第165話 魔獣族領域に生きる者達

「もう行くのかワン」


 魔物寄せの実験をした私達は、翌日イッヌ族の村を出る事にした。


「村の恩人をもっともてなしたかったワン」


 あの後私はイッヌ族の長に魔物寄せをプレゼンした。

 その効果を見ていたワッフンとワワフが大興奮で魔物寄せの凄さを伝えてくれたお陰もあって、長は喜んで魔物寄せを買ってくれたのだ。


「お前の魔物寄せのお陰で村は救われたワン。二度も村を救ってくれたお前は新たな女神の巫女だワン」


「女神の巫女?」


 なんぞそれ?


「元気でなワン」


 そこにワッフンとワフフが声をかけてくる。


「二人も元気でね」


「お前のお陰でこの土地で魔物寄せが作れることが分かった。俺も修行を積んで自力で魔物寄せを作れるようになるワン!」


 実は実験を終えた後でワフフに魔物寄せを作る方法を教えて欲しいって頼まれたんだよね

 でも私のアイテムの作り方ってスキル由来のチートだから、自分でもどうやってるか分かんない訳で。

 それで詳しい作り方は教える事が出来ないけど、この土地で手に入る素材を使っていると言ったら、ワフフはそれだけ教えて貰えれば十分だと大喜びしていた。

 ワフフ的には、断られて元々のつもりで聞いただけで、使っている材料のアテが分かっただけでも御の字なんだって。


「久々にやる気の出る目標ができたワン! 魔物寄せは狩りにも使えるから完成が楽しみだワン!」


 本当に向上心に溢れたワンコだなぁ。


「本当ならもっとお前には礼をしたいところだワン。二つ名持ちの戦士達が戻ってくるまで待てば、もっと良い物を用意できるワン」


 と、長は自分達が提供した魔物寄せのお礼がいまいち気にいらないみたいで、もっと良い物を用意できるまで滞在してくれと言ってくる。


「いいえ、十分良いものを頂きました。それに私達はまだ旅の途中ですから、あまり長居するのも良くないんです」


「残念だワン」


 実際ワッフン達にはもう十分過ぎるくらいお礼を貰ったんだよね。

 魔物素材にこの辺りで手に入る貴重な薬草とか、色々貰ったから、魔物寄せのお礼には十分過ぎる程だ。

 これ以上居たら、もっと貴重な品をお土産だと言われて持たされかねない。


 もうね、孫にあれこれ食べさせようとするお爺ちゃんお婆ちゃんのノリなんだよ。

 最初はネッコ族のニャットに対する敵愾心であんまりいい雰囲気じゃなかったんだけど、魔物寄せを渡してから仲間認定されたのか、ワッフン達は妙に私に優しくしてくれるようになった。


 それこそイッヌ族の子供達がワンワンキャンキャン言いながら懐いてくるもんだから、これが噂のワンニャン(ニャンは居ない)パラダイスかと思ったくらいだ。

 どうやらイッヌ族は身内認定した相手にはかなり距離が近くなるみたいです。


「それじゃあさようなら!」


「元気でワン!」


「達者でワン!」


「ネッコ族は今度会ったら絶対倒すワン!」


「覚えてろネッコ族ワン! 次は勝つワン!」


 何か後半はニャットへのリベンジ宣言になってた気がするけど、私達はイッヌ族の村を後にしたのだった。


 ◆


 イッヌ族の村を出て数日、次にやって来たのはトッリ族の村だった……んだけど、なんか騒がしいな。


「トリィィィィィィッ! 助けてくれトリィィィィ!」


「うぇっ!?」


 と思っていたら突然、人間サイズのニワトリが助けを求めながら突撃してきた。

 って、なんか速っ!?


「えいっ!」


「トリィィィィ!」


あわや正面衝突と言うところで、ミズダ子の華麗なる投げ技で巨大なニワトリが宙に舞う。


「っていけない!」


 このままだと地面に叩きつけられちゃう! しかし、


「フンッッッ!」


 巨大なニワトリは空中で翼と足をバタバタと羽ばたかせると、なんとか無事に着地した。


「ビッッックリしたトリーッ!!」


 巨大なニワトリはクルリとこちらを向くと、翼を大きく広げる。


「急に投げるなんて何するトリーッ!」


「あなたが急に飛び込んでくるからでしょ。この子が怪我する所だったじゃない」


「子? お前の子供トリ?」


「違うっっっ!!」


 何で私を見てミズダ子の子供だって思うんだ! 目が腐ってるのかこのニワトリは!


「それよりも何があったのニャ?」


 ニャットが会話に割り込んで軌道修正すると、ニワトリはハッとなって再び慌てだす。


「そうだったトリ! 村が魔物に襲われているんだトリ!!」


「村が」


「魔物に」


「襲われてるニャ?」


 って、大変じゃん!

 すぐに助けないと!


「ニャット、ミズダ子!」


「まかせるニャ」


「まーかせて!」


 という訳で魔物は殲滅されました。

 いやだって、イッヌ族の村と同じ感じだったんだもん。


「助かったトリ!」


「アンタ等はトリ達の恩人トリ!」


 助けられたトッリ族達は皆口々に感謝の言葉を向けてくる。


「是非お礼がしたいトリ! 今夜は村に泊まっていってほしいトリ!」

 

 というイッヌ族と同じ流れで私達はトッリ族の村に泊まることになった……のだけれど。


「何でニワトリもカラスもハトもインコも語尾がトリなの? そこはコケーとかカーとかクルッポーとかピヨピヨとかじゃないの?」


「トッリ族は種族ごとの鳴き声が分かれ過ぎてるからニャ。他種族が居る公の場所では語尾がトリになるのニャ。方言と共通語みたいなもんニャ」


「解せぬ」


 ◆


 なんて事もありつつ、私達は感謝の宴を開いてもらい、そしてイッヌ族の村で売った魔物寄せの話をすると、トッリ族達はぜひ自分達にも売って欲しいと頼んできた。


「凄いトリ! 試しに村から離れた場所で使ってみたトリが、あっという間に魔物達が寄って来たトリ! これで村から魔物を引き離せるトリ!」


「本当にありがとうトリ! トリ達に出来る限りのお礼をさせてもらうトリ!」


 という事で沢山卵を貰いました。


「……ねぇ、この卵って……」


 貰った卵は模様も大きさも千差万別。もしかしてこれって……


「魔物の巣から卵をもらい受けて来たトリ! 色んな魔物の卵があるから、食べ比べが出来るトリ!」


 よ、良かった。ちゃんと魔物の卵だった。いや、良いのか?


「いやー、村を襲う魔物を退治してくれただけでなく、村を魔物から救う方法まで与えてくれるとは、お前様はまるで女神の巫女だトリ!」


「え?」


 女神の巫女、確かそれイッヌ族の村でも言っていたような。

 一体何の事なんだろう?

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