第117話 雪中の捜索

「よし、この吹雪の中で歩き回ってる小僧だ。人相書きの必要もない。見つけたら首に縄をかけても連れ帰ってこい!!」


「「「「まぁかせろぉーっ!!」」」」


 マーロックさんの号令に荒くれ者達が山狩りさながらの雄叫びを上げて町を飛び出してゆく。

その光景に町の人達が何事かと驚いていた。うん、驚くよね。

方向が逆だったら町に押し入ってきた盗賊団にしか見えないよ。


「お、おい、お前達外は吹雪だぞ!?」


 驚きつつも流石は門番。

 彼等は吹雪の中へと飛び込んでゆく荒くれ者達を制止する。


「知ってるぜぇー! だがガキが迷子になってんでなぁ、大人が探しにいってやらねぇといけねぇだろぉーっ!」


「そ、そうなのか……え? 探し?」


 言ってる事の真っ当さと見た目の違和感に頭がバグって混乱する門番達。ですよねー。

 その混乱の隙を縫って冒険者達が吹雪の中へと飛び込んでゆく。


「よし、俺達も行くぞ」


「え?」


「ニャッ」


 マーロックさんの言葉に首を傾げていた私の股下にニャットが頭を潜らせて、私を背中に乗せる。


「え? え?」


 そしてマーロックさんが吹雪に飛び込むと、ニャットもその後を追いかける。


「ええ!? 何で私まで!?」


 って言うかさっき人相書きの必要ないって言ってなかった?


「仕方ないだろう。お前しかロストという小僧の顔を知らんからな。偶然何も知らずに外を歩いている赤の他人のガキを拾ってきちまう可能性もある。そしたら連中も捜査を打ち切って町まで戻るからな、人違いだったらそのガキは間に合わなくなるかもしれん」


 まぁそれもそうか……

 でもだったら何でさっきみたいなことを?


「アイツ等に難しい事が分かる訳ないだろ?」


 お、おおぅ……


「でもどうやって皆さんと合流するんですか? 町で合流した方がよくないですか?」


「俺達は特別な匂いと派手な音の出る香を持っている。遠くに居たら吹雪の風でかき消されちまうが、キツい匂いだから近くなら十分気付ける匂いだ。これに気付けるほど近づければ、俺達なら仲間を見つける事が出来る」


 成程、視界の代わりに匂いと音で仲間に知らせるんだね。


「なるべく目を離さない様にするから、アンタも俺から離れない様にしてくれ」


「分かったニャ」


 あ、はい。最初から私には期待してないんですね。その方がありがたいけど。

 そんな訳で私もロスト君の捜索に加わる事になってしまった。

 幸いニャットに乗っていてマーロックさんの姿を見失う心配がないので、私は周囲を見回す。けれど……


「真っ白で全然見えない……」


 うーん、地球に住んでいた頃は、大雪の日でもそれなりに遠くまで見えてたんだけどなぁ。

 これが本場の雪国って訳か。


「酷い吹雪だと伸ばした手が見えなくなることもある。今日はマシなほうだ」


 どんだけ猛吹雪なんですかね? それもう雪の中を歩いてるのと同じなのでは?


「でもこんな吹雪じゃロスト君がどこに行ったのかの目星もつきませんよね?」


「ああ、だから仲間達が町を中心に放射線状に進んで周囲を確認している。これなら町の近くは網羅できるはずだ。問題はラマトロが見つからない事に業を煮やして遠出していた場合だな」


「その場合はどうなるんですか?」


「人数が足りないからな。その場合は仲間を一か所に集めて、一定範囲ごとに集中捜索だ」


 マーロックさんは足元の雪に二重円を描いて、そこに線を引いていってエリア分けをする。

 なるほど、内側の円が今まで捜索した部分で、そのさらに外をこうやって分割したエリアごとに集中して捜索すると。


「あとは根気よく探し続けるだけだ」


 説明を終えたマーロックさんは、再び吹雪の中を突き進んでいく。


 ◆


「そろそろ仲間と合流するぞ」


 全周囲捜索の限界に来たらしいマーロックさんは、一旦仲間との合流を宣言すると足元の雪を掘って地面を露出させる。

そして懐から短い紐の伸びた丸い玉を取りだす。

なんかゲームとかに出てくる爆弾みたいだね。これが連絡用の香なのかな?


