第116話 足元に埋もれていた希望
「え? ロスト君が戻ってない?」
翌日、ロスト君に改めてラマトロ討伐の依頼、という名目の協力に行こうとした私の下に、ノーマさんがやってきた。
そして彼女は昨晩ロスト君が家に戻ってこなかった事を私に告げたのだ。
「お嬢様に妹さんの様子を見る様に言われていた事もあって、あの少年が帰ってくるのを待っていたのですが、夜になっても彼が帰って来る様子はありませんでした」
「それは心配……あっ! じゃあリルクちゃんはあの家で一人に!?」
「いえ、彼が戻って来る様子が無かったので、一旦屋敷の私の部屋に連れて帰りました。彼の帰りを待つと言ってきかなかったのですが、彼に頼まれたと誤魔化して納得してもらいました」
そっか、リルクちゃんはノーマさんが保護してくれたんだね。安心したよ。
「念のため男性の使用人に見張りを頼んでおいたのですが、今のところ戻ってないようです」
「そうですか……」
じゃあ未だにロスト君は家には戻ってないんだ……
「って事は、ロスト君は町の外で一晩明かしたって事ですか!?」
「その可能性が高いかと。門番も町に入って来る者は居なかったと言っております」
それって不味くない? 私の合成した盾があるから、多少は寒さに耐えれるかもしれないけど、一晩中となると流石にヤバい気がする。
「こんな時こそ深探者に何とかしてほしいのに、そのロスト君が居ないなんて!!」
こうなったらもう一度冒険者ギルドに行って、深探者の可能性がある冒険者だけでも教えてもらおう!
後は本人達に会って本物なのか聞いてみるしかない!
「よし、冒険者ギルドに行こうニャット!!」
◆
「駄目だったぁ……」
冒険者ギルドにやってきた私は、受付のお姉さんの紹介で深探者かもしれない、そこそこ実績のある冒険者さん達を何組か紹介して貰った。
で、彼等に事情を話してみたところ、報酬次第では引き受けてもいいと中々に好感触だったんだけど、そこでニャットからストップが入ったんだよね。
「コイツ等じゃ実力が足りニャいニャ」
当然そんな事を言われたら冒険者達も良い気分はしない訳で。
「なんだとテメェ!」
ニャットの辛辣な言葉に怒った一部の冒険者が彼に襲い掛かったんだけど、あっさりと返り討ちにあってしまう、逆にその言葉を証明してしまう顛末になっちゃったんだよね。
そして一部始終を見ていた他の候補達もそそくさと去ってしまった。
「アイツ等はただ無謀な冒険が上手くいっただけの連中ニャ。極限環境で活動できるだけの実力もセンスも感じられニャかったのニャ」
……だそうです。
そんな訳で深探者探しは難航していたのである。
「うーん、そもそもあんな吹雪の中で自由に動けるのがおかしいんだよね」
私は北部に来てまもなく、吹雪に遭遇して遭難しかけた事を思い出す。
あの時はニャットですら方向が分からなくなってたからなぁ。
「マーロックさんに助けて貰えなかったら、間違いなく死んでたよねぇ……」
本当にマーロックさんには感謝してもしきれないよ。
命の恩人だよ!
「って、あれ?」
そういえば、何でマーロックさんは吹雪の中を歩いていたんだろう?
地元の人なら、吹雪が起きそうな雲模様には、ある程度察しが付くだろうし……
場合によっては近くの町か村まで戻った筈。
そのおかげで助かった訳なんだけど、今にして思えば、あまりにも危険な行動じゃないだろうか?
「それともあの人にとっては、吹雪の中での活動はそれほど危険でもなかった?」
彼にとってあの環境は逆に慣れ親しんだものであったとしたら?
もしかして、という気持ちが私の脳裏によぎる。
「マーロックさんがもしそうなら……ロスト君を助けに行けるかも!」
そう思い立った私は、駆け出す。
「どこに行くのニャ?」
「マーロックさんの宿!! もしかしたらあの人が深探者かもしれない!!」
◆
そうしてやってきたのは、マーロックさんが泊っていると言っていた『吹雪の暖炉亭』。
前回は店内のあまりの世紀末ぶりに回れ右してしまったけれど、今回は逃げないぞ!!
ガチャリと扉を開けて中をそっとのぞき込む。
「「「「ヒャッハーッッ!!」」」」
スッ、パタン。
「ニャニ閉めてるニャ。入るんじゃニャかったのか?」
「い、いや、ちょっと心の準備が」
だって店の中にはいかにもヤバそうな人達が朝からご機嫌で酒かっくらってるんだよ!?
目つきなんかもう完全にキマっちゃってたし!
「いいからさっさと開けるのニャ。時間がニャイんじゃニャかったのか?」
そ、そうでした。ただでさえロスト君の安否が気にかかってるんだ。急いでマーロックさんに会わないと!
「…………~っっ!!」
よし、開けるぞ!
「とっとと開けるのニャ」
呼吸を整えていざ開けるぞ! と気合を入れた瞬間、ニャットが宿のドアを蹴り開けた。
「って、なにやっとるんじゃーっ!!」
「手間を省いてやったニャ」
「もっとひっそりした手段を選んでよぉーっ!!」
あわわわっ、さっきのヤバい人達にバレたらどうしてくれるのさー!!
「それよりもいいのニャ?」
「何が!?」
「アイツ等」
「アイツ等?」
ニャットのモフモフハンドの示した先を見ると、そこには無言でこちらを見つめる荒くれ者達の姿が……
し、しまっ……
「「「「……ガキだ」」」」
「っ!?」
荒くれ者達が一斉に口を開く。
おっと私は子供じゃないので違いますねはい私のことですよね分かってますよちょっと現実逃避したかっただけですでもホントおっかないんですよ筋骨隆々の世紀末な格好をした荒くれ者の集団とかリアルで見ると危機感しか感じません(ここまで脳内で1秒)
突き刺さる荒くれ者の視線から逃れる為、後退ろうとしたその時だった。
「「「「威勢のいいガキだぁーっ!!」」」」
「うぎゃぁーっ!!」
◆
「呼ばれてきてみれば一体なんだコレは」
宿の奥からやって来た人の姿を見た私は、遂に救い主が現れたと心から安堵する。
「マ、マーロックさぁん……!!」
「むっ? お前は確か……マコか」
マーロックさんが呟いたのは、以前私が素性を隠す為に名乗った偽名だった。
「お、お久しぶりですぅ……」
「ああ、久しぶりだな。で、何をやってるんだ一体?」
「ええと……」
困惑気味のマーロックさんの問いに、私もなんと答えたものかと当惑する。
そんな私の周囲には……
「はっはー! これも食え! 美味いぞ!!」
大量の荒くれ者達が料理の盛られた皿を差し出している風景だった。
「細っこいな、肉食え肉! ほらよ!!」
「ヒャッハー! コイツはガキだぜ! そんなに食えるかよ!! 菓子食うか?」
「マーロックさぁん……」
「あー、だいたい分かった。お前ら、この娘は俺の客だ。あまり困らせるな」
マーロックさんが慣れた様子で荒くれ者達を追い払ってくれたお陰で、私はようやく人心地つく。
「すまんな。見た目はアレだが気の良い連中なんだ。久しぶりに子供がやって来てはしゃいでいるだけだ」
「は、はぁ……」
いやほんと、巨漢の荒くれ者達が大挙して向かってきた時は死を覚悟しましたよ……
「しかしこんな所に何の用だ。ここは見た通りお前のような真っ当な子供の来る場所じゃないぞ」
子供ちゃうわ! といういつもなら脳内ツッコミをするところなんだが、今はそんな時間がないので我慢。
「その事なんですが、マーロックさんに頼みたい事があってきました」
まっすぐにマーロックさんを見つめて言うと、マーロックさんも真剣な顔になってワタシを見つめる。
「俺に頼みたい事?」
「はい。マーロックさん、吹雪の中で人探しを頼みたいんです?」
「……話を聞こうか」
私はティキルタちゃんの事情を誤魔化しつつ、ロスト君の事、リルクちゃんの病気を治療する為にラマトロの肝が必要で、彼がそれを探すために吹雪の中を探し回り、とうとう昨晩戻ってこなかった事を話した。
「成る程な。それで吹雪の中で人探しか」
「ええ、私と初めて会った時のマーロックさんなら、吹雪の中でも動ける可能性が高いと思ったんです」
「たまたま吹雪に出くわしただけかもしれんぞ。どれだけ慣れ親しんでも、自然は不意に牙を剥いてくるからな」
「分かっています。でも私が頼れる相手はもうマーロックさんしかいないんです」
「もう死んでいるかもしれんぞ?」
「承知の上です。それで、吹雪の中での人探し、可能ですか?」
「……難しいな」
けれど、マーロックさんの答えは芳しいものではなかった。
「っ! ……そうですか」
駄目、かぁ……
「だが、俺以外にも頼むのなら話は別だ」
「え?」
どういう意味かと問おうとしたその時、マーロックさんは立ち上がる。
「おいお前等、聞いていたか?」
「「「「おうよっ!!」」」」
「ふぇっ!?」
その声に応えたのは、さっきまで騒いでいた荒くれ者達だったのである。
「俺達全員で動けば、その小僧を探す事も出来るかもしれんぞ」
「え? 全員? でも外は吹雪が……」
「マコの言う深探者って奴はな、確かに数が少ないが、必ずしも専門家が少ない訳じゃないんだ」
「え? 何か矛盾してませんか?」
少ないのに少ないわけじゃない? どういう事?
「つまりだ、専門とする内容によっては、意外とできる奴もいるってことさ。ここに居る連中のようにな」
「それってまさか……」
「そうだ。この吹雪の暖炉亭に居る連中は、全員吹雪の中での活動に特化した冒険者だ」
「え、ええーっ!?」
マジで!? ここにいる荒くれ者が全員深探者!?
あれだけ探し回ったのに!?
「でも冒険者ギルドじゃ吹雪の中で活動できる人はほとんどいないって言ってましたよ!?」
「ああ、俺達はギルドの付近でそういった話はしないからな」
「何でですか?」
「俺達の交換する情報は、危険な吹雪の中での活動がメインだからな。だが他の連中にとって危険な吹雪の中での活動を俺達が当たり前のように話していたら、情報を得た連中は吹雪を舐めてかかるだろう。そうなりゃあっという間に遭難して全滅なんて事になっちてしまう。だから俺らは下手な連中に情報が漏れないよう、ここに集まって情報を交換してるのさ」
「そうだったんだ……」
成程、ここは吹雪内での活動を行う深探者御用達の秘密サロンだったって訳か。
そして情報が外に漏れないから、ギルドも深探者の全容を掴めず規模が分からなかったと…
うん、どう見ても世紀末な人達の集まるヤバイお店でしたけどね……
「えっと、それじゃあ、ロスト君の捜索を受けて貰えるんですか?」
「ああ、俺一人では小僧一人を探すには時間が足りん。だがこの連中が居れば何とか間に合うだろう」
「っ!! ありがとうございます!!」
「だが俺等全員を雇うとなったら、結構な金がかかるぞ? 下層民の小僧一人の為に支払えるのか?」
「大丈夫です! 支払いのアテはありますので!!」
それこそスポンサーのティキルタちゃんの財力が力を振るうよ!
「分かった。ならギルドに正式に捜索の依頼をしてくれ。その間に俺等は準備をしておく」
「分かりました!!」
仕事を受けて貰えることになった私は、即座にニャットに乗ってティキルタちゃんのお屋敷に向かうと、マーロックさん達に依頼を受けて貰えたこと。そして報酬が必要である事を告げる。
「分かりました。そういう事でしたらすぐに冒険者ギルドに依頼を出しましょう」
そして冒険者ギルドにはマーロックさんのパーティへの指名依頼という名目で依頼が行われる。
「よし、この吹雪の中で歩き回ってる小僧だ。人相書きの必要もない。見つけたら首に縄をかけても連れ帰ってこい!!
「「「「まぁかせろぉーっ!!」」」」
マーロックさんの号令に怪しい男達が不穏な雄叫びを上げる。
「ヒャッハー! 妹思いのお兄ちゃんを俺達が見つけ出してやるぜぇー!」
「ついでにラマトロも俺が狩ってやらぁー!」
「ひひっ、ラマトロの肝は繊細だって分かってんのか?」
「モチロンだぜぇ〜。お姫様を扱う様に優しく切り裂いてやるよぉ〜!」
……これ、ロスト君とラマトロがビックリして逃げ出したりしないかな?
「どう見ても山狩りだニャア」
しっ!! 思っても言うんじゃありませんニャット!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます