第176話 魔獣の縄張り
「酷い目にあったのニャ~」
最高品質の魔物除けで大ダメージを受けて悶絶していたニャット達がやっと目を覚ました。
「大丈夫?」
「全然大丈夫じゃニャいのニャ。鼻がバカになってるのニャ」
ニャット以外の鼻の良い獣人達もまだフラフラしている。
「匂いを嗅いだだけのニャー達でコレニャ。直接ぶっかけられたコイツは溜まったもんじゃニャーのニャ」
と、泡を吹いている巨大な魔物を見て気の毒そうに肩を竦めるニャット。
「でもどうしよう。目を覚ましたらまた暴れるかもしれないし、今のうちに縛っておく?」
何せ魔物だ。正気に戻ったとしても私達を見たらご飯と思って襲ってこないとも限らない。
「その心配はニャいのニャ。コイツくらいの魔物になると高い知性を持つニャ。とんでもニャい目にあわされたとはいえ、正気を失っていたのを元に戻してもらったとあっては義理を欠くような真似はできニャいのニャ」
「ニャる程、白砂みたいなかしこい魔物って事なんだね」
「ニャが甘いのニャ」
久しぶりに甘いのニャ頂きました。
そして暫くして巨大な魔物は目を覚ました。
目が覚めた瞬間にフギャッと言いながら鼻を地面にこすりつけ始める。
うん、魔物除けを拭き取ろうとしているね。
けれど全然取れなくて凄く悲しそうに鳴いている。
そして突然走り出す巨大な魔物。
「どこに行くんだろう?」
「まぁ予想はつくのニャ」
そして猛スピードで駆けていた巨大な魔物が天高く跳んだ。
直後聞こえてくるバシャーンという大きな水音。
「あ、川?」
そう、今のは巨大な魔物が川に飛び込んだ音だったのだ。
そして魔物は川の中をゴロゴロと転がって水浴びを始める。
「ああやって魔物除けを洗いニャがしてるのニャ」
成程、確かに汚れを落とすなら水洗いが一番だよね。
そして魔物の下流からプカーと浮かび上がる巨大な魚達。
「ニャ! 川の中に流れた魔物除けがキツ過ぎて魔物が浮き上がって来たのニャ!」
なんと、まさかのとばっちり。
「アイツ等は美味いニャ! すぐ捕まえるのニャ!」
私達について来ていた獣人達は浮かび上がった魔物を回収しようと下流に向かう。
「ムワーッ! 臭いワン!」
「これは無理リス!」
けれど魔物除けが染み付いた魔物の匂いにUターンして戻って来る皆。
成程、せっかく美味しくても嫌な匂いが染み付いてちゃ食べる気になれないよね。
「でも私には全然匂いわないんだけどなぁ」
「人族は鼻が馬鹿だから気付かニャいのニャ」
鼻が馬鹿で悪かったニャっと、そうだ。
「ねぇミズダ子、あの浮き上がった魔物回収してくれる?」
「いいわよー」
ミズダ子が水を操作し、浮き上がった魔物を回収してくれたので、私は魔物に止めを刺して魔法の袋に入れてゆく。
「皆が食べれなくても人間相手なら高く売れそうだからね」
ニャットが絶賛するお肉ならきっと高く売れるよ。それに素材もお金になるだろうし。
「くっ、こんな臭くニャッた肉でも美味く食える人間が羨ましいようニャ羨ましくニャいような」
はははは、悔しかったら鼻がバカになるんだね。
「グルルルルッ」
なんてことをしていたら、巨大な魔物は水浴びを終えて陸に上がって来る。
そしてブルルルルと全身を震わせ、水を弾き飛ばす。って痛い痛い! 勢いよく水がぶつかって来る。
「くっせーニャ! よそでやるのニャ!」
けれどそれでも完全に匂いを落とせなかったらしく、ニャット達が悲鳴を上げる。
気のせいか巨大な魔物も嫌そうな顔をしているように見える。
「グルルルォ」
けれどそんなニャットの文句を無視して、巨大な魔物は私達に近づいてくる。
「分かってると思うが、コイツがおニャーを正気に戻したのニャ。かニャり臭い方法だったけどニャ」
「グルルルゥ」
巨大な魔物は何かするでもなく、私をじっと見つめる。
そうしてどれだけ時が過ぎただろう。
巨大な魔物は踵を返すと、私達から離れてゆく。
「グルゥ」
そして一度振り返るとまたゆっくり進んでゆく。
「ついて来いって言ってるのニャ」
付いてこい? 何か用があるのかな?
ともあれ乗り掛かった船だ。私達は巨大な魔物を追う事にした。
そして走り続ける事数時間、ようやく巨大な魔物は足を止めた。
「って、やっと止まったぁー!」
もうずっと休むことなく走ってたから、ニャットの上に乗っててもお尻が痛いよ!
「多分隣国の国境を越えたのニャ」
「国境を!?」
めっちゃ走ってたんじゃん!
「グルオゥ!」
こちらを向いて一鳴きした巨大な魔物がアレを見ろとばかりに鳴くと、目の前の光景に視線を向ける。
「アレは……森?」
巨大な魔物が連れて来たのは、巨大な森だった。
けれどその森はなんというかただの森の筈なのに妙に気持ち悪い。
「嫌な匂いがするのニャ」
ニャットも良くないものを感じたのか、不快そうに尻尾を揺らつかせる。
「アレがあなたの縄張りなの?」
「グルゥ」
巨大な魔物がそうだと肯定する様に低く鳴くと同時に、風が吹いた。
風は森の方から拭いてくる。
「何この匂い?」
森から吹いてきたのは、何とも気分の悪くなる刺激臭。
「カコ、あまりこの匂いを吸うニャ。コイツみたいにニャるかもしれニャいのニャ」
とニャットが私の顔を肉球で包む。うーん、フワフワ、そして土の匂いがします。
とりあえずタオルを顔に巻いて口と鼻を保護。どの程度守れるか分かんないけど、何もしないよりはマシでしょ。
「「「「ガァァァァァァァウ!」」」」
その時だった。森から何十頭もの魔物が飛び出してきたのである。
「魔物!?」
魔物は私達を獲物と見定めたのか、真っすぐにこちらに向かってくる。
「グルォォォォォ!」
そこに巨大な魔物が雄たけびと共に私達の前に出る。
「そうか、この森の主ならあの魔物達もいう事を聞くよね!」
「「「「ガァァァァッ!!」」」」
けれど魔物達は巨大な魔物の警告を無視して襲い掛かって来る。
っていうか正気!? 明らかに大きさが違うんだよ!? 幾ら数が居ても敵いっこないって!
事実魔物達は巨大な魔物に手も足もでず吹き飛ばされてゆく。
前足の一撃、尻尾の一振りで小石を蹴とばすかのように軽々と吹き飛ぶ魔物達。
そうして1分も経たずに魔物達は全滅してしまった。
「うわぁ、圧倒的」
「というよりコイツ等が無謀過ぎたのニャ。普通ニャら向かってくるはずがニャいのニャ。見るニャ、コイツ等の顔を」
ニャットに言われてやられた魔物の顔を見ると、その表情はどれも不気味に歪んでいた。
「やっぱりコイツ等も正気じゃニャいのニャ。力の差が理解できニャい程に我を失っているのニャ」
森からは、今も不気味な、そして異常に興奮した生き物の鳴き声がいくつも聞こえてくる。
「一体ここで何が起きてるんだろう……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます