレを合成したのニャ!? って言うかアレを人が合成出来たのニャ!?」


 ニャットが凄くビックリしているのが分かる。

 だって尻尾がブワッと膨らんでるもん。

 見ればニャットだけじゃなくて巨大な魔物も毛をブワッとさせている。


「それでこれは何なのニャ」


「あっ、そうだった。鑑定」


 急かされて私はすぐに鑑定をかける。


『大いなる後継者の宝珠:後継者たりえる者の前に現れる大いなる器。全ての宝珠を集めた時、至高の神秘を迎え入れるだろう。また所持登録を行う事で所有者の力を高める効果がある』


「……だって」


 私は確認した内容をみんなに伝える。


「「「……」」」


 何か皆凄く困惑してる。表情とか分かんない筈の巨大な魔物からすら困惑してるのが伝わって来るんだけど……


 とはいえ皆が困惑するのも分からないでもない。だってこのアイテムの説明凄く意味深なんだもん。


 ただゲームで遊んでいた現代っ子の私からすると、このアイテムの説明もなんとなくわかる。


 多分このアイテムは同種のアイテムをすべて揃えると効果を発揮するセット系のアイテムだ。

 〇〇シリーズを全種装備すると特殊能力が発動みたいな感じで。

 もしくは特殊なアイテムを作り出すまでの中間素材なのかもしれない。

 ロストポーションしか合成できなかった事といい、特定のアイテムと合成をしていくことで最終アイテムが完成するタイプ。

 後者の場合だと装備品じゃなく素材の一種になると思うから、後半の説明を見る感じセット装備の方かなぁ?


「でも所持登録ってどうやるんだろう? どっかに登録ボタンとか……無いなぁ」


 試しに宝珠部分や周囲の台や突起部分を触ってみるけど、ボタンみたいになってるところはないっぽい。

 となるとほかに考えられるのは漫画とかでよくある……


「登録するのは簡単ニャ。おニャーの血を垂らすだけで良いのニャ」


「あーやっぱり!」


 ファンタジーお約束の血液登録だー!

 でも痛いのは嫌なんだよなぁ。


「おニャー本気でそれに登録するつもりニャ?」


「え? でも登録すると強くなるって説明にあったし」


「その前の説明を忘れたのニャ? ニャんだか分からん怪しいモンの後継者にニャりたいのニャ?」


 そう言われるとちょっと怖いかも。


「うーん確かに。じゃあ解体して元の宝石に戻そっか」


 確かにニャットが危惧した通り、もしこれがヤバイ呪いのアイテムだったら怖いもんね。


「んじゃ『解体』」


 私は解体の力を発動して宝珠を元に戻そうとしたんだけど……

 ブブーーッ!!


「うひゃっ!?」


 そうしたらひと際大きな音が脳裏に鳴り響いた。


『本アイテムの状態は不可逆です』 


「え? マジ!? あ痛っ!」


 突然目の前に表示されたメッセージに驚くと同時に、手に鋭い痛みが走る。

 慌てて視線を下に向けると、私の指先が赤く染まっている。

そして驚いた拍子に落としてしまったらしい宝珠の台座部分の突起に輝く赤い液体。


 ピカッ!


『所有者登録が完了しました。末長いご愛顧のほどよろしくお願いいたします』


「と、登録しちゃったーっ!?」 


「ニャニーッ!?」


 こうして、私はよくわからない宝珠の持ち主に正式登録されてしまった。


「ど、どうなっちゃうの私!?」


『実績が解除されました。新たな能力が解放されます』


「あっ、強くなった」

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