第161話 でっかい犬との決闘?

 突如現れたご飯泥棒の正体は、でっかい犬だった。

 その大きさは私の知っている一般的な犬よりはるかに大きく、ニャットほどもある。

 いや、ニャットが居るんだからこのサイズの犬が居てもおかしくはないのか?


「う、うう……メシ」


「喋った!」


 そしてその犬は人間の言葉を喋ったのである。


「こいつはイッヌ族ニャ」


「イッヌ族? ニャットみたいな種族って事?」


「ニャー達とは違うニャ。コイツは犬型の獣人族ニャ」


 それを同じと言うのでは?

 ぐぅぅぅぅぅ~

 うぉ、めっちゃお腹鳴るじゃん。


「流石に行き倒れを無視するのもちょっと可哀そうかな」


「やめとけやめとけニャ。そいつ等に恩を売っても何の得にもならんニャ」


 ニャットさんが凄く塩対応過ぎる。

 やっぱアレか、犬と猫は永遠のライバルってヤツですか?


「ニャーのメシを奪おうとしたヤツを助ける義理なんてニャーよ」


 単にご飯の恨みでした。


「しゃーない」


 私は自分のお皿のお肉を半分切るとそれをイッヌ族に差し出す。


「はい、私の分を分けてあげるから」


 その瞬間、地面に倒れ伏していたイッヌ族がガバッと起き上がる。

 それと同時に私の体が凄い勢いで後ろに引っ張られた。


「ふぇ!?」


 当然そんなスピードでひっぱられたもんだから、料理がお皿ごと宙に舞う。


「ガブッ! バキバキッ!!」


「皿ごと食べたーっ!?」


 なんという事だろう。起き上がったイッヌ族はお肉を皿ごと食べてしまったのである。

 っていうか引っ張られなかったら私の手ごと食べられたんじゃないの!?


「だから言ったのニャ。飢えたアイツらはまさしく野犬、いや駄犬なのニャ」


 どうやら私の手はニャットによって守られたらしい。サンキューニャット。

 そしてイッヌ族はなおもバリバリゴリゴリと音を立ててお肉とお皿を咀嚼すると、ごくんと勢いよく飲み込んだ。お皿ぁ……


「って、私のご飯―っ!」


 全部食べられたぁーっ!


「美味い! もっと寄こすワン!」


 しかもお代わり要求された!


「ふん、貴様に食わせるメシはもう無いニャ。さっさと群れに帰って不味い肉でも食ってろニャ」


「キサマ、ネッコ族がなぜこんなところに居るワン!」


 と、イッヌ族は前に出てきたニャットを見た瞬間、唸り声を上げ始める。


「助けられた礼も言わニャーとはイッヌ族は躾がニャってないのニャ」


「ワンがネッコ族に助けられるなどありえんワン!」


「ニャーじゃニャいにゃ。おニャーを助けたのはコイツニャ」


「ワフ?」


 ニャットに噛み付いていたイッヌ族は、私に視線を向けると首をかしげる。


「こんな小さいのがワンを? はっ、笑わせるなだワン。弱い奴が強い奴に貢物をするのは当然のことだワン!」


 うっわー、暴君理論。どこのガキ大将ですかね。いやあっちのガキ大将の方がまだマシか。


「こういう連中なのニャ」


 なるほど、イッヌ族は暴君系の種族って訳ね。

 犬型の獣人ってくらいだから、人懐っこいかと思ったんだけどなぁ。


「おい小さいの! ワンにさっきの美味い肉をもっと寄こすワン!」


「あぁん? 誰が小さいだって!」


「ワフッ!?」


 ご飯を貰ってお礼を言わなかったことはまぁ良いだろう。

 けれど、私を小さいなんて風評被害を流布しようとした事は許せん!


「流石にここまで礼儀知らずだと教育が必要なようだね。ニャットさん、ミズダ子さん、やっておしまいなさい!」


「お、殺るニャ?」


「押しつぶす? みじん切りにする? 溺れさせる?」


「キャウン!?」


「あっ、すいません、調子に乗りました。大けがさせない程度にお願いします」


 ちょっぴりノリで喋ってしまったせいで、危うくイッヌ族の人が大惨事になるところだった。流石にそこまでは求めていません。


「まぁここはニャーに任せるのニャ。おニャーはニャーの戦いを見て手加減っていうものをよく学ぶと良いのニャ」


「はー? 私だって手加減くらい出来るし! 死ななきゃいいんでしょ!」


 これは確実に手加減は無理っぽいのでニャットさんお願いします。


「はっ、腰抜けのネッコ族が俺様の相手だと? いいだろう、ワンが身の程というものを教えてぶべぇ!?」


 自信満々で語っていたところにニャットの先制攻撃が入りました。


「うーん、綺麗に入ったね」


「き、貴様ズルおぼっ!?」


 更に踏み込んでみぞおちに一撃。


「せ、戦士なら正々堂々とがぱぁっ!?」


 体が曲がって頭が下がったところにアッパー入りました。


「ニャフッフッフッフッ」


 そこからはもうニャットの独壇場。

 イッヌ族の人はニャットの連撃を喰らい続け、宙に浮き続けている。


「うっわー、すご。マンガとかゲームなら見た事あるけど、現実で人が宙に浮くとか初めて見た」


 しかも何十秒もバレーボールみたいに跳ね回ってる。


「そろそろとどめニャ!」


 そしてバレーのアタックよろしく、ニャットの容赦ない一撃はイッヌ族の人を地面に叩きつけた。

 不幸中の幸いなのは、彼が漫画みたいに地面に埋まったりはしなかったことか。


 ◆


「く、くく、まぁワンは心が広いので、貴様が献身的に貢いだことを褒めてやるワン! は、ははうぐっ!」


 あの後、ボロボロになったイッヌ族の人は思うところがあったのか、ご飯を提供した私に感謝の言葉とも言えない感謝を告げてきた。

 まぁニャットから受けたダメージがあるのに無駄に高笑いしようとして悶絶してるけど。


「ワンの名はワッフン! 誇り高き犬族の戦士だワン!」


 やっぱネッコ族と同じじゃないですかね?


「それにしてもニャットって強いんだね。ネッコ族とイッヌ族っていうから、同じくらいの強さかと思ってたんだけど」


 はっきり言ってまるで戦いになってなかったもんね。


「ニャーをこいつ等と一緒にするニャ。ニャーは戦士なのニャ」


「ニャ、ニャットだワン!?」


 その時だった。ニャットの名前を聞いたワッフンが物凄く驚いた声を上げたのである。


「ま、まさか白夜の魔猫ニャットか!?」


 ……なんですかその厨二病全開の二つ名は?

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