第164話 魔物除けを合成してみよう
「それじゃあ久々の合成大会はじめよっか!」
「おー、モグモグ」
ニャットがイッヌ族達と勝負を始めちゃったので、私達は一足先に休ませてもらう事にした……という名目で手に入れた魔物除けを合成する事にしたのである。
「魔物除けを合成! そして鑑定!」
『最高品質の魔物除け:魔物が忌避する匂いを放つ液体。壁などに塗って使用する。刺激物なので皮膚に直接塗るのは止めた方が良い。最高品質の為効果範囲が広く持続期間も1週間と長い。雨が降った場合は匂いが早く落ちるので注意が必要』
「やった! 成功!」
なるほど、最高品質は効果範囲が増えて効果が長続きするようになるんだ。
「ふーん、食べ物以外にカコの加護を使うとこうなるのね」
「でも興奮した魔物には効果がないのは変わらないっぽいね」
うーん、他の素材を合成したら何か良い物ができないかなぁ。
「あーでも手持ちの素材はオアシスの町でだいぶ使ったからなぁ」
何せあの町で足止め喰らってた時に果物系はほとんど飲み物代わりに使っちゃったし、ポーションと薬草の類は残ってるくらいかな。
「しまった、町を出る前に商品の補充をしておけば……いやどっちにしろ無理だったか」
だってあの時は水源が涸れて町は暴動寸前だったし、金に余裕のあった商人達も金目の物をもって我先に逃げ出したから、碌な売り物が無かったんだよね。
「となるとこの土地で手に入る素材を合成すればどうかな」
そうなると今日はもう遅いから、素材探しは明日からかな。
「しゃーない、今日はもう寝るかぁ」
どのみち今日は疲れたし、早く寝ちゃってもいいよね。
「おやすみー。私はもうちょっとご飯貰ってくるわー」
「はーい」
◆
翌日、目を覚ました私は新しい合成素材になる品を探すことにした。
「という訳でこの辺りで売り物になる素材を探してるんだけど」
流石に合成スキルの事を言う訳にはいかないので、商人として珍しい素材はないかとワッフンに聞いてみる事にした。
「売り物ワン? ワンにはよく分からんワン」
「えっと、村のお店で売ってるようなものでいいんですけど」
「この村に店なんてないワン」
え? お店がない?
「お店がないと不便じゃないですか? よその町に買い物に行くのも手間だと思うんですけど」
「この辺に店なんてないワン。何か必要なモノが出来たら器用な奴に作ってもらうワン」
あー、村の作業を一手に担う役割の人が居るって事かな?
「じゃあその器用な人を紹介してもらえませんか?」
「構わんワン」
そんな訳で私達は村の道具屋ならぬ道具職人の所にやって来た。
「ワワフ、こいつらがお前に用があるらしいワン」
ワッフンに連れてこられた家にいたのは、シベリアンハスキー風のイッヌ族だった。
ちなみにワッフンは柴犬っぽい外見。
「ワンに何か用ワン?」
ワワフと呼ばれたイッヌ族は、見た目にたがわぬ渋い声で応じる。
「えっと、このあたりで収穫できる薬草や素材を色々知りたいんです」
「ふむ、お前達には村を助けられた借りがあるワン。教えてやるワン」
「ありがとうございます!」
やったね、思った以上にあっさり引き受けて貰えたよ!
「ついてくるワン」
私達はワワフに案内されて森の奥へとやって来る。
「この辺りは近くに泉がある事で苔が多いワン。この苔は食べる事は出来んが魔物除けの材料になるワン」
私達はコケを採取すると、また別の場所へと案内される。
「この木の葉はすりつぶして傷口に塗ると、化膿止めになるワン。こっちの草の根は煮込むと気付け薬になるワン」
そうしていくつもの薬効のある素材をワワフは教えてくれた。
◆
「よし、素材も集まったし、合成するぞー!」
「「おおー」」
村に戻って来た私達は、早速部屋に戻って合成実験を行う事にする。
「まずはこの苔に葉っぱを合成! そして鑑定!」
『セントクイの葉:虫が食べない葉で、すり潰すと虫よけになる。弱い毒がある為、汁は素手で触らない方が良い』
おお、虫よけになった!
でも毒があるから取り扱いは気を付けないとね。
「そんじゃ次は虫除けの葉に草の根を合成!」
『マニアルの葉:食べると下痢を引き起こす葉っぱ。すり潰すと獣除けになる。毒がある為素手で触らない方が良い』
「う、うーん、一応役に立つっぽいからまぁいいかな。んじゃ次の合成は獣除けの葉にコケを合成!」
さっき合成に使った素材をまた使ってみる事にする。今度はどうなるかな?
『マーヒュンの葉:食べると眩暈、嘔吐、頭痛を起こす葉っぱ。すり潰すと毒薬になる』
「とうとう毒になったぁーっ!」
駄目じゃん! めっちゃアカンじゃん!
なんかいつかのイスカ草の事を思い出したぞ。
「い、いやいや、毒と薬は紙一重って言うし、これを上手く使えばロストポーションみたいな良いアイテムになる筈! よし、魔物除けにマーヒュンの葉を合成だ!」
『魔物寄せの薬:魔物を引き寄せる臭いを放つ。魔物が舐めるととても気分が良くなる。人間には毒になるので口にしてはいけない』
「逆だぁぁぁぁぁ!」
なんで魔物除けの効果を上げようとして逆の内容になっちゃうんだー!
魔物除けが魔物寄せって、「け」が「せ」になっただけなのに全然意味が変わっちゃってるよー!
「魔物寄せなんてもっと村が危険になっちゃうじゃん」
まさかの失敗作ですよ。
「魔物寄せ? 面白いものを作ったみたいだニャ」
「あれ、ニャット?」
気付けばイッヌ族達と遊んでいた筈のニャットが戻ってきていた。
「勝負はもう良いの?」
「全員沈めてきたニャ」
「マジでぇ」
ニヤリと笑うニャットに思わずドン引きしてしまう。
「でも全然面白くないよ。魔物除けの代わりになるものを作ろうとしたのに逆に魔物を引き寄せちゃうんだよ」
これじゃあもっと村を危険にしちゃうよ。
「ニャーに言ってんニャ。むしろこれがあれば村が安全になるのニャ」
「え?」
どゆこと?
◆
「キュフ~ン」
「ゴロゴロ」
「グルォ~ン」
「うわぁ、なにアレ」
私達の目の前で、魔物達が地面に転がっていた。
けれど苦しんでいる感じはない。逆に物凄くリラックスしているようにも見える。
「いやー、予想以上の効果だニャア」
何でこんなことになっているのかというと、少し前に遡る。
ニャットの言う魔物寄せの効果を確認する為、私達は村から離れた場所へとやってきていた。
そして近くにあった大きな木の幹に魔物寄せを塗り、離れた位置から観察していたところ、魔物達が次々に現れたのである。
「よしよしだニャ」
その光景を見て満足げなニャット。
「ねぇニャット、この光景のどこが村が安全になる事に繋がるの?」
私が魔物寄せを作ったとき、ニャットはこれがあれば村が安全になると言った。でも結果はこれだ。鑑定の説明の通り、魔物が集まっている。
「ニャフフ、分からニャいかカコ?」
「全然分かんないって」
さっぱりだよ。
「「成程、そういう事か!」」
けれど、道案内として同行していたワッフンとワワフがハッとなる。
ワワフまで居るのは、自分が提供した薬がどうやって使われるのかを知りたかったかららしい。
「二人とも分かったの?」
「ワフン! つまり魔物寄せを利用して、魔物を村とは正反対の場所におびき寄せるのが目的なんだワン!」
「あっ」
そうか、そういう事か!
「その通りだニャ」
なるほどね。確かにそれなら村に魔物は近づかない。
「しかも興奮して魔物除けじゃ効果がない魔物にも効いてる」
これは凄い、逆転の発想だよ!
さっすがニャット!
「これなら村が安全になるね!」
「ニャフフ、頭は使いようニャ。まぁイッヌ族の村なんぞどうでもいいけどニャ」
最後が一言余計だよニャット。
と、予想外の成功にホッとしていると、魔物達の様子がおかしいことに気付いた。
「あれ?」
「キャフ~ン」
「グルル~ン」
殺気立っていた魔物達が何故か妙にリラックスし始めたのだ。
「あれ? 魔物除けの効果もないくらい興奮してたんじゃないの?」
魔物達は地面に横になったり、ゴロンと転がったり、近くの木で爪とぎを始める始末。
とても村を襲っていた恐ろしい魔物には見えない。
「どういう事だワン?」
「生まれてこのかた魔物のあんな姿見た事ないワン」
ワッフン達も魔物達があんなにリラックスする光景を見るのは初めてだと首を傾げている。
「これもニャットの計画通りなの?」
「いや知らんニャ。ナニコレ怖いニャ」
ええ!? ニャットも予想外なの!? ええー、どういう事?
「っていうか原因ニャらおニャーの方が知ってるんじゃニャーのか? おニャーが作った薬ニャ」
「いやいや、私が作ったのはただの魔物寄せだよ。鑑定の説明だって……あっ」
そこで私は鑑定先生の説明内容を思い出す。
『魔物寄せの薬:魔物を引き寄せる臭いを放つ。魔物が舐めるととても気分が良くなる。人間には毒になるので口にしてはいけない』
『魔物が舐めるととても気分が良くなる』
「あっ!」
私は魔物寄せを塗った木に視線を戻す。
するとそこには魔物寄せを舐める魔物達の姿が!
「あれだぁぁぁぁぁぁ!」
なんという事だろう。魔物寄せには魔物をリラックスさせる効果があったのだった。
マタタビかな?
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