第175話 魔獣迎撃大決戦
「よし、ここなら村を巻き込まないニャ。カコ、ここで魔物寄せを作るのニャ」
「うん!」
ニャット達と共に聖域を出た私は、村を巻き込まない場所で巨大な魔物をおびき寄せる事にした。
「『合成』!」
そして完成した魔物寄せを周囲にばらまくと、私達は急ぎその場を離れた。
「この後はどうするの?」
「あの魔物が来た方向に向かって都度魔物寄せを撒いてあいつを元の縄張りに向かわせるのニャ。ある程度縄張りに近づけば、奴も戻る……筈ニャ」
んん? なんか歯切れが悪いような。
ともあれまずは巨大な魔物が魔物寄せに引き寄せられるのを待ってからだね。
「アレ?」
しかしそこでミズダ子が首をかしげる。
彼女は水の柱を作って高い場所に陣取ると、遠くを見るように手を額にかざす。
「どうしたの?」
「うーんとね、アイツ、魔物寄せを無視して、こっちに来てる気がするわ」
「ええ!? 何で!?」
「何か気になるものがこっち側にあるのかもしれないニャ。場所を変えるのニャ」
そうして私はニャットに乗って場所を移動する。しかし……
「あー、やっぱ私達を追ってるっぽいわね。完全に魔物寄せの場所を無視してる」
「ええー!? 何でー!? もしかして合成に失敗した!?」
「って訳でもないみたいよ。ちゃんと魔物寄せをしかけたところに魔物が集まってるから」
って事はあの魔物だけが魔物寄せを無視して私達を追いかけてきてるってこと?
「しまった、そういう事かニャ」
「何? 何か分かったのニャット?」
何かに気付いたらしいニャットが険しい声になる。
「奴はニャー達にわずかに付いた魔物寄せの匂いに引き寄せられているのニャ」
「ええ!? でも私合成した魔物寄せに直接触れてないよ!?」
「おそらく気化した魔物寄せの匂いを浴びたせいニャ。ほれ、臭いモノの近くにいると臭いが付くニャ」
「で、でもそれならもっと濃い臭いの方に行くんじゃない? 遠くに離れた私達よりも臭いの濃い方が気になると思うんだけど」
私の意見にニャットは肩をすくめてこういった。
「奴は臭いが濃いだけの動かないモノよりも、臭いが薄いけど動くニャー達の方が活きが良くて食いでがあるって判断したのニャ」
ちょっ、野生動物の本能ぉぉぉぉぉぉ!!
「もしくは縄張りを侵す敵と判断したかしらね」
「期せずして疑似餌や生餌の役割を果たしてしまったみたいだニャア」
っていうか向こうの方がこっちの縄張りに入って来たんじゃん!
「それでどうするの!?」
「……とりあえずこのまま全力で逃げ続けるのニャ」
「その後は?」
「円を描くように移動して、奴がやって来た方角に向かうのニャ」
「最初の目的通り縄張りに追い返す訳だね」
「そういう事にゃ。寧ろアイツがニャー達を狙うならおびき寄せる手間が省けるのニャ」
「でも私達を狙ってるのなら、縄張りまで引っ張って行っても私達を追い続けるんじゃない?」
そうなったら最悪だ。
巨大な魔物がどこまで逃げても追いかけてくるなんて悪夢でしかない。
「恐らくその頃にはニャー達についた臭いもなくなってる筈ニャ……多分」
「そこはハッキリ大丈夫って言ってよー!」
とはいえ他に方法も無い為、私達は魔物をおびき寄せる作戦を続行するのだった。
◆
「巫女様ー!」
私達が迂回しながら巨大な魔物の縄張りに向かって移動をしていると、空からトッリ族が降りてきた。
そして彼は器用に私達の横を滑空する。
「あの巨大な魔物が巫女様達を追っているトリ。作戦は失敗したのかトリ?」
「うん。どうもあの魔物、私達に染みついた魔物寄せの匂いに惹かれてるみたい。だから私達が囮になってアイツを元居た縄張りに追い返すつもり」
「そういう事だったトリか。しかしこのままだと追いつかれるトリよ。一旦聖域に避難した方が良いんじゃないトリか?」
「それだと聖域に避難した皆も危なくなっちゃうから。万が一聖域の結界が効かなかったら大惨事だからね」
そう、聖域の結界は頼りになるけど、あれがどのくらい強いのか分からないからね。
元々住んでいた人達が居なくなったことを考えると、ある程度以上強い魔物には効果がない恐れだってある。
だから皆の避難先である聖域には近づけさせたくないんだ。
「巫女様……分かったトリ。ならトリ達も協力するトリ!」
「ええ!? 物凄く危ないよ?」
「ここは鳥たちの縄張りトリ! 外からきた巫女様達に全部任せっきりじゃトリ達の沽券にかかわるトリ!」
と、トッリ族は他人任せに何て出来ないと協力を申し出る。
「ありがとう、でもホントに無茶しないでね」
「任せるトリー!」
「うん、お願いね!」
よかった。これで私達が帰ってこなくても心配して探しに出る心配はなくなりそうだ。
あとは追ってくる魔物を上手くかわして縄張りを目指すばかり!
