第159話 彼方からの来訪者
◆メイテナ◆
私はメイテナ=クシャク、冒険者だ。
いや、今は冒険者は半ば休業して、本来の身分である貴族として活動している。
それというのも、私の義妹カコが家出した事が原因だった。
カコは公爵家の件で我々に迷惑をかけたと勘違いして、屋敷を飛び出してしまったのだ。
当然幼い義娘の家出に屋敷は大混乱。
父上と母上だけでなく、マーキス達使用人達までパニックに陥ってしまったのだから、我が義妹の影響力は凄まじいと言わざるを得ない。
……いや、私が家を出た時はあんな風に大騒ぎになって追いかけてきたりしなかったよな?
ゴホン、話が逸れた。
我々は家出をしたカコを探して方々を探し回った。
そしてカコとニャット殿らしき二人組が、北に向かう姿を見たという情報を得た私は、仲間達と共に北都へ向かった。
道中、カクラム病という流行り病になりにくい病が流行るという不可思議な出来事に巻き込まれ、事態が鎮静化するまで途中の町で足止めを喰らうことになってしまった。
その後ようやく旅を再開できるようになった我々は、北都へ到着するとカコの情報を求めて回った。
そして調査の末、カコらしき小人族がエルトランザ侯爵の屋敷に入っていくのを見たという情報を得ることが出来た。
そこで私は自分の身分を明かし、エルトランザ侯爵との接触を図った。
結果から言えば、散々話を引き延ばされて最後には煙に巻かれたのだが。
だがそのあからさまな行為はエルトランザ侯爵がカコの事を知っている事を隠すつもりがないのがバレバレであり、最後にはそれとなくカコが砂漠の国へ向かった事を教えられる始末だった。
やり手で知られるエルトランザ侯爵だ、おそらく私とカコの両方に恩を売る為にわざと話を引き延ばしたのだろう。
今思うと、流行り病で足止めに遭ったのが本当に悔やまれる。あと数日、いや二日早かったら北都で足止めを喰らうカコに追いつけたのに。
◆
それから数日後、私達は砂漠の国へと入国した。
侯爵家の人間である私が他国に入るのは色々と問題があったのだが、この時ばかりは高位冒険者の身分が役に立った。
砂漠の国へ入国した私達は、早速カコを探して情報を求めた。
その結果、とあるオアシスの町へ向かう砂馬車に乗る姿を見たという情報を得る事が出来たのだが、ここで再びトラブルに遭遇してしまう。
なんと今度はオアシスの町でトラブルが発生し、砂馬車の運航が止まってしまったのだ。
これには我々も困ってしまい、いっそ別のルートで迂回するべきではないかと話し合った。
しかしこれを止めたのは仲間であるエルフのマーツだ。
「いや、止めた方がいい。カコちゃんがどこに向かっているか分からない以上、情報が途切れるようなあてずっぽうはしない方がいい」
「そうですね。目的の町から砂馬車が逃げてきたのですから彼女は今オアシスの町で足止めを喰らっている可能性が高いです。町には住民が置き去りにされている状態ですし、少し待てば避難の為に砂馬車の運航は再開されるでしょう。その際に家族を迎えに行くためという理由で同行させてもらいましょう」
マーツの意見に僧侶のパルフィも同意する。
「確かに、砂馬車しか移動手段がないのなら、砂漠の航路を大きく変えるのは危険か」
「そういうこった。俺達が大回りしている間に砂馬車の運航が回復するかもしれんし、何ならカコの嬢ちゃんがオアシスから避難してくる可能性も高い。この町はオアシスの町から一番近いからな」
イザックにまで言われては、迂回案は断念せざるを得なかった。
事実、10日を過ぎた後には事態は解決したようでオアシスの町への砂船の航路が復活する事となった。
そして数日をかけて砂馬車に揺られ、オアシスの町へとやって来た我々は、驚くべきものを見る事になった。
「……なんだありゃあ」
港に降り立った私達は、町の奥に巨大な彫像が鎮座している光景に遭遇した。
彫像は非常に大きく、町の建物の三倍近い大きさだ。
その彫像は寝転ぶ巨大な猫に乗り、両手を天に掲げそこから地上に向かって水が滝のように零れ落ちていた。
「あれはいったい……」
「おや、あんた達旅人かい?」
私達が驚いていると、町の住人がにこやかな顔で話しかけてくる。
「あの彫像こそ、この町を救ってくださった大精霊の大巫女様の彫像さ!」
「「「「大精霊の大巫女!?」」」」
困惑する我々に、町の住民はあの彫像が作られるに至った出来事を語る。
「という訳で、大巫女様のお陰でこの町は救われたんだ! そして大巫女様と大精霊様への感謝の気持ちを忘れないようにと、オアシスの精霊様達の巫女である領主様が最初の事業として作り上げたのがあの彫像なのさ!」
「はぁ……」
「あれを作ると言い出した時は町中がお祭り騒ぎになったんだぜ。彫刻家に大工、石工、土属性の魔法使い、ありとあらゆる建築関係の連中が自分達に作らせろと領主様の館に殺到したんだからな」
それは大変だっただろうなぁ。主に領主が。
「それで領主様は精霊様の力も借りて、連中全員が参加できる大彫像を作り上げたって訳だ」
「そ、そうなのか……ところでその、大巫女様の彫像なのだが、あの姿は……?」
私が町の端からでも見える彫像の造形について尋ねると、町の住人はよくぞ聞いてくれましたとウキウキした顔で答える。
「実はな、大巫女様のお姿は誰も知らねぇんだ。それは大巫女様が特別なお役目を持っていらっしゃるからってぇ言われててな。だが、大巫女様の弟子である領主様は、大恩ある大巫女様に子々孫々まで大巫女様にお仕えし、その活躍を語り継ぐと誓う事で、特別にそのお姿を見せて頂いたってぇ話だ。それがあのお姿よ!」
「そう……なのか?」
私達は両手に水を湛えた大巫女の彫像に視線を向ける。
「でもあれって……」
「カコさんですよねぇ」
「ネッコ族の旦那もいるしなぁ」
やはり皆もそう思うのだな……
「いやー、本当に神々しいお姿だぜ! 随分若い見た目も、精霊様のご加護で永遠の若さを授かったってぇ話だから大巫女様ってのはスゲェお方だよなぁ! おかげで近所の爺さん婆さん達も大巫女様のご加護にあやかって毎日オアシスに直接水を飲みに行くほどよ! 俺の女房もだけどな! はははははっ!」
「は、はぁ……」
いや、さすがにそれは嘘だろう。
カコがそんなとんでもない長生きをしているなんて聞いた覚えはないぞ。
これは我々には全く関係ない話なのだが、数年後この町の水はオアシスが涸れた事とカコの若すぎる姿から、復活と後に若返りの水と呼ばれるようになり、多くの若さと長寿を求める者達が聖地として殺到する観光地となるのだった。
「というか、私の義妹は一体何をやらかしたんだ?」
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