第126話 お腹の旅支度

装備を一新した私達は、さっさとこの国から出ていく為に旅の準備をする為に市場に来ていた。


「まずは食料と水だニャ。食料も腐りやすいもの以外はなるべく水分の多い物を選ぶニャ」


「でも水分の多い食べ物って腐りやすくない?」


 地球だと水分の多い食べ物でも長持ちするイメージがあるけど、あれは加工品を清潔な環境で真空パックや冷凍などをして外の空気が触れないようにしているからだ。

 でもこの世界だと氷漬けはともかく、それを望むのは難しい。


「大丈夫ニャ。そういう食べ物があるのニャ」


 成程、ファンタジー食材ですね。便利だな異世界。


「まずは定番の水球果を買うのニャ」


おおっと、いきなりチート臭い名前の果物が出ましたよ。自嘲する気無いな、異世界。


「その水球果ってどんな食べ物なの?」


「水球果は殆どが水で出来た果物だニャ。食料としての栄養は殆どニャーけど、水筒代わりに使えるのニャ。あとほんの少し甘いニャ。甘みがはっきり分かる程甘いのは水蜜果って呼てれるニャ」


 成程、そっちはジュースの実って事だね。


「水球果の甘さは殆どニャーから、大抵は料理の水として使われるのニャ」


 ふむふむ、料理に使える程度なら、本当に甘さはほんのり程度っぽいね。

 甘じょっぱい煮物とかと相性が良さそう。


「次は水肉牛だニャ」


「水牛じゃなくて水肉牛?」


「そうニャ。水肉牛は水分が多くて、噛むと肉汁がいっぱい出てくるのニャ。だからスープ牛とも呼ばれるニャ」


 そう説明しながらニャットは次々と食材を買っていく。

 そしてその殆どが水分のある食材ばかりだった。


「あと忘れちゃいけニャいのがこのマキシマ塩だニャ」


「マキシマ塩?」


 何か強そうな塩が出て来たな。


「このマキシマ塩は色んな栄養が凝縮された塩だニャ。砂漠の旅は水分の多い食材を選びがちだから、これで塩分以外の栄養を補うのニャ」


 成程、栄養サプリみたいなもんだね。


「ただ、かなり味が濃いから、使う時は極少量にするのニャ。それ以外の時は普通の塩を使うのニャ」


 ふむふむ、濃縮還元した水で薄める事が必須の調味料と。OKOK。


「あとは水筒を複数持っておくのニャ。万が一の時を考えて、魔法の袋に全部入れずに、腰に括り付けておくのニャ」


 おお、何時ものニャットと違って、今回は随分と慎重だ。

 それだけ砂漠の旅は危険なんだね。


「さて、これで必須の品は一通り揃ったのニャ。それじゃあお待ちかねの……砂漠肉爆買いタイムだニャーッ!!」


「んんっ?」


 何か空気変わったぞ。


「この国は暑くて嫌ニャんだが、他にはないこの国特有の肉があるのニャ!! 砂岩トカゲの肉は名前の通り固い肉ニャんだが、噛めば噛むほど旨味が溢れてくる天然のビーフジャーキーなのニャ! そしてこっちの砂漠羊の肉がまた絶品なのニャ! すっごくプリプリした肉で、いくらでも食べていられるのニャ! ただ、湿気にかなり弱くて、外の国に持ち込むとあっという間に腐ってしまうのニャ……」


 この世の天国とばかりにお肉の話をしていたニャットだったけれど、砂漠羊の肉が腐るという話になった瞬間、地面に崩れ落ちる。

外の国でも食べようとしてやらかしちゃったかぁ。

 それにしてもそこまで腐りやすい肉というのも不思議だね。


「だから今回はこの国にいる間に全部食べ切るのニャ!」


 おお、ニャットが燃えている。

 よっぽど悔しかったんだね。


 水と食料の買い出しを終えた後はポーション類の補充に向かう。


「ポーションは基本ニャけど、今回は毒消しと火傷の薬も買うのニャ」


「毒消しと火傷の薬?」


 毒消しはまぁ毒を魔物が居るとかで分かるけど、何で火傷の薬?


「この国は国土の大半が砂に覆われているのニャ。だから毒を持ったサソリ系の魔物が多いのニャ」


 やっぱ毒を持った魔物が居るのか。今までは普通っていうか、毒とかみたいな特殊な攻撃をしてこない魔物ばかりだったからなぁ。


「そして火傷の薬は日焼け対策だニャ。さっきも言ったけど、この国の日差しは日に焼けるとあっと言う間に火傷を負ってしまうのニャ」


 ああ、成る程。だから火傷の薬なんだ。


「でもさっき日差し除けの装備一式買ったよ?」


 すっごいお金使ってね。


「それでも万が一の事は考えておくのニャ。着替えをする必要があって、その服が使えない時があるかもしれんのニャ」


 そう言われると確かに。ずっと同じ服を着ている訳にはいかないもんね。


そうしていくつかの薬を買ったら、漸く町を出る準備が整った。


「じゃあ行くニャ」


 ニャットに連いて町の外に向かうと、門の前に長い行列が出来ていた。


「うわっ、凄い行列。これ全部町を出る人?」


「そうニャ。砂馬車に乗る為の行列ニャ」


「砂馬車?」


 普通の馬車とは違うの?


「あれニャ」


 ニャットが指さした方角を見ると、そこには奇妙な馬車の姿があった。


「え? 何アレ!?」


 まず馬車を引いている生き物が凄かった。

 頭に三角形をした大きな兜をかぶったサイのような生き物が馬車を引いていたのだ。


「トリケライノだニャ。魔物が襲ってきてもあの頑丈な頭の甲羅で弾いて強引に突き進んでいくのニャ」


 はわー、めっちゃ重戦車って感じ。

 そして馬車も奇妙だった。

 なにせその馬車は、馬車と言う名前なのに、どう見ても船の両側にソリがついていたのである。


「アレに乗っていくの!?」


「そうニャ。砂漠じゃ馬車の車輪は使えないのニャ。だからトリケライノに大型のソリが付いた船を引かせて進むのニャ。この町が陸港の二つ名で呼ばれるのもあの船が流通を担っているからなのニャ」


 ほえー、今までで一番異世界って感じの乗り物だよ。

 そんな風に私達は砂馬車を眺めながら行列が進むのを待つ。


 面白いのは、砂馬車を引くのはトリケライノだけじゃなかったところだ。

 大きな鶏みたいな生き物、大きな大蛇、手足の生えた魚とレパートリー豊富で退屈しない。


「騎獣には得意不得意があるのニャ。魚の騎獣クローラフィッシュは砂の中を泳ぐのが凄く早いのニャ。半面戦闘能力と積載量が少ないのニャ」


 へぇ、あの生き物達は騎獣って言うんだ。

 そしてクローラフィッシュと呼ばれた騎獣が引くソリは、ニャットが言った通り小型だ。


「クローラフィッシュ出るぞ!」


 号令と共にクローラフィッシュの馬車が動き始める。

 ジャパンザパンザパンッ!!


「……クロールしとる」


 クローラフィッシュはどうやら名前の通り、クロールをして進む魚だったみたい……っていうか、クローラってクロールの事かい!


「チキンランナーは地形を選ばず軽快に走る事が出来るニャ。だからクローラフィッシュのたどり着けない場所に行けるのが強みニャ。あと嘴で攻撃も出来るニャ。それと長時間は無理ニャけど、空を跳んで滑空する事も出来るのニャ」


「おお、飛べるんだ!」


「ただし飛ぶのはかなりピンチの時ニャ。その時は荷物が滅茶苦茶になるけど自己責任ニャ」


 うーん、荷物が滅茶苦茶になるのは、魔法の袋を持ってない人にはキツいかもね。


「サンドバイパーは滑る様に砂漠を進むから、一番静かに進むのニャ。それに蛇なだけあって、強い毒も持ってるのニャ。戦っても強いニャけど、毒を恐れて襲ってくる魔物は殆どいニャいのニャ。その分高いのニャ」


 それぞれの砂馬車はどれも一長一短で、自分の目的に会った馬車を選ぶ必要があるんだとか。あと性能の良い馬車はお値段もそれなりにするみたい。


「鳥馬車はないんだね」


 東都で乗った鳥馬車が居ないのはなんでだろ? アレなら砂漠を気にせず進めると思うんだけど。


「鳥馬車は空の上を飛ぶニャ。当然火傷する程の日差しを地上よりも近くで浴びる事になるのニャ。だから鳥馬車はこの国の日差しでも安全に飛べる鳥しか運べニャいのニャ。当然、その数はかなり少ニャいから、王都や大きな町でしか使えニャいニャ」


 そっか、火傷の事があったっけ。


「成る程、それだとお値段も相当しそうだね」


 さっきお金使い過ぎたから、道中は節約したいよね。

 そうこう話している間に、私達の番がくる。


「目的地と馬車の種類は?」


「最短でこの国を抜けて森の国方面に向かいたいのニャ」


「最短で森の国方面ね。となると次に出るクローラフィッシュだね」


 あれかぁ……めっちゃ揺れてたから、乗り心地は悪そう。


「じゃあそれにするニャ」


「大人一枚と子供一枚で銀貨7枚と銅貨50枚ね」


「大人です! 私も大人!!」


 おっと、不正乗車はしないよ! 私は大人だからね!


「ああ、そうだったのか、すまないな。じゃあ嬢ちゃんの分は銀貨2枚と銅貨50枚な」


「ニャ。払うニャカコ」


「え? あ、うん」


ニャットが銀貨5枚、そして私が銀貨2枚と銅貨50枚を支払う。


「毎度。この切符を持って馬車の乗り口のいる係員に見せれば乗せてくれるぜ」


「分かったニャ」


 代金を支払った私達は、切符を受け取って馬車へと向かう。

 えっと……今、金額おかしくなかった?


「二人頼むニャ」


「はいよー、大人一人に子供一人ねー!」


「やっぱ間違ってるじゃん! すいません、私大人です!! 代金間違ってます!」


「はいはい、後ろがつかえてるから早く乗ってねー」


「いやだから、って、ニャット!?」


 料金が間違っているから不足分を払わないとと係の人に行ったにも関わらず、私は馬車の中に押し込まれ、更に股下から潜り込んだニャットに乗せられて無理やり馬車の奥に連れて行かれてしまったのだった。


「だから子供じゃないってーっ!!」

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