第141話 精霊との契約仲介業
「よく考えたら、一族の儀式に詳しい大婆様が去年急死されて、儀式以外の詳しい知識が残っていなかった……」
「ええー!?」
なんという事でしょう。まさかの契約情報紛失で、精霊との再契約が不可能になってしまいました……って、マジでヤバいじゃん!
「ど、どうするんですかーっ!?」
「ど、どうしたらいいーっ!?」
駄目だ、この人見た目以上に残念なくっころさんだ!
オアシスの完全崩壊待ったなしだよ!
「どうしようニャット!」
「戦士のニャーに聞く事じゃニャーのニャ」
そういえばそうだったー!
「で、でもこういう時ってだいたいニャットが良いアイデアくれたし……」
「おニャーニャー……」
ニャットは肩を竦めてこれ見よがしにため息を吐く。
「まぁ、ニャーこともニャいがニャ」
「ニャットー!!」
流石ニャット! さすニャット!
「それでそれで! どんなアイデアがあるの!?」
「カコの料理ニャ」
成程!! 私の料……理?
「はい?」
ええと、何で料理?
「カコの料理はこのクソ精霊も絶賛の絶品だニャ」
「うんうん、カコの食べ物って美味しいよね!」
「ニャからそれをオアシスの水源にブチ込むのニャ。そうすればカコの料理に釣られて精霊がやって来るのニャ。そんで料理をやるから契約しろって言えば良いのニャ」
「おー、賢いじゃんデカネコ! 絶対成功間違いなしだよ!」
「「ええ~」」
まさかのトンデモ作戦に私と賊の人の声がハモる。
っていうかオアシスの水源に料理って、それ絶対水源汚染されちゃうでしょ。
「よーし、それじゃあさっそくカコの絶品料理をつくろー! あ、私試食係ね」
「試食係はニャーの役目ニャ! アイデアを提供したんだから当然の権利ニャ」
「それを言ったらやって来た精霊の橋渡しをするのは私の役目だし!」
さてはニャット、自分が料理を食べたいからそんなトンデモアイデア出したな!?
「料理? 何で料理?」
一方事情を知らない賊の人は料理で精霊が釣れると言われて宇宙猫状態だ。
うん、分かるよ。私もそこの残念精霊にオアシス捨てて一緒に行くって言われた時同じ気持ちになったもん。
しかし当の精霊がそれでいけるとゴーサインを出してしまった為、この作戦がなし崩しで決行される事になってしまったのだった。
◆
「とはいえ、どうしたもんかなぁ」
「難しい事考えないでいつも通り最高の食材で最高の料理を作ればいいのニャ!」
また気楽に言ってくれる。
「こういう時はやるべき事と懸念事項を順に書いて優先順位を決めると良いと亡くなった大婆様が言っていたぞ」
宇宙猫状態から戻った賊の人が、そんな風に情報を纏めてはどうかと言う。
もしかして大婆様、亡くなったのが惜しすぎるくらい有能な人物だったのでは?
「ええと、まず質の良い食材を集めて(こっそり最高品質に合成)、最高の料理を作る、グロラコ子爵達が町を捨てたところでオアシスに侵入して水源に料理をぶち込んで精霊を呼びこんで、料理を盾に契約を迫る。契約が出来たら国に新たな領主となる許可を貰う」
うん、料理の部分だけおかしい.
「オアシスを復活させた事が領主にバレる前に許可を取る必要があるのニャ。ここは時間との勝負だニャ」
「王都までどのくらいかかるんですか?」
「そうだな、最も早いクローラフィッシュなら町から町に乗りついていけば片道で3日。往復は帰りに王宮の使者が乗る事を考えると1週間は欲しいか」
「うっ、アレかぁ」
クローラフィッシュと言われ、あの最悪の乗り心地を思い出した私は、胃の辺りに込み上げる物を感じてしまう。
「となると帰りの時間が勝負だニャ」
うーん、時間かぁ、こればっかりは私達にはどうしようもないよね。
「それよりも大事なのはご飯よ。私達が契約したーい! って思えるような力のあるものじゃないと!」
そうだった。とにもかくにも精霊との契約が出来なきゃ意味ないもんね。
「じゃまずは食材を見繕いに行くかぁ」
「手間をかける。私は追われている身故」
「あー、うん。まぁ乗り掛かった船だし。二人共留守番よろしくー」
「お土産よろしくねー」
どこでそう言う語彙覚えるわけ?
という訳で宿を出た私とニャットだったんだけど、その前には屈強な衛兵達の姿があった。
「いずこにお出かけですか?」
「えと、ご飯の材料を探しに」
「食事でしたら我が主がいつでもご用意するとの事です」
ああ成る程、一瞬私を捕まえに来たのかと思ったけど、どうやら私を誘いたくて待ち構えていたらしい。
「いえ、旅の間は私が料理を作るのがルールなんです。そちらへの義理は前回の食事で通しました」
「……畏まりました。主にはそう伝えます」
ふぅ、聞き訳が良くて助かったよ。
という訳で改めて食材を求めて市場に出発だ!
「……」
ザッザッザッ
「「「……」」」
「あの、何でついてくるんですか?」
「今は非常事態ですから。お嬢様の護衛をするようにと主から仰せつかっております」
おおっとぅ、まさかの余計なお世話ですよ。
とはいえ、仮にも隣国の貴族の令嬢、それもオアシスという町の生命線に関わっている人間を放置しておけるわけないよねぇ。
「はぁ、そうですか」
「我々の事は空気とでも思ってください」
いやいやいや、無理ですから。子供が衛兵を従えて歩いていたら何事かと思われるでしょ!
「へい、らっしゃおわっ!?」
「そこのお嬢さん、うちの商品見ていっ……」
「おう嬢ちゃん またウチの商品を買って行ってくれ……るんですか?」
ほら、めっちゃ注目集めちゃってるぅ……
「あの……」
「「「我々の事は空気と思ってください」」」
「「「はぁ……」」」
うわーん! どう考えても無理だよー!
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