第5章 熱砂の国編

第125話 熱砂の国の玄関口

「暑ーい!!」


 雪国の町を出て隣国の国境を超えると、そこは一面砂の世界でした。


「って、なんでやねん!!」


 何で雪国の隣がめっちゃ熱い砂漠の国なの!?


「パルフェムは火の精霊の力が特別強い国ニャ。その分暑くニャるのは当然ニャ」


 ええい、ファンタジー理論めぇー!


「日陰に入れば涼しいのニャ」


そう言われて日陰に入ると、確かに涼しい。


「あっ、ホントだ」


確か地球の砂漠もそうなんだっけ? 砂漠は湿度が低いから、その分日差しのあるなしで温度がかなり変わるってテレビで見た覚えがある。だから夜はかなり寒いんだよね。


 ってな訳で、私達は砂漠の国パルフェムにやってきました。

私がやって来た国とパルフェムは、両国の国境線を挟むように一つの町を作っている。

丁度町の中央に国境線を示す壁が建っていて、その中央の門を通るとこんにちは隣国って仕組みだ。

 ちなみに入国に必要なのはお金だけ。パスポートとかは一切不要。

 永住しようとすると別らしいけどね。


面白いのは、門を越えた瞬間、別世界に来たかのように町の作りや雰囲気が変わった事。

一瞬で外国に来た感を味わえるのは、某所のテーマパークか万博のよう。


あと何故か温度まで変わった。

この辺りは北都に比べたらだいぶ暖かい土地になっていたけれど、それでも門を通る前と後じゃ段違いだ。


「いやホント温度の変化が応える。これだけ暑いと、この国に長居はしたくないなぁ。さっさと通り抜けて別の国に行こっか」


「同感にゃ。ニャーの毛皮に熱が篭るのニャ」


 あー、ニャットは毛量が多いもんね。

 という訳で私達はさっさとこの国を通り過ぎる事を決意する。


「それじゃあ荷物を揃えたら次の町に行こうか」


「ニャ、その為にも熱対策は必須ニャ。服屋に行くのニャ」


「服や? 薄着をすればよくない?」


「馬鹿言うニャ。この国で肌を晒してたらあっという間に火傷するのニャ。ちゃんと日差し対策をしてからでないと野垂れ死にニャ」


 火傷? 流石にそれは大げさでは?


「大げさじゃニャいのニャ。この国は火の精霊の力が強いと言ったニャ。だからこの国の日差しは火の精霊の影響でダメージを受けやすいのニャ」


「ニャんですと!?」


 そんなゲームみたいな事ってある!?


「ニャが甘いのニャ。だから周りの連中も皆日差し対策をしてるのニャ」


 言われて周囲を見てみれば、町の外へ向かう人たちは皆かなりの重装備をして肌を晒していない。

 町の住人らしき人達も彼等程ではないけれど肌を晒していない。


「ここで日差し対策をせずに外に出ようとしたら、衛兵に止められるのニャ。自殺行為だからニャ」



 まじですかー。どんだけ殺人的なのこの国の日差しは。


 ◆


 という訳で福屋さんにやってきました。


「いらっしゃいませー! 日差し対策の服をお求めですか?」


「は……」


 もはやここに来る客の要件など聞くまでもないと、店員さんはこちらの返事を聞く前に服を用意してくる。


「お客様にはこちらのウォーターシープのワンピースなどどうでしょう?」


「ウォーターシープ?」


 けれど店員が取りだしたのは、日よけ効果などさっぱり無さそうなワンピースだった。


「はい、ウォーターシープは体毛に常に水分を纏う羊で、この国の日差しに対して強い耐性を涼しさを提供してくれます」


 成程、魔物素材の服だから見た目よりも涼しいって事か。


「でもそれだと肌の出ている所が火傷しちゃいませんか?」


「おっしゃる通りです。ですので、こちらのレインリーフの帽子とパンリザードのサンダルをお勧めします。レインリーフの帽子は頭を守るだけでなく、薄い水の膜を周囲に張る事で肌の露出してくれる部分を保護する機能があるのです。またパンリザードのサンダルは鉄板の上のような砂の熱から足を守ってくれます」


ふむふむ、これらの服はセット販売なんだね。


「どうでしょう、試着してみますか?」


「こちらでございます。サイズ確認に試着なさいますか?」


 おお、試着できるのはありがたいね。


「はい、お願いします」


「ではこちらでお着替えください」


 流石に地球の試着室とはいかず、店内に衝立の影で着替える事になる。


 着替えを追えると、私は店員さんとニャットの所に戻る。


「お似合いですよお客様!」


 着替え終わった私を見た店員は、満面の笑みで褒め讃える。


「えへへ」


 うん、確かに店員さんの言う通り、すっごく涼しい。

 試しに窓から差す太陽の光を受けてみるけれど、さっきまでとは比べ物にならないくらい涼しい!

