第177話 森を汚すモノ

「原因の場所は分かったけど、これからどうしよう」


 魔物達がやって来る場所は見つかった……んだけど、そこに入るのはニャットですら止めるレベルで危険っぽい。


「中に入れないと調査すら出来ないもんねぇ。ニャットやミズダ子も駄目なの?」


「臭いから入りたくニャいのニャ」


「なんか汚いからいやー」


 個人的な問題かよ。いやまぁ私もウンコの森に入ってウンコが溢れる理由を調べろって言ったら嫌だって言うけどさ。


「それに調べたいニャらそこの魔物を調べればいいのニャ」


「魔物を?」


「そうニャ、この森から出て来たばかりの魔物なら、何か異常の原因が体に残ってるかもしれないのニャ」


 確かに、証拠って時間が経つと調査できなくなっちゃうモノもあるみたいだからね。


「よし、それじゃあ解体して鑑定するよ! ミズダ子お願い!」


「ハイハーイ」


 ミズダ子は空中から水のナイフを作ると、魔物達を解体してゆく。


「それじゃ合成! 鑑定!」


『汚染されたクラッシュウルフの肉:濃度の高い汚染水を飲んで精神に異常をきたしたクラッシュウルフの肉。食べると体調を大きく崩す為危険。生肉に触れる事も推奨しない』


「汚染水!?」


 その単語に私は南部で起きた事件を思い出す。


「もしかしてこれって……」


 私は検索で汚染水を浄化するレシピを検索する。

 この辺りだと南部で手に入る素材が手に入らないからだ。


「……ええと、浄化ポーションに必要な素材は……あれ?」


 と、私は脳裏に浮かんだ素材に見覚えがある事に気付く。


「これ魔獣族領域で皆から貰った素材だ」


 まさか集めるまでもなく素材が集まってたよ!?


「流石に都合よすぎじゃない?」


 まるで意図して案内されたような気すらしてくる。


「当然ニャ。魔獣族領域は人族が素材目当てで侵略を目論んだ場所ニャ。様々な武具や薬の素材になる魔物や薬草の宝庫なのニャ。そこに住んでる連中がカコの肉料理目当てで素材を持ち込めば、そりゃ大抵の素材は手に入るってもんニャ」


「もしかしてニャット、聖域以外にもその為に私を連れて来たの?」


「ただ肉だけの為に連れてくるわけニャーのニャ」


 いや、そこは肉の為って言われた方がニャットらしいと思うんだけど……


「おニャーも商人なら、素材を手に入れるチャンスは見逃すんじゃねーのニャ」


「あ、うん。ありがとうね」


「ニャーの優しさが分かったニャら今夜は美味い肉を用意するのニャ!」


「はいはい」


 ともあれ、手持ちで浄化ポーションを作れることが分かったので、さっそく私は合成を試す。


「よし出来た。じゃあ試しにこのお肉にかけてみるね。で、染み込んだらちょっと切って合成!」


『クラッシュウルフの肉:肉厚で噛み応えのある肉が美味。顎が強くないと食べるのは大変だが、しっかり肉叩きハンマーで叩いて柔らかくすれば美味しくなる』


「やった! 解毒出来た!」


 これなら森の魔物達も解毒して正気に戻せるね!


「ガブッ」


 と、目の前の肉が消える。


「あっ」


 上を見れば、巨大な魔物が私の浄化したお肉を美味しそうに食べていた。


「あー! それはニャーの肉ニャ!」


「ガフガフッ」


 けれど巨大な魔物は速い者勝ちだと言わんばかりの様子でお肉を食べてしまった。


「ゆ、許せんニャー! ぶっ飛ばしてやるのニャ!」


「グルルゥ」


 激怒するニャットだったけれど、巨大な魔物はそれを無視してこれも浄化しろとばかりに他のお肉を前足の爪で指差す。


「あ、うん」


 私は言われるままに他のお肉を浄化してゆく。


「グルルゥ」


「そうはさせんニャ!」


 けれど肉を取ろうとした巨大な魔物の爪をニャットが蹴っ飛ばす。


「グルゥ?」


 その行動に怒ったのか、巨大な魔物の鳴き声に不機嫌な低い音が混ざる。

 次の瞬間、二匹のよる怪獣大決戦が始まった。


「うひぃぃぃっ!」


「はいはい、アイツ等は放っておいて、カコ、お肉を美味しくして」


 そんな中、一人マイペースなミズダ子。


「んー、美味しい! やっぱカコが美味しくしてくれた食べ物は最高だわー」


「ニャ!?」


「ガウッ!?」


 結果、ちゃっかりミズダ子だけが最高品質に合成したお肉にありついたのだった。


 ◆


「とはいえ、浄化ポーションが出来ても森に入れないんじゃ意味ないよね」


 私達が浄化ポーションを飲んで入るにしても毒沼に自分から入る様なものだから、薬の効果が切れた瞬間に毒に汚染水に感染してしまうだろうし。


「そんニャのそこの肉泥棒に任せればいいのニャ」


「え? ミズダ子に?」


「そうよー、私に任せなさーい。カコはさっきの浄化ポーションを沢山作って」


「う、うん。分かった」


 私は言われるままに浄化ポーションを一括合成する。


「もうちょっと作って頂戴」


「あっ、もう材料が無いよ」


「ニャらニャーが森に戻って村の連中に材料を集めさせるのニャ。おニャーも自分の縄張りの事ニャんだから、荷物運びを手伝うのニャ」


「グルゥ」


 巨大な魔物は仕方ないとばかりに立ち上がると、ニャット達と共に魔獣族領域へとはけてゆく。


 そしてビックリするくらい早い時間で戻って来た。


「いや速すぎない!?」


 素材集めとか大変だろうし、何より道中の移動時間もあるし何日かかかると思ってたよ!?。


「恩人であるカコの頼みニャ。どこの村もカコの為に総出で素材を集めてくれたのニャ」


 おお、なんとありがたい。


「それに移動はカコがイニャいからニャ。本気で走ったのニャ」


 ええと、その本気って時速何百kmくらいですかね?

 絶対新幹線くらい出てたでしょ。まさか飛行機……いや流石にそれはないか。


 ともあれ材料が集まったので私は更に合成を行う。

 そしてミズダ子が良しと言うまで集めると、宙には巨大なポーションの水球が出来上がっていた。


「そしてこれをこう!」


 ミズダ子は森へ向かって飛び上がると、空からポーションの雨を降らせ始めた。


「ああすれば正気を失った魔物だけでなく、汚染の原因になったものも浄化するのニャ」


 成程、スプリンクラーみたいに撒くために用意させたんだ。


「腐っても水の大精霊ニャ。満遍なく、霧状にして噴き出しているのニャ。あれなら撒き残しもニャいのニャ」


 成程、精霊霧吹き器って訳かぁ。


「森全体に撒いてきたわよぉ。洞窟とか無ければこれで大丈夫だよ思うわよ」


「お疲れ様ー!」


 よかった、これで森は元に戻ったんだね。

 それなら魔獣族領域の皆も魔物に脅かされずに済むし、安心だね。


「じゃあご褒美に美味しいもの頂戴!」


「おニャーはさっき食ったばっかニャ!」


「グルォゥ!」


 うん、巨大な魔物さん……君なんか馴染んでません? 一応魔物だよね?

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