第142話 精霊の美味しいご飯でショー出来レース風味

「美味いニャー!」


「うーん、美味しい!」


「これは、確かに美味い……」


 三者三様の反応を見せつつも、私のご飯を美味しそうに食べるニャット達。

 うん、豚っぽい魔物肉のショウガ(っぽい食材)焼きは大成功!

 賊の人にバレないようこっそり最高品質にしてあるので、牧場で丹精込めて育てられた豚さんもかくやの美味しさだよ! 多分ビタミンBも豊富だと思う。


「ぷはーっ、食った食っただニャ!」


「うーん、ほんっとカコのご飯は最高よね! どんな精霊だって絶対契約しちゃうわ! 勿論私も!」


 いや、私は契約する気ないんですけどね。


「……」


 そんな中、賊の人だけは空っぽになった皿をじっと見つめ続けていた。


「ご飯足りませんでした?」


 よく考えたら育ちざかりな年齢だし、もっと食べたかったかな?

 捕まってるからって遠慮したのかも。

 尚ニャット達は遠慮なく何杯もお代わりをしている。


「あ、いや、そう言う訳ではないのだ。とても美味しかった。勘違いとは言え、貴方を襲った私にまでご馳走をしてくれて感謝している」


「いえいえ、どういたしまして」


「全くだニャ」


「カコに感謝しなさいよ!」


「ははーっ!」


 いや拝むな。単に一人だけ仲間外れにしてご飯を食べるのが私の精神衛生上よろしくなかっただけだから。

 やっぱりご飯は楽しく食べないと美味しくないし、この人の身の上を考えると、単純に悪い人とは言えないからね。


「……その、このような事を言うのは非常に図々しいと分かってはいるのだが」


 と、賊の人は何やら凄い決意を秘めた様子で私にこう告げた。


「どうか、貴方の料理を私に教えては貰えないだろうか!」


「え?」


 料理を? 私に?


「貴方の料理は本当に美味だった。あのサンドオークの肉がこれほど美味になるとは食べた今でも信じられない程だ!」


 あっ、この豚肉ってサンドオークって言うんだ。お店の人からこの国に来たならこれを食べないとって言われて、値段もお手頃だから買っただけで、詳細は知らなかったんだよね。


「精霊様も絶賛する料理を覚えれば、きっと精霊様も契約してくれる筈! どうかお願いします!」


 うーん、料理を教えて欲しいねぇ。

 別に良いと言えばいいんだけど、それで上手くいくかと言うとなぁ……


「だ、駄目だろうか……勿論我々に可能な限りの礼はさせて頂くのだが」


「あー、別に教えるのはいいんですけどね……」


「本当か!? 感謝する!」


 私の教えても良いという言葉を聞いた賊の人は、物凄いはやさで立ちあがると、私の両手を握って満面の笑みを浮かべる。


「よろしく頼む師匠! 私はタニクゥと申します!」


「あ、はい。私はカコです」


「よろしくお願いしますカコ師匠!」


 何故か弟子が出来ました。


 ◆


「で、ここをこうして……」


「こうですね!」


 そんな事あって、私はタニクゥさんに豚の生姜焼きの作り方を教えていた。


「このタイミングでこの調理料を入れます」


「はい!」


「これで完成です」


「おおっ! カコ師匠の料理を私だけでっ!」


 出来上がった料理を見て、感極まった顔になるタニクゥさん。


「そ、それではさっそく味見を……いや、初めて精霊様に捧げる料理を作ったのだ! 精霊様に捧げるのが筋か! どうぞ精霊様! お召し上がりください!」


 出来上がった豚の生姜焼きの味見をしようとしていたタニクゥさんだったけれど、すぐに思い直したのか、残念精霊に差し出す。


「ふむ、良かろう」


 そして残念精霊はなんか大物感を見せながら豚の生姜焼きを口に運ぶ。

 豚の生姜焼きをである。


「うむ不味い!」


 そしてバッサリと切り捨てた。


「ガーン!!」


「カコの料理とは比べ物にならん! 修行が1000年足りん!!」


「ぐっ……しょ、精進します……」


 不合格の烙印を押され、崩れ落ちながらもなんとか返事を返すタニクゥさん。


「どれどれ」


 私とニャットはタニクゥさんの許可を取ると、彼女の作った生姜焼きの味見をしてみる。

 ふむ、初めて作っただけに荒い所はあるけれど、とりあえず豚の生姜焼きの体裁は保っている感じ。

 私的には及第点ってところかな。


「クッソ不味いニャ! カコから教わった料理でニャかったら今すぐ窓から放り投げるレベルニャ」


「ゴフッ!」


 おいおい、そこまで言いますか。


「まず致命的に食材の良さを活かしきれてイニャいのニャ。見るニャカコがお前に教える為に作った料理を! 見た目からして違うのニャパクッ」


 作り方を教える為に目の前で実践して見せた料理を指差しながら、流れる様に口の中に入れるニャット。


「た、確かに、明らかにツヤが違います!」


 うん、それは仕方ないと思うよ。

 だってタニクゥさんが使った食材はお店で売っていたそのままのお肉で、私の使ったお肉は合成スキルで最高品質にしたものだからね。

 もう食材の時点で圧倒的な差が付き過ぎて、料理の腕じゃ覆しようのない差が付いていたんだから。


 でも仕方がないのだ。

 こんな事をしたのは、タニクゥさんに現実の厳しさを知ってもらう為だ。

 私は合成スキルがあるから精霊まっしぐらの料理を作れるけど、タニクゥさんが精霊を契約して貰えるレベルのモノを作るには、実力で美味な料理を作ってもらわなければならない。

 まぁ正しくは精霊が喜ぶ力のあるモノを用意して貰わねば、なんだけど。

 で、その精霊の喜ぶモノの具体的な基準がよく分かんないんだけどね。


「精霊様に認めてもらう為に鍛錬を積まなければ!」


 そんな裏事情も知らず、タニクゥさんは真剣な顔で料理に取り組んでいた。

 うん、頑張ってね。


 と、そんな時だった。部屋のドアがコンコンと叩かれたのである。


「はい」


「すみませんクシャク侯爵令嬢様、私は領主様の使いでございます」


「っ!!」


 領主の使いと言う言葉にタニクゥさんが殺気立つ。


「ステイニャ」


「うぐっ」


 けれどニャットに頭を押さえつけられ、殺気は霧散した。


「どうぞ、入ってきて構いませんよ」


 入室の許可を出すと、ドアが静かに開き、執事らしき人が部屋へと入って来た。

 彼は優雅、というにはちょっと横柄な感じのする挨拶をすると、本題に入る。


「我が主が水の大精霊様に捧げる食材をご用意しました。是非水の大精霊様にご確認頂きたいとの事です」


 ああ、そう言えばそんな話してたっけ。

 意外と早く集めたなぁ。


「分かりました。準備をしますので少し待っていてください」


「畏まりました。表に馬車が用意してありますので、お待ちしております」


 執事が去ると、私はグロラコ子爵の屋敷に行くために着替えの準備をする。


「けど今の人、なんか偉そうな感じっていうか、嫌な感じだったなぁ」


 ウチのマーキスはもっと優雅で優しい雰囲気だったんだけどな……って、侯爵家を出たんだから、もうウチの、じゃなかったよ。


「……カコ師匠、お願いがあります」


 と、ニャットに頭を押さえつけられていたタニクゥさんが、神妙な様子で私に話しかけてくる。


「んーしょっと……はい、何ですか?」


「どうか私も領主の館に同行させてほしい」


 着替えを続けていた私に、タニクゥさんは驚くべきお願いをしてきたのだった。

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