 

「これまでの日差し対策の服は野暮ったくてダサい厚着ばかりなだけでなく、布が厚くて重く、風通しがとても悪くて暑かったんですよ。ですがこの服は見た目通りに風通しも良いので、この国でも快適な生活をお約束しますよ! ……その分お値段はかかりますが」


 おい待て、ボソッと付け加えたの聞こえたぞ。

 しかし成る程、町の中は全身を覆う服の人が多かったけど、そう言う人達はお金が無いから安い日差し対策をしていたんだね。


 そしてお金に余裕のある人は、この服のように高価な魔物の装備を買うと。

 でも確かにこの服の快適さは素晴らしい。あとはお値段次第かな。


「お幾らなんですか?」


「はい! これ等一式で金貨30枚ですが、今なら特別に金貨20枚でご提供させて頂きます!」


「うわたっか」


 うん、予想以上に高いわ。

 普通に高級品というか、ちょっとしたドレスの金額じゃん。

 どう考えても庶民には無理な金額ですありがとうございました。


「えっと、もっと安いヤツでお願いします」


「ちっ、かしこまりました」


 い、今全く舌打ちを隠してなかったぞこの人!?


「ちぇーっ、せっかく店長が無駄に仕入れた高級不良在庫ハケると思ったのに」


 凄いな、めっちゃ堂々と不良在庫って言いきったぞ。


「こちらでございます」


そう言って店員さんが持ってきたのは、町の外へ向かっていた人達が来ていた物によく似た服だった。

 さっそくこの服も試着させてもらう。


「えっと、これでいいのかな?」


 初めて見るタイプの服を着こむと、私は店員さんとニャットの所に戻る。


「お似合いですよお客様!」


 着替え終わった私を見た店員は、さっきと同じ満面の笑みで褒め讃える。

 いやさっきダサいって言ってたじゃん。良く堂々とそんなセリフが口を出るな。

 流石のプロ根性だよ。


「けど……」


 日差し対策の服を着た私は思う。


「めっちゃ暑くて重い」


 そうなのだ、この服、凄く暑いのだ。それに店員さんが言っていた通り重い。


「こちらは一番安いものになります。魔物素材を使った服だとこれよりお高くなりますが、軽くて涼しいですよ」


 成程、一番キツイのを着せておいて、これが嫌ならもっと良いのを買えって事ね。


「じゃ、じゃあ、他のお勧めも見せて貰えますか?」


「……それが、お客様くらい背丈のお子様は、危険な事もあってあまり町の外に出る事はないのです。ですので旅用の日差し対策衣装は数が無いのです」


 待ってほしい、私は立派なレディだ。なのでお子様という指摘は的外れと言わざるを得ない。訂正を要求したい。


「お客様の背丈に会う服となると、後は先ほどのワンピース一式くらいしかうちではご用意できないのです」


 おいおいマジか。他には不良在庫しかないんかこの店。


「じゃあ一番近いサイズの服を裾合わせをしてもらえますか?」


「言いにくいのですが、そうなると殆ど作り直しになるので、一から作った方が宜しいかと。特注ですので、他の仕事の合間にやって貰って数ヶ月かかりますね」


 だめじゃん!! こうなったらほかの店にいくぞ!!


「お客様、自慢ではありませんが、当店はこの国の陸港の町で一番の品ぞろえの自負があります。他の店舗に言っても子供用は魔物素材を使わない重いものばかりだと思いますよ」


 よし、私は子供だから問題ないな!

 いざ次の店!!


「すみませんね、ウチには子供向けのサイズは売ってないんだ」


「ごめんなさいね、子供用だとこれ暮らしかないわね。何せ需要が無いから」


「あー、魔物素材使用で子供用となると王都から取り寄せになるな。二、三ヶ月かかるがいいか?」


 ……どっこにも売ってねぇ。

 って言うか何で皆子供用って付け加えるの!? 小柄なレディ用って言うべきでは!?


「いらっしゃいませ!!」


 そして再び最初の店に戻って来た私達。


「さっきのワンピース一式ください」


「毎度ありがとうございます!」


 今日一番の満面の笑みを浮かべる店員。くっ、何だこの敗北感。

 でもしょうがないんだよ、だって町中を日陰から日陰に移動しながら暑い思いをしてきたんだよ!

その所為であのワンピースの快適さが忘れられないんだよー!


ふん、いいもん! 北都でたっぷり設けたんだから、この程度の出費全然痛くないんだから!

これも必要経費だよ、必要経費!


「ぜーったいこの国でも大儲けしてやるぞーっ!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る