◆
「ギュルォォォォォォォ!!」
「ってデカァァァァァァァァァァイ!!」
巨大な魔物が私達を追って走ってくる。
その迫力はすさまじく、10tトラックや電車が跳ね回りながらこっちを追いかけてくると言えば伝わるだろうか?
もう質量の存在感がヤバイ。
巨大な爪や牙とかよりも、単純にデカくて重いものがこっちにぶっ飛んでくるように錯覚する恐怖。
「やっぱり正気を失っているニャア」
「正気ー!?」
「そうねぇ。完璧におかしなことになってるわ。2、3発いいのぶち込んでもこれは元に戻らないわね」
「つまり?」
「説得は無理ね」
だよねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!
「これだと縄張りに誘導しても素直に戻るか怪しい所だニャア」
「それマズいじゃん! どうするの!?」
「まずは正気に戻る必要があるけど、どうすれば正気に戻るのか分かんないのが問題よねぇ」
つまり手詰まりって事ですかぁー!
「あっ、大量の冷たい水をぶっかけるとかどう?」
気付けと言えば昔から水をぶっかけるのはお約束だ。
「うーん、どうかしらねぇ。まぁちょっとやってみましょ」
と言うが早いかミズダ子は大量の水を産み出すと、それを巨大な魔物にぶつける。
「ゴボアァァァァ!」
もはや気付けとか言うレベルじゃない水を叩きつけられた巨大な魔物は水の中でもがく。
うん、これ溺れてない?
「あっ、やっぱ駄目ね」
「ゴアァァァァア!!」
ミズダ子が呟いた瞬間、巨大な魔物を包んでいた水が吹き飛んだ。
そして巨大な魔物が身震いすると、大量の水が雨のようにバラまかれる。
「うひゃっ!?」
「やっぱり普通の水じゃ駄目ね。もっと凄いのじゃないと」
「もっと凄いの……そうだ魔物除け!」
思い出した、魔物避けは魔物が嫌がる匂いを出して追い払うものだと。
でも今の魔物は興奮し過ぎて魔物避けの効果がないんだとか。
「なら私のスキルで最高品質にした魔物除けなら効果あるかも!」
「ふむ、それならいけるかもしれないニャア」
そうと決まれば検索で魔物除けを作る為の材料を集めてすぐに合成しよう!!
「問題は悠長に薬を作る時間があるかって事だけどニャ」
「グルォォォォォォォォォォ!!」
「めっちゃ怒ってるぅぅぅぅぅぅぅ!!」
水浸しにされて怒ったらしい魔物はさっきよりも速度を上げて私達を追いかけてくる。
「これじゃ素材を集めてる余裕なんてないよぉぉぉー!」
どどどどうしよう!
