第127話 砂海の海と砂漠の魔物

 ザパンザパンと音を立てて砂馬車が砂漠を進む。


「うぷっ」


 あと凄い上下左右に揺れる。

 私達の乗ったクローラフィッシュはクロールをしながら泳ぐから、揺れが本当に酷い。

 けど早いのは確かで、まだ乗って僅かな時間しか経っていないのに国境の町は豆粒くらいの大きさだ。


「な、成る程、こうやってめちゃくちゃ動くから、この船にはシートベルトがあるんだね……うぷっ」


 クローラフィッシュの座席には、両側に皮紐がわっか状になっていて、そこに腕を通す事で、簡易的なシートベルトになっていた。

 ……なんて関係ない事を考えて必死で耐えようとした私でしたが、そろそろ我慢の限界が近づいて来ました。

 うぉぉっ! 耐えろ! 耐えるんだ私!


 ヒロインとして、口からマーライオン(マイルドな表現)は絶対避けねばならぬ!

 口からアシッドブレス(とても婉曲な表現)なんて放出した日には、ヒロインから〇〇インに格下げになっちゃうよ!


「嬢ちゃん辛いならコイツに出しちまいな」


 と、こんな大揺れの中でも立って作業をしていた船員さんが、袋を用意してくれる。

 くっ、出したくはない。けれどヒロインとしての矜持を維持するには……はい、ありがたく使わせてもらいます。


「マロロロロロッ」


「きったねぇ音だニャ」


 あーっ言ったなー! 私が折角気を効かせてマイルドな音声にしたのに!


「ほれ、口をゆすぐ水だ」


「あ、ありがとうございます」


 それに比べて船員さんは気が利く良い人だなぁ。


「銅貨5枚な」


 前言撤回、がめついだけでした。


 ◆


流石に吐くものを(三回くらい)吐くと、もう出せるものも無くなって多少は楽になって来る。


「キツい時は遠くを見るといいのニャ」


「そうする……」


 流石にこの揺れじゃ他に出来る事もないし、砂漠の海を楽しむかぁ。楽しめるかどうかは別だけど。


「それにしても本当に砂しかないかぁ」


 南都で遊覧船に乗った時は、大陸といくつもの小島が見えたけど、ここはなんにも見えない。地平線の向こうまで砂しかなかった。


「この場合、水平線ならぬ砂平線になるのかなぁ?」


 と、その時だった。

 地平線の向こうに小さな点がいくつも見えたのである。

 しかもそれはこちらに向かってきている。


「ねぇニャット、あれ何かな?」


「アレって何ニャ?」


「ほら、地平線の向こうに見える沢山の点」


「点? ……っ! 魔物ニャ!!」


 ニャットの言葉に船員達が気色ばむ。


「おい!」


「確認しました! 砂塵狼の群れです! 完全にこっちを狙って向かって来てます!!」


「狙ってって、地平線の向こうなんだから、凄く遠くなんじゃないの?」


「この辺りの砂漠は場所によって結構ニャ高低差があるのニャ。だから遠くに見えても意外と近い事があるのニャ。あと砂塵狼はかニャり足の早い魔物ニャ。あの速さだと、次の町に来る前に追いつかれるのニャ」


 マジか、異世界の狼根性あり過ぎでしょ!?


「速度あげろ! 戦闘準備!!」


 船長の号令と共に、クローラフィッシュがガクンと揺れて速度を上げる。

 うぉぉ、また揺れがキツいことに!!


「我慢するのニャ!!」


「お前等、砂塵狼だけに気を取られるなよ!」


「右前方! ロックスコルピオの群れが出ました!」


 船長の言葉が呼び水になったかのように、更なる魔物の群れが姿を現す。


「ロックスコルピオは砂漠を群れで移動する魔物ニャ。移動した後は岩に擬態して獲物が近づくのを待つのニャ。移動する魔物だから、回避する航路を選べないタイプだニャ」


 ひぇ、自然に擬態しながら移動する魔物って怖いなぁ。


「よし、アレをぶちかましてやれ!」


 アレ? 何かロックスコルピオに有効な攻撃でもあるのかな?


「了解! 投げます!!」


 すると船員さんは幾つもの革袋を縛った縄をロックスコルピオの群れに向かって投げる。

 当然、攻撃をされたロックスコルピオは、両手のハサミで投げられたものを迎撃する。


 ザシュッという音と共に、革袋の中から何かが液体らしきものが飛び出る。

 そしてその液体が迎撃したロックスコルピオにかかると、なんと周囲のロックスコルピオがそのロックスコルピオを攻撃しだしたのである。


「え!? 何で!?」


 何が起きたの? もしかしてあの革袋の中身って、魔物が同士討ちするような混乱降下とかが起きる特殊なポーションの類だったとか?」


「ゲロ袋だニャ」


「……え?」


ゲ? え? 何て?


「今のは客が吐いたゲロが入った袋だニャ。ロックスコルピオは匂いに敏感な魔物だニャ。当然人間の吐いたゲロは人間のモツの匂いの塊みたいなものだから、それを浴びたヤツは人間と勘違いされて仲間から攻撃されるのニャ」


「は、はぁ……」


 ゲ……袋って……


「まぁ流石にロックスコルピオも馬鹿じゃニャーから、少ししたらすぐに騙されたと気付くが、アイツ等は足が遅いから、騙されている間に逃げきれるのニャ」


 な、成る程、それでゲ…袋を投げたんだ。


「良かったニャ。おニャーのゲロが船を救ったのニャ」


「私のって言うニャーッ!!」


「ニャハハハッ、ニャーが甘いのニャ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る