 私の予想した通り、マーロックさんが紐に火をつけると、ジジジと音を立てながら紐が燃え始める。


「よし、離れろ」


 マーロックさんに退避を命じられ、私達は玉から離れる。


「何でわざわざ雪を掘ったんだろ?」


「ああすると、周りの雪が風を遮って火が消えにくくなるのニャ」


 ああ成る程、風を遮るのが目的だったんだね。


 そして、少しするとシュポッという音と共にモクモクとケムリが吹き始め、ババババッという音と共に何とも言えない匂いがしてきた。


「ブニャッ!!」


 その匂いがキツかったのか、ニャットが鼻を抑えて雪に顔を突っ込む。


「ニャット!?」


「キツイニャァ~……」


 あー、動物には強い匂いが嫌いな子もいるもんねぇ。

 仕方ないので私が周囲を見回して警戒するんだけど、はい、全然見えないですね。


「おう、マーロックの旦那」


「ウキャァァァァッ!?」


 突然吹雪の中から荒くれ者の顔がニュッと浮き出てきて、思わず悲鳴が漏れる。


「こっちは居なかったぜ」


「こっちもだぁ」


 次々と吹雪の中に浮き出る荒くれ者達の顔。完全にパニックホラーです。全然ありがたくないです。


「悪い、魔物をぶっ殺してたら遅くなった」


 そして最後に、血まみれの荒くれ者が現れ、私は危うくオシッコ漏らすところでした。


「やはり近くにはいないか」


「そうなると、集中捜索しかねぇな」


「そうだな。よし、相手は新人冒険者だ。素材採取も兼ねている事を考えて、森を中心に捜索する」


「「「「おおぉぉぉぉぉぉっっ!!」」」」


 だから何で雄たけびを上げるんですかね?


 ◆


 より遠くまで捜索する為、私達は森へとやってきた。

 森の中は木々が遮ってくれるからか、吹雪の勢いが弱く、多少は遠くまで見えるようになっていたけれど、森の中も雪で埋まって真っ白だから、やっぱり迷子になりそうなんだよね。


「やはり森を選んだのは正解だったな」


 マーロックさんが突然木の傍にしゃがみ込んだと思ったら、そんな事を言いだした。


「え? 何でですか?」


「見ろ、ここの雪だけ不自然にへこんでいる。……やはりな。薬草を採取した後だ」


 マーロックさんが指さした場所の雪をそっと取り除くと、地面には何かを掘り起こしたと思しき小さな穴が開いていた。


「野生動物の掘り方じゃない。採取に慣れてない新人冒険者の痕跡だな。根の先端がちぎれて地面に残っている」


 見れば確かに穴の断面から植物の根っこらしきものが見える。


「断面もそこまで古くない。昨日今日のヤツだな」


「じゃあ!?」


「ああ、お目当ての小僧がこの辺りを通ったのは間違いないだろう」


 おお、これは希望が見えて来たよ!!

 こんな日に外に出るのはロスト君くらいのものだからね!


「行くぞ、僅かな違和感も見逃すなよ」


「は、はい!」


「ニャ」


 私達は森の奥へと進んでゆく。

 途中近くを捜索していた荒くれ者達と合流しては、ロスト君の痕跡を報告し合い、彼が進んでいった方向がだんだんと分かってくる。


「このルートだとあっちに向かった可能性が高いな」


「分かるんですか?」


「ああ、慣れている奴なら魔物が多い場所、薬草が多く取れる場所が分かるからな。一人でこのルートを見出したのなら、件の小僧はなかなか優秀な冒険者になりそうだ」


 おお、ロスト君絶賛されてるよ!!

 実は将来有望なんじゃないの!?


「だがまぁ、一人で活動を続けているのは頂けんな。冒険者として長生きしたいのなら、仲間を集めるべきだろう」


「でも彼は生まれの問題で信頼できる仲間を作りたくても作れなかったって言ってましたよ」


「それでもだ。冒険者を続けるつもりなら、どうしても仲間が必要な場面が出てくる。それに俺達の仲間にも下層民出身の奴はいる。小僧は根気よく仲間を探す事を早々に諦めちまっただけだ」


 さっきまでは褒めていたのに、ソロで活動してる事には厳しい評価を降すマーロックさん。


「まぁ、それでもお前さんのようなお人好しが探してくれるんだ。見つからないって事はないだろうさ」


 えっと、私は彼の仲間って訳じゃないんですけどね。


「見ろ、足跡だ。この部分だけ雪の堅さが違う。ふむ、足跡の雪の深さから、ここは夜に通ったようだな」


 凄い、小さくへこんだ雪を調べただけでそこまで分かるもんなの?

 これが深探者の実力ってやつなのかな……

 マーロックさんの洞察力に驚きつつも、私達は森の奥へと進んでゆく。


「それにしても魔物が全然現れないですね」


「吹雪の間は獲物がうろつかないからな。魔物も開店休業中さ。こんな日でも営業中の魔物はもっと町から離れないとな」


 あー、ロスト君も同じようなこと言ってたなぁ。

 魔物も無駄な労働は嫌なのかー。

うん、現代社会は魔物の生活スタイルを適用するべきなのではないだろうか。

 具体的には雪と大雨と台風の日はお休みにするとかさ。


「マーロックの旦那!」


 と、そこに荒くれ者の一人がやって来る。


「どうした?」


「戦闘痕を見つけた。どうやら魔物とやり合ったらしいぜ」


「吹雪の日に魔物と? 運がいいのか悪いのか分からん小僧だな」


 荒くれ者に案内されて私達は魔物と戦った痕跡のある場所へとやってくる。


「ふむ、確かに血が残っているな」


 そこの雪は荒くれ者達の手によって削り取られ、積もった雪の真ん中あたりの深さに冷えて固まった血の跡があった。

 こんなのまで分かるの!? 深探者って凄……じゃなくて!!


「まさかロスト君、怪我を負ってるの!?」


 血の量は多く、もしこれがロスト君の血なら失血死もありうる。


「落ち着け。これは魔物の血だ。小僧の血じゃない。傷を負っていたとしても、浅いものだろう」


「そ、そうなんですか……」


 よ、良かった。これでロスト君を見つけた時には死体になってたとかだったら、リルクちゃんに何て言えばいいのか分からなくなるところだったよ。


「だが不味いな」


「何がマズいんですか?」


「魔物とこれだけハデに戦ったなら、倒した魔物を回収して町まで戻ってきた筈だ。なのに魔物の死体も小僧の死体も無いという事は、考えられる状況は二つ」


「ど、どんな状況なんですか?」


「魔物は生きていて、小僧は逃げる為に町から離れた方向に逃げた。もう一つは小僧は丸呑みにされた後かだ」


 それはマズイ!! もしそうならロスト君は今でも追われている最中か、もうこの世にいないって事なんだから!!


「急いだほうがいいな。お前は捜索の範囲を狭める様に言ってくれ」


「分かった」


 マーロックさんの指示を受けた荒くれ者達は、手分けをして他の荒くれ者達に報告に向かう。

 そして私達も、急ぎ更なる奥へと進むのだった。


 ◆


「痕跡が分かりやすくなってきた。近いぞ」


 流石にここまで近づくと、マーロックさんの指摘があれば私にも痕跡が理解できるまでになっていた。


「小僧を襲った魔物も近くにいる可能性がある。気を抜くな」


「はい」


 大きな声を上げたら魔物に見つかる可能性もあるので、私達はギリギリ吹雪にかき消されない声で話す。


「……っ!! 音が聞こえたニャ!」


 その時だった。ニャットが耳をピコッと動かすと、何かが聞こえたと言い出したのである。


「どっちだ!」


「右ニャニャめ前の方向だニャ! ニャーが先導するニャ!!」


「任せる!!」


 ここでニャットが先頭に立ち、音の源を求めて駆け出す。


「この先だニャ! 戦ってる音がするのニャ!!」


「よし!!」


 それだけ聞くと、マーロックさんはニャットの横に並んで、槍を構える。


「カコはニャーに覆いかぶさってしがみ付くのニャ!」


「わ、分かった!!」


 私は言われた通りにニャットの毛皮に顔をうずめてしがみ付く。

 うわぁ、フカフカァ。ちょっと雪が積もってるけど、その中はホカホカ天国です。


「おぉぉぉっ!!」


 マーロックさんの雄叫びと共に、何かがズシャッと切れる音が聞こえてくる。


「ニャァーッ!!」


 ニャットが雄たけびを上げると、フワリとした浮遊感と共にズパッと何かが切れる音が聞こえてきた。


 戦いの音はそれほど長く続くことはなく、すぐに静かになる。


「もう顔を上げて大丈夫ニャ」


 ニャットの許可が出たので顔をあげると、周囲の雪は真っ赤に染まっていた。


「奇襲に驚いたようだな。慌てて逃げだしたようだ」


 ほっ、良かった。魔物が不利を悟って逃げ出す賢さがあってよかったよ。

 あっ、それよりもロスト君は!?

 周囲を見回すと、魔物の血で汚れた地面のそばでへたり込むロスト君の姿があった。


「ロスト君!!」


 ニャットから降り、フラつくロスト君を支える。


「……おま、何……で……」


 いけない、呂律も回ってないし、顔も真っ白だ!

早く町に戻って温めないと!!


「ニャット!! マーロックさん!」


「ニャッ!!」


「よし、すぐに戻るぞ」


 ◆


ロスト君を見つけた私達は急いで町へと戻ってきた。


「遭難者だ! ぬるま湯と毛布を頼む!!」


「分かった!!」


 マーロックさんが門番に声をかけると、門番達も慣れた様子で詰め所に向かい、ぬるま湯の入ったカップと毛布を持ってきてくれた。


「ほら飲め、温かいぞ」


門番がカップをロスト君の口に当ててぬるま湯を流し込むと、ロスト君の喉がコクコクと鳴ってぬるま湯を飲み干してゆく。


「よし、次はもう少し熱い湯を頼む」


 どうも冷え切った体に熱い湯を与えると体に悪いらしく、少しずつ温かいものを与えていく必要があるそうな。

 そして詰め所に案内された私達がロスト君を暖炉の傍に座らせて温めていると、お湯のお代わりが運ばれてきた。


「ほら、ポーションのお湯割りだ。少し熱いから気を付けろ」


 ポーションのお湯割り!?

 流石異世界、そういうのもあるのか……


「っ! ……コク……コク」


 ポーションのお湯割りの熱さに驚いたロスト君だったけど、すぐにまたポーション湯を飲みだす。

 そして二杯目を飲み干したロスト君の顔色はわずかに赤みを取り戻していた。


「よし、凍傷もない。昨夜から吹雪の中を歩いていた割には運の良い小僧だ」


 ロスト君の手袋と靴を脱がしたマーロックさんが、ロスト君の手足を見て凍傷の心配はないと太鼓判を押してくれる。

 そっか、遭難してたんだから、凍傷の心配もしないといけなかったんだ。

 それにしても凍傷かぁ、もしなってたらロストポーションが必要だったのかな? それとも品質の良いハイポーションでなんとかなったかな?


「俺はまだ捜索をしてる連中に小僧が見つかった事を伝えに行ってくる。小僧の面倒は任せたぞ」


「はい。マーロックさん、ありがとうございました!」


「気にするな、仕事だからな」


 私はマーロックさんを見送ると、ロスト君の様子を見る。

 魔物と戦っていたからか、服には全身に小さな傷の痕跡があるけど、大きな傷はないみたいだ。

 と言うか、服に染み込んだ血が凍って、傷口から流れる血を塞いでいたのかな?


 それだけだと傷口付近が凍傷になっちゃいそうだけど、これは私の盾の寒さ耐性のお陰だったりするんだろうか?


「なんにせよ、助かってなによりだよ」


 傷も今のポーションのお湯割りで治ったみたいだし。


「全くだ。吹雪の中を遭難しかけて助かるとは、運のいい小僧だぜ」


 門番さん達も、ロスト君が助かった事に安堵してくれていた。

 あれ? でもロスト君は下層民なのに悪い印象を持ってないのかな?


「俺達が下層民を嫌ってないのがおかしいと思うか?」


「えっと……」


 私の視線の意味に気が付いたのか、門番さん達がそれを聞いてくる。

 しまった、気付かれちゃったか。


「まぁ町の連中からしたらそれが当然だな。けどな、俺達はコイツが毎日毎日必死になって吹雪の中を歩きまわって薬草を取って来てるのを知ってる。門番だからな。だからかねぇ、必死になって這い上がろうとしてる奴を、まぁ応援したくなったんだろうな」


 そっか、この人達は門番だから、毎日外に出ては凍えて帰って来るロスト君を見て来たんだ。

 そりゃ情も湧いちゃうよね。


「そうだな、下層民街で何もせずに管まいてる連中よりもこの小僧の方がよっぽど立派だよ」


 何より、彼等は碌に働かずに時には犯罪行為で稼いでいる一部の下層民とロスト君は別だと告げる。

 全ての人が彼等のように理解してくれている訳じゃないけど、分かってくれる人はちゃんといるんだね。

 最後に、町の連中には言えないけどなと言って門番さん達は小さく笑う。


「そっか、これがマーロックさんの言ってた事なんだ」


 分かってくれる人は分かってくれる。だったら後は自分から歩み寄ればいいと。

 今思えば、冒険者ギルドでロスト君を下層民だと馬鹿にしていない人達は確かに居た。

 ロスト君がその事に気付きさえすれば……


 その時、ゴトンと言う音が詰め所の中に響く。

 何が落ちたのかと驚いて振り向けば、ロスト君が詰め所のドアを開けようとしたのか、ドアにもたれかかっていた。


「っ……」


「って、どこに行こうとしてんの!? まだ休んでないと駄目だよ!!」


 私は慌ててロスト君を暖炉の下に連れ戻そうとするんだけど、彼は私の手を振り払って外に出ようとする。


「そんな暇はない! すぐに行かないといけないんだ!!」


 そうか! リルクちゃんだ! 昨夜は家に帰らずにリルクちゃんを独りぼっちにしてたんだ。そりゃ心配だよね!


「リルクちゃんなら大丈夫だよ。今はノーマさんの所に居るから!」


「っ!? ……ノーマ?」


 リルクちゃんの事を言うと、ロスト君がピタリと止まる。

 そしてノーマさんの名前に首を傾げた。


「ほら、その盾をくれた人だよ」


「……そんな名前だったのか、あの人」


 あっ、ロスト君ノーマさんの名前知らないんだ。


「ならそっちは心配ないな」


 そう言うと、再び外に出ようとするロスト君。


「え!? ちょっ、どこ行くつもりなの!?」


「森の奥だ」


「はぁ!? 遭難して死にかけてたのに何言ってるの!? 今出て行ったら間違いなくまた遭難するよ!」


 もしかして寒さでおかしくなっちゃった!?


「嬢ちゃんの言う通りだ。吹雪を甘く見るな。このままだと凍傷になって二度と冒険者として活動できなくなるぞ」


 門番さん達も、慌ててロスト君を引き留める。

 

「かまうもんか! それでも行かないといけないんだ!!」


 なのにロスト君は鬼気迫った様子で外に出て行こうとする。


「何でそんなに行きたいの!?」


「居たんだ! ヤツが!」


「何が!?」


「ラマトロだ! 俺を襲ってきた魔物はラマトロなんだ!!」


「……え、ええーっ!?」


 なんと、ロスト君を襲っていた魔物こそが、彼が探し求めていたラマトロだったというのだ。


「吹雪が止む前に奴を狩らないと!!」


「あっ!」


 私が驚いた隙を縫うように、ロスト君が横をすり抜けてドアを開け……


「いいかげんにするニャ!!」


「ぐぽっ」


 ズンッという鈍い音と共にロスト君の体がくの字に折れたと思うと、そのまましなびた野菜のように床に沈んでいく。

 その奥から姿を現したのは、握り拳? を中腰で打ち上げた姿勢のニャット。


「どうせその体じゃ戦っても死ぬだけニャ。さっさと寝るのニャ」


「って、何やってんのぉーっ!!」


 憐れ、ロスト君はニャットの一撃を喰らって意識を狩られたのだった……

 このネコ、容赦なさすぎだよぉ……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る