「二手に分かれて囮役と魔物除けを作る組に分かれるのニャ。ニャーが囮にニャるから、おニャー等が魔物除けを作るのニャ」
「わ、わかった!」
「じゃあよろしく頼むニャ!」
私達は二手に分かれそれぞれの役割を全うしに向かう。
「ゴアァァァァァ!」
「って何でこっちに来るのぉぉぉぉぉっ!!」
しかし何故か巨大な魔物はニャットではなく私達を追いかけて来たのである。
「どうやらニャーよりオニャーの方が弱そうで喰いやすいと判断したみたいニャ! 親猫より子猫を狙うのは狩りの常道ニャ!」
魔物の後ろからニャットの声が聞こえてくる。
「私は子供じゃニャいニャー!」
「ニャが甘いニャ!」
「そんニャ事言っとる場合かーっ!」
アイテムを合成する私が狙われるんじゃ二手に分かれる意味ないじゃん
こうなったらもう私達に染み付いた魔物寄せの匂いが消えるまで待つしかないの!? でもいつまで逃げ続ければいいのー!?
「「「おりゃあああああっ!!」」」
その時だった。突然私達を追っていた巨大な魔物の体が真横に吹き飛んだのである。
「え!?」
「巫女様! 助けに来たワン!」
なんと、巨大な魔物を吹き飛ばしたのはイッヌ族達だった。
いや、イッヌ族だけじゃない、ネッコ族やワッニ族の姿もある。
「石を落とすトリー!」
「「「おおーっ! トリーッ!」
更にトッリ族が真上から袋を開き、大量の石を落としてゆく。
「グォォアアァァァァアッ!!」
これには堪らず巨大な魔物が悲鳴をあげる。
「今だワニ! くらうワニーッ!」
ワッニ族が巨大な魔物の足に噛み付くと全員がタイミングを合わせてゴロゴロと転がりだす。
「ワッニ族必殺集団ローリングだリス!」
木の上からリッス族達も姿を現す。
「リッス族まで!? 危ないよ!」
「大丈夫だリス。リス達は近づかずに遠くから攻撃するリス」
遠くから? あっ、もしかして魔法で……
「オラァ! 喰らうリスゥッッッ!!」
リッス族が仲間の放り投げた石を自分達の身長ほどもある巨大な尻尾でフルスイングしてキィンとやたらと良い音を立てながら巨大な魔物に叩きつける。
「ゴアァァァァ!」
「って尻尾で打ったぁぁぁぁぁっ!?」
まるで野球選手の千本ノックみたいな光景が目の前で繰り広げられていた。
「「「ワンワンワンッ!」」」
「「「フシャーッ! ウニャーッ!」」」
「「「トリーッ!」」」
「「「ワニーッ!」」」
「「「リスーッ!」」」
この場に集まった皆が力を合わせる事で巨大な魔物は……
「グゥォォォォォォォォォォン!!」」
パッカァァァァァン!
皆を吹っ飛ばした。
「って、ええええええええ!?」
イッヌ族とネッコ族は大きな尻尾で吹き飛ばされ、噛み付いていたワッニ族達も腕をベシンベシンと地面に叩きつけられて振り払われてゆく。
さらに天高く跳躍した巨大な魔物に驚いたトッリ族達は慌てて逃げだした事で足で掴んでいた石入りの袋を落としてしまう。
唯一リッス族達だけは離れていたので被害は無かったけれど、巨大な魔物の雄叫びに驚いて皆尻尾を丸めてうずくまってしまっていた。
「皆大丈夫!?」
ヤバイ、魔物に吹き飛ばされたイッヌ族達を早く助けないと!
「心配要らないのニャ」
と、いつの間にか私の傍にやってきたニャットが私を安心させるように声を掛けてくる。
「心配要らないって、思いっきり吹き飛ばされちゃったよ!?」
「大丈夫ニャ。見るのニャ」
ニャットが指さした方向を見れば、吹き飛ばされたイッヌ族やネッコ族達がムクリと起き上がる姿が見えた。
「あいたたた、ビックリしたワン」
「ニャー達の攻撃が碌に効いてニャいのニャ」
「とはいえ、全く効いてない訳ではないワニ」
皆フラフラしているけれど、重傷って感じではない。
「仮にも魔獣領域で暮らしてる連中ニャ。そうそう簡単に負ける事はニャいのニャ」
よかった。それじゃあ無事なんだ。
「とはいえ、アイツ等では勝てないのは事実ニャ。戦い続ければやられるのは間違いニャいのニャ」
って、それじゃやっぱ安心できないよ!
「だからニャーも参加してアイツを足止めするのニャ。おニャー等は予定通り魔物除けを作るのニャ」
「わ、わかった!」
ここでまごついても皆を危険に晒し続けるだけだ。
私はすぐさま魔物除けを作る為にミズダ子とこの場を離れた。
「ゴアァァァァ!」
「おおっと! ここはニャー達が相手ニャ!」
「「「巫女様を追わせないワン/ニャー/ワニ!」」」
皆、頼んだよ!
◆
私は検索スキルで魔物避けに必要な素材を検索する。
「巫女様、リス達に協力できる事はあるリスか?」
「トリ達も石が無くなったから巫女様を手伝うトリ!」
と、私達を追いかけてきたリッス族とトッリ族が協力を申し出てくる。
正直凄く助かる。検索で何が要るかは分かっても、それが何処にあるのかまでは分からないから。
「それじゃあ私の言う素材を集めてきて! なるべく沢山!」
「「分かったリス/トリ!!」」
そうして皆が集めてきてくれた素材を私は合成して魔物除けを作り上げる。
「とにかく量を作らないと! 合成!」
何せ相手はデッカイ体の魔物だ。
最高品質にする事も考えてかなりの量を作らないと。
「合成合成合成!!」
ズズゥン! ズゥン!
「近づいて来てるわね」
体を上にあげて戦場の様子を確認していたミズダ子が呟く。
マズイマズイ、急がないと!
「合成合成合成!」
よし、これだけ作れば!!
もうかなり戦場の音も近づいてきている。
私は魔物除けを分けて合成を繰り返す。
『やや高品質の魔物除け』
『高品質の魔物除け』
急げ急げ!
『最高品質の魔物除け:魔物が嫌がる匂いを発して追い払う。非常に品質が高く、魔物でなくとも匂いに敏感な種族にはかなりキツい』
「よし出来た!」
流石に最高品質だけあって私でも分かるくらい匂うね。
でも私は魔物じゃないから、強い匂いとは思っても逃げ出したくなるような気分にはならない。
完成と同時に、至近距離で音が響く。
振り返ればイッヌ族達がこちらに吹き飛ばされている姿が見え、その奥から巨大な魔物が姿を現す。
「ミズダ子!!」
「おっけー!」
私の声にミズダ子が応じ、魔物避けのたっぷり入ったタルを抱える。
そして大量の水で巨大な魔物と皆を分断して魔物の逃げ道を塞ぐと、真上から魔物除けをぶちまけた。
「グギャアアアアアンン!!」
魔物除けをブチまけられた巨大な魔物がこれまで聞いたことないような悲鳴をあげる。
そして余りの匂いのキツさにミズダ子の作り出した水の壁に向かって突っ込んでゆく。
「おっと、せっかく作った物を洗い流させたりしないわよ」
直後、水の壁が霧散して消える。
「ゴアアアアアアアアッ!!」
どうやら水の壁で洗い流す事を狙っていたらしい巨大な魔物は、唯一の希望が無くなって絶望の雄たけびを上げる。
そして体に付着した魔物除けを拭き取ろうと地面や周囲の木々や岩に体をこすりつけ、いや思いっきりぶつかってゆく。
けれどこびり付いた匂いはそんな事で取れはせず、魔物はのたうち回って雄たけびを上げる。
「ぐっごっがっ……」
そしてとうとう力尽きたのか、魔物は目から涙を、鼻から鼻水を、口から泡を吹いて気絶したのだった。
「……勝った?」
魔物が目を覚ます様子はない。
完全に気絶したみたいだ。
「や、やった! やったよ皆!」
遂に魔物を倒した事に興奮しながら皆の下へ向かう。するとそこには……
「「「「ピクピクッ……」」」」
何故か泡を吹いて倒れている皆の姿があったのだった。
「って、何でぇぇぇぇぇぇぇっ⁉」
何で皆まで気絶してるのおおおおお!?
「あー獣人系の種族って匂いに敏感だから、これはキツ過ぎたかー」
な、なんだってぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?
その後、私達は気絶した皆を起こそうとしたんだけど、その度に周囲にまき散らされた魔物避けの匂いに再び悶えて気絶するというループを繰り返し、私達は途方に暮れるのだった。
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